「田舎暮らしに殺されない法」丸山健二(朝日新聞出版)



 純文学の方では高名な著者ですが、エッセイ、小説含めて、わたしはこの本が初読となります。名前だけは知っていたのですが、タイトルに惹かれて、パラパラと読み始めたら、なんだかとっても面白い。夢中で最後まで読むことが出来ました。でも、読みながら目を白黒させられたのも事実。本気のエッセイであることは間違いないと思うんだけど、こんなに純粋なブラックユーモアに満ちた弾劾を読んだのは初めてかもしれない。いや、ユーモアとか云ったら怒られそうだけど、この妥協や逃げを許さない断言から、なぜか筒井康隆を連想しました。ちょっと調べた感じでは、小説もそうかもしれない。
 内容は、定年後に「理想の田舎暮らし」を夢見て、田舎に移住することを夢想する年代の男性に向けて、田舎暮らしの真実を告げていくものです。が、これが、容赦ない。いかに田舎という場所が、苛酷で、人間関係が醜悪で、暮らしにくくて、恐ろしい場所なのか、なによりも、そんな生活を夢想する「あなた」自身が、いかに不摂生で、現実を見ておらず、考えなしなのかということを具体的かつ執拗に叩いていきます。そのあまりの徹底ぶりが、むしろユーモラスで、笑えてくるくらい。その突き抜けた厳しさからわたしはブラックユーモアさえ感じると思ったのですが、しかし、ここに書かれている田舎の恐ろしさのどれをとっても、田舎出身の自分にとっては、ただの事実でしかないことが、一番のブラックユーモアかもしれません。と、都会のひとにはリアルでないかしら。なによりも、自然の大変さや経済的理由以上に、田舎から若者を追いやるのは、その重苦しく狭苦しい雰囲気である、というこのシンプルな事実。いくらエコだのロハスだのスローライフだのと云われたところで、いったん得た自由を手放すことはできません。ええ、できませんとも。わたしは、自然の美しさとそこの人間関係の醜さは比例するとさえ思うのです。
 そして、現実を見ないまま、田舎暮らしを夢見る男性の身勝手さをびしびしと指摘している文章を読んでいると、正直云って、胸がすく思いとはこれこのこと、という感じさえしてきます。しかし、そうやって他人事として笑っていくうちに、その厳しい視線がやがて、自分にも向けられているという感覚に襲われるのです。そう、これは単に「理想の田舎暮らしを夢見る」人間だけを対象にしているのではなく、つまりは、自立した生活を生きずに、あやふやなイメージに流されてなんとなく生きている人間に向けられたメッセージでもあるのですから。そう思って、丹念に読めば読むほど、怖い言葉がここには溢れていると思います。しかし、無視できない言葉。
 しかし、著者のことはまだよくわからない。エッセイもたくさんあるけれど、どうやらジャンル的にも、わたしがイケるくちな気がしますので、小説のほうもこれから読んでいくことにします。

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