「原田実の日本霊能史講座―と学会レポート」 原田 実・杉並 春男(楽工社)



 古代から現代に至るまでの日本史に登場する霊能者の紹介を中心にしながら、日本における心霊、宗教の捉え方の変遷を追った一冊です。登場する霊能者は全部で30人。主なところを紹介すると、古代から卑弥呼、聖徳太子、役小角、安倍晴明に始まり、中世・近世では、日蓮、天草四郎。さらに時代は下って、御船千鶴子や出口王任三郎、谷口雅春など近代の人間を紹介したあとで、現代の高橋信次、宣保愛子などに至り、江原啓之にも言及しています。
 一般に、「霊能者」というと、おどろおどろしさ、宗教がかったイメージ、或いは逆に、いかがわしい、インチキといった様々な先入観があると思いますが、この本はとくにそういったバイアスをかけることなく、淡々と事実関係を述べています。伝説として語られる超常現象も「そういうことがあったとされます」という感じで、あえて真偽を問うかたちにすることがありません。それが、なるべく客観的に広い視点から、事実全体を述べていこうという姿勢に感じられて、好感が持てます。と学会らしいかな。また、取り扱う内容から、専門用語が頻出したりと難解でないかと読みにくさを予感されるかたもいらっしゃるかもしれませんが、口語での対談形式をとっているため、大変に読みやすいです。注釈もうるさくなく、ちょうどいい感じ。
 わたしは霊能力の実際にはあまり興味がなく、むしろ、それにまつわる人間の心の動きなどに興味があるほうなので、それを支える基本としての霊能者の立ち位置、日本の歴史における霊魂感の変化などを知ることが出来て、大変に興味深かったです。史実と超常を分けて記述し、歴史的な流れのなかでひとりひとりの霊能者を紹介していくことで、名前を知らないようなひとの紹介でも、興味深く読むことが出来ました。
 惜しむらくは全部で30人の紹介ということで、やはり多少駆け足になっているところ。ご贔屓の霊能力者に関しては、もうちょっと細かいエピソードなど、と思う人も多いでしょうけど、それを望むなら、巻末に挙げられている参考文献などを各自にあたるべきなのでしょうね。わたしとしては、なんとなく名前を知っていただけの宗教団体の出自や、その流れなどを体系的に知ることが出来て満足しました。勿論、こういう世界は深く知れば知るほど…という部分が多いのでしょうけど、まずは全体を見回すことが出来ました。こういう世界の入門書としておすすめだと思います。

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