「カオスノート」吾妻ひでお(イーストプレス)



 世界は不思議に満ちている。それも不穏きわまりない落とし穴ばかりの不思議に。
 そんな気分にさせられる、吾妻ひでおの新刊です。この本が発行された経緯と作品紹介は、こちら(「失踪日記、アル中病棟、そしてカオスノートへ」)を参照にして下さい。
 ナンセンスギャグ、と説明されていて、確かにそうとしか表現は出来ないのだけど、もっともっと、より深い無意識のところをすっと撫でられる怖いものが見え隠れする作品集です。一コマで終わるものから数頁のものまで、短い作品が集まって250頁の厚い単行本になっています。こういう濃い中身の短い話が詰まっている厚い本のよくある紹介として、一気に読まずにひとつひとつ寝る前に拾い読みするのがおすすめ、とかいう言葉がありますが、これはそういう読み方をしたらむしろ落ちつかずに悪夢を見てしまいそう。
 怖いとかキモいとも違う。グロいといえばグロいネタもありますが(エロいものもある、暴力的なものも)、そういう気持ち悪さではなく、なんというか、脳の中の思ってもいない部分をすっと筆で撫でられたくすぐったさ、ぁ、自分の脳はこういう場所にも反応するんだと気づかされるような、とびっきりの脳内麻薬分泌ドラッグのような本であります。分かるネタと分からないネタがあるように感じられるのも、人によって、キくドラッグとキかないドラッグがあるようなものかもしれない。また、このネタはこの絵でなければならない、と確信してしまう、相変わらずの丸っこい描線がすごく魅力的なのです。女の子の可愛らしさは勿論のことながら、個人的には、それ以外の動物たちがすごく良い。猫がとくに、可愛くないんだけど可愛くて、好きです。
 
 量産できる内容ではないと思いますが、こういう作品をもっと読んでみたいと思いました。奇想、というか不思議な世界が好きなかた、吾妻ひでおの描く美少女がお好きなかた、他のどこでも読めないようなオリジナルな作品が読みたいかた、におすすめです。

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