「阿・吽(1)」おかざき真里 (小学館・ビッグコミックススペシャル)



 「サプリ」「&‐アンド‐」で知られるおかざき真里の新刊です。なんと今回は、歴史物で、主役の二人は最澄と空海!
 実は、わたし、おかざき真里はずっと昔から、かの「ファンロード」で一般投稿されていた頃からのファンでした。しかし、「サプリ」以降の胸が締めつけられるような恋愛物は苦手で(それはね、作品のせいではなく、読み手のわたしが辛くなっちゃうのですよ…)、かの「&‐アンド‐」も未読です。なので久しぶりのおかざき真里体験なのですが、最澄と空海が主役、という前評判を聞いただけでなんだかわくわくしていた、その期待が裏切られることなくて万歳です。
 おかざき真里といえば、やっぱり絵。これがまたいいのです。あの繊細で美しい描線はそのままで、けれども疾走感というか躍動感というか、そんな生命力に溢れているのがすごく良い。電気が無かったこの時代、いまよりもずっと、闇と月の光、木漏れ日の光と影、そういったものが人間に近しかった頃の光景が目の前に広がっているようです。
 また、怨霊が文字を解したところとか、与えられた言葉がかたちをもって姿を見せるときの表現とかが、時にユーモラスでキュートで、温かい。言葉の意味をこういうかたちで現すことにより、現代人とはまた違う、この時代の人間にとっての言葉のちから、というものがよりダイレクトに伝わってくる気がします。そう、現代の人間と、この時代の人間は、なにもかも違う。価値観も倫理観も死生観も。違うからこそ、この二人がこの時代に誕生したことに意味があるんじゃないかな、と思うことが出来る。そんな世界で、この二人がどうやって生きていくのかということに惹かれてしまう。わくわくします。
 そして、最澄と空海という二人だけでなく、それ以外の登場人物もそれぞれが、それぞれの思惑で生きている感じで、良いです。現代人とは違う倫理観のなかで生きているのは間違いないけど、でも、どこかわたしたちと通じるものもある。その説得力が、とても良い。そのなかでもわたしが気になるのは、愛嬌ある微笑みで世界を渡ってきた泰範という僧。かれのなかの鬱屈がどのように変化していくのかに惹かれます。
 まだ1巻なので、お話としてはプロローグの部分なのかもしれませんが、それでも読みどころはたくさんあります。なんていうか、シンプルに面白いのです。この世界で。こんな希有な存在として生まれたこのひとたちはこれからどうなっていくのだろうか。なんとなく覚えている歴史上の人物や出来事が、この二人にどんな影響を与えていくのか。そんなことが楽しみでなりません。

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