ルパン三世ベストセレクション第1位「さらば愛しきルパンよ」感想。

 「もう、あの方は行ってしまいました……ありがとう、ルパン」(cv島本須美)。

 いよいよこの日がやってきました!ルパン三世ベストセレクション、第1位は、PART2第155話「さらば愛しきルパンよ」でした!第2位のPART2第145話「死の翼アルバトロス」につづき、かの宮崎駿監督(以下敬称略)が脚本、絵コンテ、演出を手掛けた名作です。いつものように、ベストセレクションが放送されていない地域に住まうわたくしが、エア感想を書かせて頂きます。ネタバレありなのでお気をつけください。あらすじはこちら→(URL)。

 まず映し出されるのは高層ビルの立ち並ぶ風景に浮かび上がる「1981 TOKYO」の文字。そう、この舞台は1981年の日本なのです。ここまでちらちら日付がでることはあっても、どこか無国籍で時代性もランダムな雰囲気であった新ルパン(というか「ルパン三世」そのものがそういう世界観なのだ)らしからぬオープニングにつづき、登場するのはおかしなかたちの空飛ぶロボット。すでに「天空の城ラピュタ」を見慣れたこの身には「おお、ロボット兵」というコメントが浮かびますが(実際はもっと元ネタがあるんですよね。フライシャーによる「スーパーマン」です)、もちろんこちらが本家です。

 そしてそのロボットが休日の都会の街を滑空し、宝石店の前に立ち止まるまでの短いカットにも、当時の(81年ですが、まあ70年代後半です)風俗が正確に写しとられていることが分かります。架空のものでしょうが、喫茶店(カフェではない)の店名がいちいちそれらしい。そしてさりげなく垂らされている映画の宣伝幕に「昨日のジョー」とかあるのが地味におかしい。

 宝石店を襲ったロボットは、触手状のアームを使い宝石を根こそぎ奪います。それには駆けつけた警察官たちもなすすべもなく、ただ逃げていくロボットを見送ることしかできません。そしてそこに残されたのは、ロボットがまき散らしたルパンのカード。
そしてここでタイトル。圧倒的なアクションと謎だけが提示されたシンプルなもの。これに「さらば愛しきルパンよ」のタイトルがきては、これからの展開に期待しかないでしょう。

 さて、宝石店を襲ったロボットは国防省が極秘に開発を進めていた新兵器であるとのTVのアナウンサーの説明の後、ルパンからのメッセージが流されるのですが、そのOPカットがすごい。一瞬ですが、コロンビア映画の女神風にたいまつを掲げるルパンとそれに寄り添うふんどし姿の五ェ門と人魚姿の次元って正気か。

 ロボット兵は人類の平和のためにならないのでおれが有意義に使ってやる、とうそぶくその姿は、ルパンらしいと言えばらしく、しかしらしくないといえばらしくない尊大なもの。そしてその放送を見ているルパン一味のところに、あのロボット兵が帰ってきます。そこから降り立ったのはひとりの少女。マキと呼ばれる彼女がロボット兵、ラムダを操縦していたわけです。

 彼女が奪った宝石に珍しくがっついちゃう次元さんに肘鉄をくらわすルパン。自分たちの目的はロボット兵の非人道性を訴えることだ!というものの、去っていくマキを見送るその表情は、すでにあやしげ。ものすごいバッタもの臭ですね。宝石にがっつく次元、煙管をふかす五ェ門、見るからにらしくないルパン。ということで、ここですでにこのルパン一味はニセモノであることが提示されます。

 で、そうなるとホンモノは?という話になるじゃないですか。すると、戒厳令が敷かれた東京に銭形警部の横顔が映るわけですよ。そして、その銭形警部は、あれはニセモノのルパンです、と長官に詰め寄り、ラムダの情報を得ます。この場面、ラムダを指さして「まるでスーパーマンですな!」というこの表情が!すでに!ルパン!(笑)(そしてここで「スーパーマン」の名前を出すことでラムダがそのオマージュであることも示しているわけです。パクリじゃないんだよ)

 つづく、マキの写真を見てのにやけ顔、長官の机に胡坐をかく無頓着さで、この銭形がルパンであることは視聴者には明らかにされるわけです。そしてわたし、「アルバトロス」のときも書きましたが、このほぼ全篇「銭形の真似をするルパンを演じてみせる」納谷悟朗さんの仕事の素晴らしさは、まさに筆舌にしがたいというやつだと思うのです。だって、軽やかなあのルパンの雰囲気を再現しつつ、物まねではない自然さで、みごとに演じてみせているのですもの。これこそ間違いなくプロのお仕事です。

 そしていよいよ舞台は戒厳令の東京へ。検問つづきの道路をニセルパンがタンクローリーにラムダを隠して出発させるのですが、このとき、後続車が邪魔だとタイヤをパンクさせて事故を起こして平然としている次元という描写で、この次元もまたニセ次元であることが示されます。そして電車のなかから、飛ぶラムダを見て現場に駆けつける銭形(ルパン)。市民の車をなぎ倒す戦車にあきれますが、その戦車でさえ、ラムダの敵ではありません。銭形は、市民がいてもお構いなしに砲弾を撃つ指揮官に「つきあっとれん!」と走り出します。

 ここからの流れるようなアクションは40年前だろうがなんだろうが関係なく色褪せませんね。アクションというのは単なる爆発でも馬鹿騒ぎでもカークラッシュでもビルの倒壊でもなく、緩急のテンポだということがよく分かります。これはもう持って生まれた天性のセンスでしか描けないんだろうなー……。ほんま宮崎駿は天才やなー……とながめるしかない。そしてそれを支えるのは。蹴り飛ばされるゴミ箱からこぼれ落ちる魚の骨まで描かれる細かい描写と、ポイントを押さえたキャラクター描写です。落ちた看板からラムダが人々をかばったことに気づき「やつは逃げ回っているだけだ!」と見抜くこのルパンの鋭さよ。やだもうこの三世さん(外見は銭形ですけど)カッコいい。

 ヘリの追撃を逃れるラムダ。ヘリくらいレーザーで始末しろというニセルパンの言葉に「出来ない、だって人殺しよ!」と涙を飛ばすマキの可憐さったらないですね。高層ビルの中にホンモノが逃げ込んだあと偽のラムダを飛ばす五ェ門ですが、この顔つきが実に邪悪で、わたくし、旧ルパンの不二子ちゃんの嘘のなかのエロ五ェ門を思い出しました。
 そしてそれをバイクで追いかける銭形……というかもうすでにどこからどうみてもルパンですよね。ガワはあくまで銭形のままながら、表情(眉!)とその動きがルパンなのだ。素晴らしい。ビルの中でラムダを見つけたものの、何者かに襲われて失神してしまいます。

 夜も更け、そろそろ潮時……とよからぬ雰囲気になるニセルパンたち。一方、拘束された銭形(ルパン)のところへコーヒーを持ってくるマキ。「砂糖は入れないで」と注文するあたりがルパンぽいですね。そしてここで「何人死んだかな」「昼間の騒ぎで何人死んだ?」とすごみをきかせるのも、ルパンらしいテクニック。しかしここの動揺するマキちゃんの愛らしさ、美しさといったらないですね……。島本須美さんの声もあいまって、美少女とはまさにこのこと。そうやってルパンに揺さぶられたマキが、ことのいきさつを語る流れになるのも自然です。そしてこの告白が顔を膝に埋めた状態でなされるのもなんかすごい。うまいなあと思います。

 そこに現れたニセルパン。しかしその顔を見て大爆笑し「バーカ!」っていう銭形(ルパン)のここの声、最高ですね。銭形の声のままルパンが喋ってる!そしてニセルパンの正体も見破るだけでなく、今回の仕事のからくりまでも見事に解き明かすこのカッコ良さよ。しかし、ここで動揺したマキちゃんが「じゃあわたしのしていたことは」と言った言葉に、一呼吸おいて、わずかに声のトーンを落として「……ロボットの売り込みだ」というときのここがたまりませんね。これが三世さんのやさしさなんだよ。ニセ次元たちに引きずられながらも「警部さん、ごめんなさい……!」と叫ぶマキに「マキさん、さっきの言葉は取り消す。あんたは人殺しじゃない」という台詞もいいんですが、わたしはこのさりげなさのほうに、より三世さんらしさを感じます。

 そしてあわや爆発の餌食になるとみせて、みごと脱出し、マキが乗せられたラムダに飛び移る銭形(ルパン)。もうね、ここからのラムダが下降し、そして上昇した後の浮遊感の素晴らしさ、夜の空から見下ろすネオンの光とビルの明かりを前に、ようやく姿を現した本物のルパン三世という場面の素晴らしさには言葉も無い。マキを助け、ウィンクをするこのカッコ良さよ。この表情、この瞳。

 あのね、わたしこれまでにこの話何十回見たか分かりませんけど、この再見でもまたハート撃ち抜かれました。原作と違かろうが甘かろうが宮崎ルパンだろうがなんだろうが、このルパン三世がわたしは大好きなんです。このやさしさ、表情に、こどものわたしは恋したのだろうなと思います。そしてそれから何年たったかはともかくとしても、また激しくときめいた。わたしはルパン三世が大好きです。

 そして場面は永田重工で今回の報酬を受け取るニセルパン一味に移ります。なんというか、ここまでバッタものくさくなると、かえって面白いなこのひとたち。ニセ次元が金に汚い感じが笑える。ルパンが現れると悟り、あわてて「おい、おれたちゃ変装を落としてないぞ」って普段の次元さんならまず聞けない間抜けな響きの台詞がたまりませんね。そして逃げ惑うかれらの様子をしっかり撮影している不二子ちゃんのまた美しいこと!

 そしてラムダの上に腰をかけ、逃げるニセルパン一味を迎えるホンモノのルパン三世。その凄みのある表情は、いわゆる宮崎ルパンのやさしさとは一味違って実にカッコいい。自分の名前を騙られて、純粋な少女を騙したとあってはこの顔になるのも当然ですね。「仮装行列は幕にしようぜ、黒幕さん」って台詞がまたシビれます。

 でもここでカッコいいのは三世さんだけじゃない。満を持して、ホンモノの次元さんと五ェ門も登場です。ニセ次元をつかまえて「ハジキは本物だな」という次元がカッコいい。怯えるニセ五ェ門の前に現れたホンモノ五ェ門もそうなんですが、ニセモノがカッコ悪い分、ホンモノのカッコ良さがじつに引き立つのです。これ、楽しいよ……。そしてもちろん不二子ちゃんも協力です。カリ城のアナウンサーの原型ですね。

 追い詰められた永田重工の社長はロボット兵を出そうとしますが、すでにその制御装置はマキによって抜き取られていました。そう、マキもまたこの復讐に一役買っていたわけです。
 燃え盛る永田重工に、こんどこそ本物の銭形警部がやってきて、マキから証拠のテープを受け取ります。「ルパンの名を騙るとは馬鹿な奴らだ」と言うときの表情がいいです。そして「もう、あの方は行ってしまいました……。ありがとう、ルパン」というマキの台詞でこのお話は終わり、夜明けの海岸線を走る車に乗るルパン、次元、五ェ門、バイクで走る不二子の姿とともに、大きく映し出された富士山で終わりを告げます。

 というわけで「さらば愛しきルパンよ」でした。「アルバトロス」もそうだったので繰り返しませんが、宮崎駿という稀有の才能が「ルパン三世」というコンテンツに出会ったときのとても幸福なかたちを見せてもらったと思っています。最終回にも関わらず、三世さんをはじめとするいつもの面々が(本来の姿で)ラスト数分まで登場しないとかマジか、な話でもあるんですが、わたしなんかもう幸せな人間なので、最終的にあのカッコいい三世さんを見せて頂けたらもうそれだけで、というあたりで納得しちゃうんです。あと、とっつあんの姿ではあったけど、三世さんずっと大活躍だったし!きれいにまとまったお話だと思います。やはり一位に選ばれるのも無理ない作品だと思いました。

 というわけで、思い返せば今年の三月、「AnimeJapan2017」の25日の日本テレビブースで「ルパン三世」の生誕50周年ステージで重大発表があるよ!という前振りで発表されたのがはじまりだったこの「ルパン三世ベストセレクション」その後の投票もまた楽しく、放送が始まってからは毎週わくわくと感想を書き(わたしの住んでいる地方では結局放送はないままだったので、DVDコレクションフル稼動になりましたが)、とても楽しい数カ月でした。そして自分が感想を書くとどこまでも語る人間だとよく思い知った(笑)。ちょうどPART4、「血煙の石川五ェ門」、と続いていたルパンの話題が途切れかけたときに、いいタイミングで燃料を頂いたなーと思います。

 そして、ルパン三世公式Twitterさまからは30位から25位の発表もありました(順不同)(URL)。「父っつあんが養子になった日」(ルパン三世PARTⅢ 49話)「殺し屋はブルースを歌う」(ルパン三世PART1 9話)「7番目の橋が落ちるとき」(ルパン三世PART1 11話)「五右ェ門の復讐」(ルパン三世PART2 21話)「国境は別れの顔」(ルパン三世PART2 58話)「次元と帽子と拳銃と」(ルパン三世PART1 152話)です。とりあえずこのなかでは「父っつあんが養子になった日」と「次元と帽子と拳銃と」の衝撃がすごい(笑)。面白いなあ。

 そしてこうやって見直してみると、あくまでTVシリーズ、それもPART1からPART3に限ったとしても、「ルパン三世」というのはとても豊かなコンテンツだと思います、そのなかにはたくさんの名作良作があって、それについて語るのはとても楽しいことでした。 あくまで個人的な思いで語り続けたこの感想ですが、毎回読んで下さって感想を届けて下さったり拍手を押してくださった方々には心よりお礼を申し上げます。なによりの励みを頂きました。

 一応、これでベストセレクションは終わりですが、ルパンの作品感想はこれからもなんらかのかたちで書いていくことになるとも思いますので、またのぞいて頂けたらと思います。今回はこの全24話を語りましたが、来年には個人的なベストセレクションを順位つけずに選んで、また語ってみたりしたいな、とも思っています。できますように。

 ほんとうにありがとうございました。これからもよろしくお願いします!