「ルパン三世 地獄志願編」(松田朱夏・双葉社ジュニア文庫)感想

ジュニア文庫を読むのは、週末の更新を終えてからだと言ったな。あれはだ(崖に落ちて行くとりこ。をイメージしてください)。

 ……いや、だって、予約してた本屋から「入荷しましたよ」メールが届いちゃったので、つい……。

 というわけで、前回の「五右ェ門登場編」が全わたしの胸を震わせた(そのときの感想はこちら)、松田朱夏先生の新作です。わーい。表紙(安定の早川ナオヤ先生!)を見るだけでわくわくしましたよ。全面的に次元さんがフューチャリング!内容を読めばそれも納得の話なのです。
では、なるべくネタバレなしで、ざっと感想など。前作と同じく、読み切り短篇が三話収録されていますが、今回はすべての話に連続性はなく、それぞれ独立した内容になっています。

 まずは第1話「月の涙」。ベースになっているのは、原作「三死がなくて……五に練習」「八苦がなくて十に成功」。アニメの新ルパン第137話「華麗なるチームプレイ作戦」の原作でもあります。それにオリジナルの要素が加わって、ぜんぜん違う味のお話になっているのはさすが。ルパン一味の人となりがかいま見える台詞もいいし、それぞれの見せ場もあるのがカッコいい。銭形警部も登場し、キレ者らしいところをみせています。そしてなにより、この話では不二子ちゃんが大活躍。それも、いつもの単純な色仕掛けとかそういうのではなくて、頭の良さとすぐれた能力を見せつけているのがいいのです。

 第2話「グレイト・マウス」。次元ファンなら、この題名だけでキャー!でしょう。とりあえずわたしは叫んだよ。この話のベースは、原作「グレイト・マウス」と「次元出ずっぱり」。そう、この第2話の主役は次元なのです。これがね、ほんとうに良くってですね……。なにがいいって、次元さんがすごく次元さん。義理堅いところも、ぶっきらぼうなようでいて女性には自然にやさしいところも、非情にはなりきれないところも。原作の「グレイト・マウス」もそういうところがありましたが、シンプルな次元と女殺し屋の対決を描いた「次元出ずっぱり」をアレンジすることで、こんなお話になるんだと驚きました。わたし、ほんとうに「次元出ずっぱり」が大好きなので、嬉しくもあります。しかし、お話自体はとてもせつない。色恋抜きで女性をやさしく扱う次元さんの、その次元さんらしさが、せつなさを倍増させます。そしてわたしは、そのせつなさ、酷薄さもまた原作ルパンの味だと思うのです。余韻ある終わりふくめて、良かったです。

 第3話「地獄志願」。これはそのまま原作「地獄志願」がベース。でも、独自の要素を入れることで、ある意味、ぜんぜん別の話になっているような気がして、原作「地獄志願」をこよなく愛しているわたしにはかえってそれが良かったです。原作では名前すらなかったお嬢さんに名前や性格が与えられ、その運命にさらにあらたな苦難をくわえることで、この「地獄志願」は原作の「地獄志願」と、大まかなストーリーラインこそ同じですが、まったく違う味わいを持つものになりました。それでいいんだと思います。銭形警部が、すごくいい。

 全体的な感想を述べてみれば、児童書ということを忘れて読むくらいに原作ルパン三世の雰囲気たっぷりな、けれどやはり入門書として問題ないくらいに読みやすいノベライズだと思います。児童書という性格もあるのかもしれませんが、ルパン一味のキャラクターが文句なく分かりやすくたっているので、物語がとてものみこみやすい。前回の「五右エ門登場編」が五ェ門巻だったとするならば、今回はぶっちゃけわたしにとっては次元巻ですが、それ以外のどのキャラクターにも光が当たっていて、オリジナルキャラクターも違和感ない。いいもの読んだな!というのがいちばんの感想です。

 というわけで、ルパンファンとしてはまったく文句ない……といいたいところですが、あの、その……ジゲフジファンとしては……(沈黙)。いや、前巻が神過ぎたのは百も承知ですよ!毎回あれをやるわけにはいかないだろうし、あれもなにかの偶然というかなんというかなのはわかってますよ!でも、もうちょっと、もうすこし、ジゲフジ要素が欲しかった……(いやほんとうに自分勝手で申し訳ない)(ほら、いちど人肉の味を覚えたトラは人間をひたすら狙うようになると言うじゃないですか)(わたしはトラか)。

 そもそもこのふたりが同席している場面すら数えるほどっていうか数えたら一場面しかないのですが。まあ、そこのね、P32 の一行を繰り返し読んでるからいいですけどね。6行目な。「甘えた声」をもう十五回くらい読み返してるし、なんなら蛍光ペンで印つけたいくらいの気分です。その後の描写もすごく萌えます。これで第3巻がでるまでもたそう。いやだって、この巻の次元さんも不二子ちゃんも、どっちもとても魅力的で、らしくって、カッコよかったので、どうせならそのふたりのいろんなことを読みたくなるではありませんか。それだけ良かったってことで暴言お許しください。

 今回は帯に次巻の予告がないのが、プチ心配でもありますが、また続きを読みたくもあります。ルパンのオリジナル小説って、これまでにも何冊か出ているのですが、それぞれに特色があって面白い。そして松田朱夏先生の作品はそのなかでもかなりのお気にいりです。また松田先生のルパンが読めますように!(そしてジゲフジ要素もありますように)。

 では、これから明日の更新の最終準備に入りまーす。予定通りUPしますので、どうぞよろしくお願いします。