「あぶな坂HOTEL」萩尾望都(集英社・クイーンズコミックス)



 あの世とこの世の間に立つ「あぶな坂HOTEL」。さまざまな原因で生死のあいだをさ迷っている人々は、この場所に足を踏み入れて、どちらの方向に進むかを決断しなくてはならなくなる。自分が死ぬ?死んでもいいかも。いや、なんとしても生き延びたい。わたし、何回もここに来たことがあるわ。ねえ、生きたい願望と死にたい願望、どっちを選べばいいの…?
 萩尾望都の連作短篇集です。生きるか死ぬかという真剣な状況なので、いくらでもドラマチックに盛りあげることが出来る題材ですが、そこをあえて軽くかわして、不思議なユーモアが漂う雰囲気の作品にしているあたりが、とても面白い。何人ものキャラクターがドタバタと繰り広げる大騒ぎが、昔の萩尾望都っぽくて楽しいです。基本的なトーンが賑やかで明るいのがいいですね。そして、温かい。
 でも、そんななかでもやっぱり、ひとの死が周囲の人々にもたらす影響というものに正面から向き合った「雪山へ」がいちばん良かったです。共に雪山へ出かけ、雪崩に巻き込まれた兄と弟。2人がこのHOTELで再会した意味とは…。泣いてしまった。単に悲しいとかいうレベルでなく、ああ、そういうことなんだと腑に落ちたから。愛するひとが突然消え去ってしまうこと、それをいつまでも受け入れられないこと、受け入れること、どちらにしてもその事実の重さは、ひとの人生にいつまでも大きな影を落とすことが、強く、響いてきた作品でした。
 わたしは萩尾望都のファンではありますが、この単行本は、ふと見落としていた一冊です。なので、発行して数年たっての読書となりましたが、とても良い本でした。一冊で読み切ることが出来るし、萩尾望都の良さ(テーマ、構成力、絵)が良く現れていると思います。おすすめ。

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