叶恭子「叶恭子の知のジュエリー12カ月」(理論社)



 「中学生以上のすべての人のよりみちパン!セ」シリーズの一冊であります。つまり、ヤングアダルト新書なわけで、そこであの「おねえさま」がなにを語るのだろうという好奇心から手にとってみたところ、あれこれと思うことが色々あったので感想を書いてみることにしました。
 叶恭子といえば、叶姉妹のおねえさま。叶姉妹という存在については、みなさま評価が分かれるところかもしれませんが、わたしはああいう記号としての美女というかキッチュなゴッデスという存在は好きなので、わりと好感を持っています。ほら、なにも共通言語をもたない相手のことは、ゆるく眺めることができたりするじゃないですか。そんな叶姉妹でも、人に尋ねればみな「美香さんならば話もできると思うがおねえさまは」と口をそろえておっしゃるような気がするのはわたしだけですか。そう、なんというか受け手の度量と判断力のバケツを簡単に満タンにしてあふれさせ、言葉を無くさせてしまうそんな存在である、あの叶姉妹のおねえさまです。そしてこれは「年齢を問わず、胸の中に『子どものころのわたし』を抱きつづけているすべての女性たちへ、『姉・恭子』が初めて直接に語りかけた一冊」、だそうです。ただ、これをいわゆるタレント本としてとらえるのならば、本人が書いていない可能性もあるのですが、わたしは「叶恭子」という名前でパッケージされているのであれば、それは本人の作品としてとらえています。念のため。
 内容としては、12カ月を通した人生訓のような短いつぶやきと、女子中高生からの悩み相談におねえさまが答えるという構成の本です。タレント本として、すかすかの中身を予想して読むと、意外と一貫した論理で成り立つ言葉が多いことが意外かもしれないし、奔放であけすけな内容を予想すれば、そこに並べられている堅実といってもいい道徳心が透かしてみえる言葉をつまらないと思うかも。わたしは、美輪明宏とか中原淳一とかの本を連想しました。そういうと、どちらのファンにも怒られるかもしれないけれど、個人の確立を前提とした他人への気遣いを推奨する感じとか、外見の美しさの価値を認めつつも、内面から見えてくる美しさを評価するあたりとか。
 だから、女子中学生が読むのはいいんじゃないかなーと思いました。同じことを親や教師から云われても反発するかもしれないけれど、おねえさまに云われた言葉であれば、受け取ってみようかなと思う少女も多いはず。とりあえず、目を通すだろうしね。なにより、間違ったことは言ってない。抽象的かつ要求水準が高い言葉が多いので、そのとおりにしようとしてもなにからはじめたら…と思われるかもしれないけれど。他人からコントロールされることへの嫌悪を隠そうとしない、個人の確立に価値を置いた感性は一貫したテーマであるように思えます。それは、思春期の女子にとって大事な感覚になりうるはず。
 また、とくに、奔放なイメージがあるおねえさまからの「自分と同じ歳の男の子の未熟な身勝手さよりも、あなたがまだ未成年であることに目をつぶる、大人の男性の狡猾さには、くれぐれもだまされないように」という一言など、莫山先生に毛筆で書いていただいて、女子更衣室に貼っておきたい標語です。なにも援助交際などでなくとも、未成年の女子と深い交際をすることをためらわない20代、30代の男性は意外なほど多い。それが一律に問題だとも言えないけれど、痛ましい結果に終わる例を見聞きするたび、大人の女としては胸が痛むのです…。
 簡単に読めるようでいて、一つ一つの言葉の意味を噛んで含めていくならば、意外と深く時間がかかるかもしれません。それだけ観念的で抽象的なことばが多いのですが、もっと薄い内容だと思っていたわたしとしては、予想以上に楽しめた感がありました。
 あ、あと、余談になりますが、中のイラスト、おねえさまがお描きになっておられます。とりあえず、それを見てほしい。P232のネコとか、すごいから。おねえさまに記憶スケッチアカデミー出て欲しくなるから。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする