「好き嫌い」

「はいどーもこんにちは」
「こんにちはー」
「漫才コンビ、ノコッタヨコッタでーす」
「あー、このサンドイッチどうしようかな」
「どしたん?」
「いや、さっきオカンに持っていきって渡されてんけどな。オレ、ツナ苦手やねん」
「ほんま?オレ、好き嫌いとかないからなー、そういうの分からへんわ」
「え、マジで?」
「当たり前やん。あんな、そもそも、それは食べるもの。食べられるからこそ、そこにある」
「お、おう」
「そりゃな、最初にこの地に生まれてきたときは、まだ人間の口に合わへんかったかもしれん。でもな、それをさんざん苦労して品種改良して産めよ増やせよで増産して、飢えに苦しむ人々のためにと人類の英知を費やした結果として、いまそれがここにある。文明の勝利、それこそがいま、お前が手にしているサンドイッチや」
「へー。すごいなあ。じゃ、おまえこれ食ってくれへん?」
「おう。……あ、これキュウリ入ってる。返すわ」
「なんで」
「オレ、キュウリあかんねん」
「待てや」
「なんや」
「お前さっき好き嫌い無いとか言うとったやないか。人間の為に作られし人類の英知の象徴、人間のための食い物!」
「いや、お前、オレの話聞いてたか」
「聞いとったから、いまお前に詰め寄ってんねや。なんでキュウリあかんねん」
「キュウリはカッパの食べ物やから」
「……あー、はいはい。おるおるこういうやつ。合コンとかでめっちゃ盛り下がるお約束やね。カッパの食い物ってそんなわけあるかいな」
「え。おまえカッパがキュウリ食うの知らへんの?」
「いや、なんか聞いたことはあるよ。なんか持って立ってる絵とかは見たことある」
「おまえ、オレがキュウリ持って立ってるの見たことあんのか」
「ないけど」
「そういうことや」
「いやいやいや、ちゃうやろ!ただの好き嫌い誤魔化すなよ!」
「カッパのことは好きでも嫌いでもないで」
「カッパのことちゃう!」
「なに言うてんねん。お前さっきからずっとカッパカッパ言うてたやん」
「キュウリ!オレがずっと言うてんのはキュウリ!」
「カッパの食べ物やんなあ」
「そやな、で、それはええねん。なんでお前がキュウリを食べれん理由がそれやねん。匂いじゃ味じゃ食感じゃ、小さいころお盆で馬を作ろうとして失敗したとかそれ相応のこと言えよ!」
「小さいころお盆で馬を」
「言うな!」
「なんやねんさっきから。キュウリキュウリカッパカッパ。オレら人間やねんから人間の話しようぜ」
「オレはさっきからずーっとお前の話してんねん」
「オレ人間やで?!」
「知っとる!いっそカッパやったら話早いのにとも思っとるわ」
「カッパやったら困るよ。オレ、背が高いからしょっちゅう皿の水こぼれてかなわんし、水のなか寒そうやし、そもそもオレ、泳ぎあんな上手ないし、水かきのなかゴミ溜まるし」
「なんもそんなに真面目に考えんでも」
「そもそもカッパは想像上の生き物やし」
「分かっとるなら説明すな!…あーもう、メンドい、お前はメンドい!」
「いまに始まったことじゃなし」
「肩抱くな!…なぁ、百歩譲って、カッパはキュウリ食べるとして、お前はカッパやないよな。でも、ええやん。カッパも食うしひとも食う、それでええやないか!」
「おまえ、人間食うの」
「せやからひとの話を真面目に聞けや!」
「あー、分かった。キュウリな。なんで嫌いかって話したらええんやろ」
「おう。そしたらこの話10分前に終わっとる」
「青臭いし。なんや水っぽいし。歯ごたえのシャリシャリした感じが超キモい。子どもの頃からうまい思うたことがあれへん」
「お、おう。それや、そういうこと聞きたかってん」
「せやからいつもおかずにキュウリが出たときはカッパにあげてた」
「5分前に話を戻すな!」

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