「デビルマンは誰なのか」永井豪(講談社)



 「デビルマン」「キューティハニー」「マジンガーZ」「ハレンチ学園」等々、代表作を挙げていけばきりがありません。そんな日本マンガ界の大御所である永井豪先生による自作解説のエッセイ集です。わたしは豪先生の熱心な読者というわけではないのですが、記憶を呼び起こしてみれば、「デビルマン」などの大人になってから通読して驚いた作品はともかくとしても、己のヰタ・セクスアリスに「まぼろしパンティ」の影響は隠せなかったり(それでも当時はこどもだったので、いま読んだほうが色々と意味が分かってインパクト大な可能性がある…永井作品は本当にとんでもない)、「手天童子」の見事な構成に胸ときめかせたりした記憶があります。「キューティハニー」は、アニメよりも原作のハードな展開にびっくりした。ハニーの友達がハニーをかばって死ぬ場面で、超泣いた。ざっと語っても、こんな風にいくらでも続けることが出来る。長年のキャリアを持つマンガ家さんは、ひとの人生に沿った作品を生み出し続けるという奇跡を起こし続ける才能がありますが、豪先生もまさしくそのひとり。現在でも複数の雑誌で連載中です。
 あ、正直、いまの感覚では絵が古いと受け取る人もいらっしゃるかもしれませんが、過去の作品は、それも含めての時代性を愉しめばいいし、現在においても、その描線はむしろキッチュでほかの誰もたどりつけない境地に達していると思います。真面目に。齢65歳にして未だ枯れないその姿勢は、つい先日の東京都青少年健全育成条例改正に反対して立つお姿にも現われていると思います。
 わたしがこの本を手に取ったときには、その記述をとくに意識して、ではなかったのですが、「ハレンチ学園」が発表当時にPTA等にどれだけ攻撃され、叩かれたかということが、まず語られます。けして被害者ぶった記述ではありません。むしろ、その経験から、当時の教師という人種が「ハレンチ学園」から、なにを読み取り、そして恐れたのかを読み取る聡明さが光ります。優れた創作物の多くがそうですが、「ハレンチ学園」もまた、権威や常識という厚い衣に隠された真実を突いてみせたということが分かるのです。
 また、それ以外にも「デビルマン」や「マジンガ―Z」「ゲッターロボ」などの名作についての解説が掲載されていて、それも面白く興味深い。個人的には、豪先生が長い間主題として扱い続けている「鬼」についての考察が飛びぬけて面白かったです。いつでも書きながらストーリーを考える豪先生ですが、一つのアイデアが伏線をすくい上げてまとめていく思考の過程が実にスリリング。また「バイオレンスジャック」についての解説も、この大長編を読み通したくなりました。リアルタイムで追いかけていたら、さぞかしわくわくかつどきどきとして読めただろうなあ。もちろん「猥褻とエロティシズム」に関する先生なりの考察も楽しい。結婚したのが遅かったので、そっちのケがあるんじゃないかという噂がたった。確かに昔から、そういうお誘いを受けることは多いけれど…というくだりですごく納得。豪先生といえば、現在はハンサムでダンディなおじさまという感じでいらっしゃいますが、お若い時はもっとキュートでぶっちゃけショタ(略)ごほごほ。
 あと、巻末のおまけマンガ「デビルマン・ハニー」がとってもキュートでした。4等身のハニーとデビルマンの4コマなのですが、先生、これなら萌えもいけますよ!という感じ。
 わたしは、この本全体に溢れているマンガを描くこと及び次から次へとわいてくるアイデアに対する、豪先生の無邪気なまでの喜びの姿勢がとても好きです。自分の仕事をこのうえなく楽しんでいる感が伝わってくる。サービス精神たっぷりに、どんなかたちのエロティシズムにも偏見なく取り組み、むしろ人間の奥深さに目をキラキラさせて好奇心旺盛に取り組まれる、そのバイタリティと才能が伝わってきて、ときめきました。楽しかったです。

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