「ファッションアイテム10」ナンシー・マクドネルスミス(東京書籍)



 さて、世の婦女子の多くと同じくして、わたしもお洋服が好きであります。が、様々な趣味の放浪を続けて早幾年、自分の好きなものだけがはっきりと残り、ただしそれが自分に似合うかどうかは分かっていない、そんな境地に至っております。なにが好きかって、それはもう、緑と柄
 そう云えばバレバレかもしれませんが、そもそも、わたくし、服の趣味の良し悪し自体がよく分からない。流行をどう取り入れる以前に、流行がよくわかんない。ただ、洋服を決めるのはTPOだということと、その趣味には客観的な視点が必要だということはなんとなく分かります。それがなんとか分かるようになった歳は、もう冒険が出来ない歳でした。緑と柄って冒険じゃないのかという観点はさておいて。
 なのに、わたしはいわゆるファッション史とかそれに関する薀蓄は好きなほうです。なにぶん、金をかけたらえらいことになる世界ですので実践にはなかなか至りませんが、風俗資料としてのファッションについて知識を得るのは大好き。それを見れば、そこにいる人々がどんな人々かも伝わってくるような気がする。一枚のスカート、ひとつの指輪、大小さまざまのモチーフ。それらのどれを選んで身につけるかで、その人となりがぼんやりと見えてくる、そういうエピソードが好きなのです。さらに、そこから現われる時代の空気も。いつも思うのですが、もしわたしが70年代に青春を生きていたら、さぞかし立派なフラワーチルドレンになっていたと思います。ラブ&ピース。
 この本は、原題を「TheClassicTen」として、世の中の代表的なファッションアイテムを10個選んでいる本です。女性雑誌のファッション記者である著者自身の思い入れを入り口に、アイテムの歴史とそれがもたらす効果について、デザイナーやそれを好んだ女優のこぼれ話、ニュースや広告を含めて、饒舌に語っています。どのアイテムにも神話があり、物語がある。それがとても面白かったです。ただ、そう紹介すると、さぞかしゴージャスできらびやかなものばかりが選ばれたかのように思うかもしれませんが、選ばれた10のアイテムは、順番に「リトルブラックドレス」「スーツ」「ジーンズ」「カシミア」「白いシャツ」「ハイヒール」「真珠」「トレンチコート」「口紅」「スニーカー」です。どれかひとつ(あるいは全部)、持っているかたは多いのではないでしょうか。なおかつ、自分もこれらのどれかには思い入れがあるのだというひとも。
 ファッションに関するおしゃべりに興味がある人はもちろん、それらのものを纏ってきた過去の女性たちに関心がある人にもおすすめです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする