「世界制服(1)(2)」榎本ナリコ(小学館・サンデーGXコミックス)



 1巻のあとがきで「いままでのわたしの作品をご存知のかたにはいきなりこんな内容で」と書いてあるのを読んで、ちょっと驚いたのだけど、そういえば商業で榎本ナリコ(野火ノビ太)のギャグ作品って、そんなに出ていなかったのですな。たしかに榎本ナリコといえば「センチメントの季節」に代表される性愛をモチーフにしたシリアスな作品群の印象が確かに強いのですが、わたし、もっとギャグ作品を描いてるかと思って…。けっこう読んでいる印象があったけれど、あれはぜんぶ同人誌だったのかしら…。はい、著者の作品は、幽遊白書などの同人誌作品から大好きです。「宇宙士官候補生」は未だにナンバーワン…あんなに泣いた同人誌作品はそうないと思う…。あ、あと美少女系もね!フェイバリットは「うらわかぐさのなやみより」です。  
 さて、その後の商業作品もそれなりに読んでいたものの、非常に閉じた感のある心理的な作品には息苦しくてついていけず、むしろそういったものを奥底に沈めた少女マンガ系の作品が、巧いなあ、いいなあと思っていました。すぐれたJUNE作家さんは、ある意味古典的な少女漫画を描かせるととても巧く、そっちの住人になっていってしまう傾向があるような気がします。(西炯子とか。そして最近、中村明日美子もそっちへ……)。
 しかしこの作品を読んで、やっぱりこのひとはヲタクでしたね!と膝を叩く思いです。榎本ナリコの商業作品では「センチメント」の初期をのぞけば、いちばん好きかもしれない。まあ、内容は、読みきり形式の身もふたもないギャグ作品です。同人誌時代のフリートークのかっとび具合を思い出させる勢いと、遠慮ないオタクネタのコラボが本当に素晴らしい。細かいネタのいちいちも笑えますが、わたしがいちばん笑ったのは1巻「アンチエイジ」の年代別ラブレターのリアリティかもしれません。すごい。パねえ。二巻になると勢いが少し落ち着いて、馬鹿笑いというよりは、ふと腑に落ちるような面白さがメインになっていきますが、それでも警子ちゃんの「アッハハハハハ、大学爆破したって、世界が変わるわけないじゃないですかー」には噴き出した。ひどいひどいひどーい(笑)でも、本当(笑)。
榎 本ナリコといえばシリアスだと思ってる人は騙されたと思って読んで欲しい。容赦ないオタクネタはより男子に向けられてはいますが女子も楽しい。設定がどんどん膨らんじゃう「聖モエスの箱舟学園」とか、ああ…このひとオタク…って感じで、大変に楽しいです。しかもSFがいけるオタク。それも、実に懐かしい匂いがする。2巻の「『地球』に落ちてきた男」なんて、最初はぜったいクリント・イーストウッドの「白い肌の異常な夜」だと思ったのですが、それがまさかあんなどこかのどかなラストに到着するなんて。
 ちょっと派生する感じで思います。もちろん榎本ナリコもそうであることは否定できないどころの騒ぎではないのですが、女子のオタクっていうとイコール腐女子、みたいな一般のイメージがあるのだけど、それだけじゃないんだよ、こんなに、アレなところをそんな属性関係なく、女子だって持ってるんだよ、と思いました。腐女子という概念が一般に受け入れられたのは、それが性愛という男性に理解できるキーワードを持っていたからこそ、であるとは思いますが、わたし、正直言って、オタクは性別も人種も国境も越えるつながりを持ちたくなくてももっていると思うので、それはあくまでオタクに数ある属性のひとつと割り切っていただいて、「同じ目をしている」ひとたち同士が、ただ純粋にいっしょに楽しめたらいーなーと思うのです。このマンガには腐女子ネタもあるのですが、それもあくまでネタのひとつとしての扱いだし。世の中にはきっといっぱいいる、こういう目をして楽しめる作品を描けるひとたち。わたしも正直、そのなかの一員として(でもなんでだろう、バリヤは張りたいな…)、一緒に愉しんでいきたいなと思います。

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