「LUPIN THE lllRD 銭形と2人のルパン」感想(みっちりVer)

 2025年6月20日よりAmazonPrimeほか各種配信サイトにて配信開始された「LUPIN THE ⅢRD 銭形と2人のルパン」の感想です。

 みっちりバージョンでお届けします。ネタバレ前提であるうえに、個人の意見や感想や悲鳴や妄想で構成されております。あと、めっちゃ長いです。どうぞすべてご了承のうえで読んで頂けたらと思います。よろしくお願いします。

 冒頭。空港に降り立とうとしている飛行機のなかで、次元とルパンと思しき人物の写真を確認している銭形警部。床に落ちていたぬいぐるみを拾い上げ、近くの席の少女に渡してあげるときの笑みがやさしくていいですね。降り立った空港でも、目が合ったさきほどの少女に軽く挨拶をするあたりが紳士! と思っていたら、手荷物のカウンターに爆弾を持ち込んだ男が。「Boom!」という男のふざけた一言と共に、空港は爆弾テロの舞台となり、火の海と化すのでした。

 爆風に倒れた銭形警部の手元には、少女が持っていたぬいぐるみが変わり果てた姿で転がっていました。描写はされませんが、おそらくは少女自身も。銭形警部はそこで、テロ犯人の犯行声明と思しき紙片を手にしますが、同時に、現場を立ち去るテロ犯人の男の姿を目撃します。変装が半分はがれたその顔は、あのルパン三世のものでした。追おうとする銭形警部でしたが、がれきに阻まれます。アバンはここまで。

 3分に満たないアバンで、銭形警部のひととなりと爆弾テロの容赦なさと背景にある政治問題、犯人はもしかしてルパン? というところまで説明できるんだから、そのお手並みはあざやか。そしてこうやって細部まで作りこんでおきながら、出てくる名前がアルカ合衆国とロビエト連邦って、当て字にもほどがあるやないかーいというネーミングにしちゃうのも往年の「ルパン三世」らしいギミックだと思います。ⅢRDの世界にはアメリカとソ連は存在しないのかな。

 爆破テロ犯人としてロビエト連邦の国家保安委員会より国家の敵とされるルパン三世。一方、そのころ、ホンモノのルパンは世界一長い「スエーヴィル鉄道」に乗りこむ前に次元と打ち合わせの電話をしていました。電話を終え、駅に入ったルパンの前に現れたのは銭形警部。警部はルパンを爆破テロ犯人と怪しみ詰問しますが、そこに国家保安委員会の職員たちが現れ、ルパンを暗殺しようとします。銭形は職員のカラシコフに身分を示しますが「邪魔をするな」と警告され、そのすきにルパンは駅の人ごみにまぎれて列車に乗り込むことに成功します。

 世界一の長さを誇る、て要するに「シベリア鉄道」かな。舞台が北国ですから、今作のルパンさまはいつものスーツ姿ではなく、寒冷地仕様のコートを着込んでいて実にカッコいい。ついでに顔もいい。あらかじめ言っておきますが、わたしこのあとおなじこと何回も言うと思います。しょうがないルパンさまの顔がいいんだから。トランプをもてあそび、ウォッカを楽しみにしてるのもいい。国家保安委員会に命を狙われた際の身の翻し方もほんとカッコいい。コートを残して身をひるがえし、常に薄笑いと減らず口を忘れないなんて、さすがルパンさま! 列車に乗り込むときの身のこなしも素敵! キャー!(うちわを振るわたし)

 ここでは銭形警部が公僕らしく身分を証明するものの、手帳は軽く払われておしまい、な描写もいいですね。ただこれだけで、国家保安委員会とカラシコフの冷血さが伝わってきます。

 走り出した列車のなかで、銭形警部は老婆に変装したルパンを見咎めます。格闘のすえ、降伏するルパン。銭形はルパンを爆破テロ事件について問い詰めますが、ルパンの目を見た銭形は真実を悟ります。ルパンは情報を得るためにあえて銭形に捕まってみせたのでした。

 老婆の変装を見抜く銭形警部の台詞がすごいですね。「おれを見るその目だ」「おれを警察官だと知っているその目がすべてを物語っている」って、銭形警部の見識と質力、ルパンとの関係性すべてを現している。それに「冗談キツイぜ」と逃げだそうとするルパンさまの反応を含めて。ここからの流れるような格闘もすてき。ルパンさま、純粋なフィジカル面では銭形警部にはかなわないのか……(基本的にトリックとギミックのひとなので)と思わせておいてのコンパートメントでの会話場面の渋さよ! ルパンさまのグレイの瞳が美しかった……。

 「目がすべてを物語るんだろう?」から「きさまほどの男がこんな簡単に捕まるとは思えない」のあたりとか、わたしはなにを見せられているんだろうっていう気になりました。褒め合いか。でも、そこからのふたりの対話は、正義と悪、公と私、自由と規律、そんな相反する属性をもつふたりの越えられない枠からのぶつかりあいを現していて、ああ、わたしはこんなふたりを見たかったと打ち震える思い。

 だってねー、ルパンさま、ほんとうに分かっていない相手にこんなこと言わないはずでしょ。手ごたえがある、なにかを返してくる相手だと銭形を信頼してるからこその対話でしょ。あくまでからかい、高みの見物を装っていながら、ルパンはこうやって銭形を揺らしておいてから、銭形にまっすぐな「正義の道」を歩く方法を賢く示唆する。ああ、たまらない……。

 列車に乗り込んできた鉄道警察の面々に対し、銭形警部は、このまま終着駅までルパンを護送するよう提案し、自分は列車内を捜索します。そこで列車の屋根にしがみついている次元と遭遇。もみあうふたりでしたが、そこにルパンが合流。ルパンと次元は列車の屋根から凍てつく川に飛び降り逃亡します。ひとり残された警部は、疑惑を深めていきます。ルパンでないのなら、誰が。

 ここ、鉄道警察の面々には「私」の一人称で話し、銃を取り上げられても冷静さを失わない銭形警部が実にカッコよかった。(ルパンを見張るには)「桁が違う」と言い捨てて離れていくのも。それを余裕のまなざしで見送るルパンさまもいいですね。

 まさかの屋根にしがみついている次元さんが登場しました。帽子を守ろうとしてましたがそりゃ無理だ。くわえ煙草も続けられず、落とした火花が銭形警部の目に留まる、という流れもじつにスマート。ふたりで列車の屋根にしがみついてるあたりは「国境は別れの顔」を思い出しました。もっとも今回の次元さんの相手は金髪美女でなく、銭形警部で、しかも格闘してましたが。

 このふたりの格闘なんて珍しいものが見られて嬉しかったです。次元さんはきっとリアルにフィジカルでは銭形警部にかなわないのでは、と思ってたら、マグナムまで抜き取られてて笑ってしまった。「いつのまに」って可愛いかよ。こういうとこ、ハードなⅢRDシリーズでも旧ルの若い次元ちゃんの匂いがして、じつに良いです。長髪が強風にあおられているビジュアルもありがたい。

 そしていざ川に飛び込む(台詞で説明しないあたりがスマートですね)にあたって、ぶつぶつ文句言ってるのも実に次元ちゃんらしい。十字を切ったあと手を合わせて「神様仏様お天道様、頼むぜ」ってかわゆさ無限大か。「射殺どころか凍死するぞ!」ってわたしもそう思いました。絶対に死ぬ。ルパンさまはともかく次元さんは普通の人間なんだから、なんか秘密のハングライダーみたいな道具でも出てくるのかなと思ってたらストレートに川に落ちててちょっと笑った。リアルで死ぬってば! 

 岸にたどり着いたふたりは、なんとかウォッカで助かったみたいですが、すごいなウォッカ。そしてここでの濡れネズミで前髪ストレートな次元さんが素晴らしかった。わたし次元さんは天然癖っ毛だと思ってるんですが(だから濡れたらまっすぐになる)たぶんここしばらく散髪をサボってたと思われます。可愛い。ほんとここの次元さん可愛い。

 舞台はロビエト連邦の国立劇場へ。みごとな演技で宙を舞うサーカスの美女は、あの峰不二子。どうやらここではイリーナ・スコツカフという偽名を使いつつ、最高指導者であるブレーリンの寵愛を受けていた模様。一週間後に行われる軍縮条約の調印式のパレードでも活躍を期待されており、餞別として豪華なネックレスをブレーリンから受け取ります。

 サーカスの空中ブランコを舞う不二子がほんとに奇麗で良かった。そして、最高指導者であるブレーリン(ブレジネフ+スターリンですかね、やっぱり)に対しても媚びるのではない余裕ある態度で接し、それだからこそブレーリンが彼女に骨抜きになっているのが伝わる描写がいいですね。しかし豪華なネックレスを見ちゃうと「ゴージャス」とささやいちゃう素直さが実に可愛い。不二子はこうじゃないとね!

 しかしブレーリンは不二子が不二子であることと、ルパンとの関係も知っていた。ルパンは爆弾テロ犯ですが、それでもいいのかな。もっとも最高指導者の前ではおかしな隠し事をせずに(どうせ秘密警察が調べたら分かることだから、と)振舞っていたら、そんなの関係なくなるくらいにブレーリンが不二子に惚れこんじゃったってことなのかな。さすが峰不二子ですね。それでこそ。

 一方、半分凍った姿で、道をさまよう次元とルパン。どうやら今回のロビエト入りはある島に向かうための行動だったよう。ふたりはどこかの店?に入り込み、服を着替えて民家から車に乗り込みます。そこで見つけた新聞に書かれていたのは、一週間後にアルカ合衆国とロビエト連邦が軍縮条約に調印する記念に白の広場でパレードがあるという記事でした。首都ヴォロクワまでの道を目指し、ふたりは出発します。

 半分凍った姿で歩いているふたりがギャグかと思った。凍傷で死にます。でもまあそこはルパンさまだから……(次元は?)。ふたりがお着替えしたのはお店か劇場かな(ロシア語の看板が読めませんでした)。ここでルパンは不二子が描かれたサーカスのポスターに目を留めますが、次元ちゃんはハンチング帽でキメた自分の姿にご満悦。「インベーダー」以来ですね! ここも若い感じがしてほんと可愛い。「おまえのセンスにはかなわねえよ」てルパンさまもしかしなくてもあきれてますか。なんでよ次元ちゃん可愛いじゃん!と思ってたら、それに「まあな」とツバを弾いて本気で調子に乗ってる次元ちゃんが出て横転しました。かわゆすぎないか次元大介。

 ねえねえ「墓標」の頃のツンツンさはどこに消えたの次元ちゃん。「血煙」「峰嘘」と徐々にこうなっていった感はあったものの、これはもうすぐに「次元大介っていう強い相棒がいなかったら、おまえなんざ今頃生きちゃあいねえな」とか言うようになるわ。可愛い。車に乗り込んでからは常にあの旧ルパンのにゃんこ口だし。可愛い。あと、「白の広場」というのは旧ソ連の「赤の広場」のもじりだと思います(記憶がある世代)。

 劇場を出た不二子の車を、追いかけてくる不審な車。やがて車は不二子の車に爆弾を投じ、不二子の車は横転します。不審な車から現れたのは、ルパン三世の姿でした。しかし、不二子はすぐにそれがホンモノのルパンでないことを見抜き、薄れゆく意識の中で、偽ルパンが爆破テロの犯人であると確信します。

 クレージーだな、と嗤う偽ルパンに対し、「手に入りにくい宝石ほど、一握りの人間の手元にあるものよ」と嘯く不二子がカッコ良かった。そしてすぐに偽ルパンの正体を見抜くんだけど、まあ声が違うからな! と思ったわたしを責めないで下さい。堀内賢雄さんの声はマジでカッコいいですが、それこそ、「目が違う」んだと思います。ここ、偽ルパンが空を見る場面に、「おれに殺せないものはない。人だろうと国だろうと、な……」という台詞の意味するものはなんなのか。ルパンなのに、盗みじゃなくて殺しなんだ、とは思いましたが、まだかれの中身がどういう人か、わかりません。

 舞台は首都ヴォロクワへ。銭形警部に警告を発するカラシコフ。「丸腰のおまえになにができる?」と言われても銭形警部は冷静にその場を去ります。一方、ルパンと次元も一週間以上の車中泊を経てようやくヴォロクワにたどりつきここでふたりの今回の目的が明らかになりました。ふたりは島へ向かうための飛行機の調達に来たのです。国家保安委員会がそれを阻止しようとしているというルパンの推理に驚く次元。そこにやってきた刺客。車を激突され、地下を通って逃げようとする二人ですが、カラシコフがその前に立ちふさがります。絶対絶命の危機に駆け付けたのは銭形警部。そして、偽ルパンによって人間爆弾に仕立て上げられたカラシコフの部下により、現場は爆破、火の海と化します。

 カラシコフと銭形警部の緊張感あふれる対峙がカッコいいですね。人命が喪われることを本能的に忌避し憎む銭形警部の人となりが短いやりとりでも十分伝わる。そして一週間の車中泊おつかれさまでした次元ちゃん。一方が運転してる間、片一方は寝ての繰り返しだったんだろうな。肩を鳴らす次元ちゃん可愛い。カラシコフに襲われてからの必死に逃げてたり絶対の危機の場面でも軽口を叩かずにはいられない次元さんがらしくていいな。「日本の公僕はあてにならねえな」ってなにを期待してるんだか。

 でも、ここのルパンさんの表情が絶妙です。やっぱり来たな銭形、おまえさんの理屈はこいつらには通用しないよ、でも分かってて来たんだよな……みたいなこと考えてるのかな。だから次元の発言には「しけたジョークはよせよ」になる。ルパンの頭のなかではきっと銭形警部の出現を利用してこのピンチを脱する考えがまとまりつつあるから。でも、その考えも超えたのが、偽ルパンの企みによる人間爆弾だったのかも。ここで「まさかおまえ」って次元に疑われてる三世さん可哀想。ていうかこの次元さんちょっとピュアが過ぎないか。可愛い。

 爆弾により、咄嗟にカラシコフをかばった銭形警部は重傷を負い、ルパンは爆弾魔と対峙します。爆弾魔、偽ルパンの狙いは軍縮条約を破談にするための警告と見抜いたルパンに、偽ルパンは「I’m an arch villain,Lupin The Third(おれは本物の悪党、ルパン三世だ)」と宣言し、ルパン本人をニセモノと嗤い、姿を消します。銭形は倒れたまま、ルパンたちはその場を去ります。前半はここまで。

 そんな場面ではないことは百も承知で書きますが、爆破からすんでのとこで逃げた次元さんの前髪が落ちているのが良かったです。こう見るとほんと全体的に若い。そして初めて偽ルパンと対峙したルパン。偽ルパンの邪悪な笑顔、すべては面白ければいいんだよ、という嘯きが、いっけんルパンらしい振る舞いでありながらも、ああニセモノだなあという感じでリアルでした。ルパンは、人の命が無数に喪われた場所で、絶対にこういうことを言わないから。

 続いて後半。爆破現場は後片付けに追われ、そこには怪我の手当てを受けているカラシコフの姿もあります。そこから傷ついた身で離れるものの、ついに力尽き雪の中に倒れる銭形警部。そしてその前に現れたルパンと次元は……という場面でアバンは終了。

 ここ、「ほっとけ、どうせもう助からない」って次元さんひどくないですか。でもルパンは、ちょっと楽しんでる。銭形警部はこんなことでは死なないし(たぶん)死なせないと思ってるから。ルパンはタフな人間が好きなんだと思います。

 銭形の傷をウォッカで洗い、覚醒させるルパン。理由を問われ「おれと似ているものがある」と答えるルパン。しかし銭形は否定し、ルパンは「ルパン三世はこの世界にふたりいらない」と言い残し、銭形の元を去ります。白の広場で軍縮条約の調印式が行われるのは、明日です。

 うわーうわーな場面でした。実際に声が出た。これまでの公式作品では、ルパンと銭形警部の関係性は、基本的にトムとジェリー、ロードランナーとワイリーコヨーテ、永遠の追いかけっこの文脈で表現され、良ければそこから生まれる友情めいた関係、あるいはだからこそ相容れないライバル心、もしくは折衷案としてのバディ、として描写されることがほとんどだったと思いますが、こういう風に語りますか! 解釈一致すぎて心が湧いた。

 もちろんわたしは「とっつあん」を相手にすることに慣れ親しんじゃってるルパン、ルパンを死なせたくなくて泣いちゃったりする銭形警部とかの関係性も大好きなんですが、今回のこれはツボだった。駄目、これはわたしの好きな三世さん。人間性がどこか欠けてて、はぐれてて、その事実を自覚しているルパン三世だもの。「紙一重だ」と空を見上げるルパンさまに倒れた。これは自身の心情の告白だから、銭形の顔はあえて見ないんだよね……。

 それに「雲泥の差だ」と答える銭形警部がまた銭形警部として百点満点。あのカリ城のとっつあんでさえ「なれあいはせん!」とルパンとの握手を拒んだんだから、ⅢRDの銭形警部なら当然の返答ですが、そこにさらに追い込みをかける三世さん。銭形が自分の言葉にまるっと賛成するとは思ってないんだろうけど、言っておく。そんな語らいがたまらなかった。

 そして、ちょっと離れた場所で、ふたりのやり取りが終わるのを待っている次元さんの描写もいい。次元さんはきっとルパンよりも警察には悪感情を持っているだろうから、ルパンが銭形を助けたりなんかいろいろ話してるのは、おれには関係ないぜ、な姿勢なんだと思います。そこはルパンの意思を尊重しているんだろうし、もしかしたら次元のなかにも銭形警部については、常の警察に対して持つ感情とは別のものがあるのかもしれません。そんなことを感じました。

 一方、偽ルパンに囚われている峰不二子。偽ルパンは調印式に参加するサーカスを利用するため、不二子を拉致したのでした。いよいよはじまる調印式にはマスコミが詰めかけ、白の広場はパレードで盛り上がります。パレードの車から群衆に手を振るブレーリンに、不二子がサプライズ演出として花束を贈ります。しかし、軽やかに宙を飛び、投げキスとともに不二子が贈ったひとこと「Boom!」の言葉と共に、ブレーリンのリムジンが爆破され、周囲は大混乱に陥ります。ブレーリンが生死不明となった爆破テロ。そのせいで両国の関係に暗雲が立ち込めるニュースが流れますが、それを山荘で眺めているのは当のブレーリンとおつきのイワノフ、そして偽ルパンでした。すべてはブレーリンと不二子に化けた偽ルパンの企みだったのです。

 偽ルパンの計画成功です。山荘での偽ルパンの顔がほんとにワルい。そしてここでブレーリンが語る「あらゆる需要と供給を産む。それが戦争だ」という持論は、ああ、こういう、戦争はそういう軍産複合体によってもたらされるものだという思想は、確かに冷戦の時代にはまことしやかに語られたものだなあと思いました。時代を感じた。

 死を偽装することで社会に居場所がなくなる、というイワノフの指摘に、ブレーリンは「世界地図に存在しない島」での余生を口にし、偽ルパンもまた島の存在を認めます。用済みとなったイワノフは偽ルパンによって射殺されますが、そこに瀕死の銭形警部が現れました。爆破現場にいた銭形警部は、爆破がブレーリンの影武者によっておこなわれたことを目撃し、警備主任であるイワノフの不在に着目してこの山荘にたどり着いたことを語ります。銭形に銃を向ける偽ルパン。

 「島」の存在が口にされましたね。すべての偉人がいる場所、というけれど、「複製人間」の設定で行くならば、そこにいるのはみなコピー人間なのでは……と思ったり。しかしそれどころでなかったのは、そこに現れた銭形さん。「いまにも倒れそうじゃねえか」ってわたしが思ったことを偽ルパンが言ったよ。昨日の怪我をそのままにしてるってこと? マジ死ぬよ! いや、そこはせめて包帯を巻いておこう。

 しかし、その怪我も雪のせいでなんとかなったらしい。理屈がよく分からないなあと思ったところに、回想場面で「すぐ溶けちまうよ、おまえの熱でな」とか三世さんが言ったものだからもっと分からなくなった。三世さんなに言ってるんですか。いやもちろん銭形さんがそれだけ正義の炎に燃える男だという意味だとは思いますが、それでも三世さんなに言ってるんですか。その方面に素養が薄いわたしでもいろいろ考えちゃったじゃないですか。いやその。

 銭形に向けられた拳銃。しかし発砲音が貫いた先は、銃を持つ偽ルパンの指先でした。さきほど倒れたはずのイワノフが撃ったのです。イワノフの正体はルパン三世でした。ブレーリンの企みはすでに暴かれ、軍縮条約は予定通り調印されることになりました。すべてはルパンによって助けられた不二子による暴露でした。激高するブレーリンですが、その怒りの言葉さえ、次元によって録音されており、ルパンもまたこれまでの会話を録音していたことを示します。それでも往生際の悪いブレーリンに銭形警部は怒りをぶつけ、ブレーリンに手錠をかけます。

 ここからの展開は、いつものⅢRDシリーズの構成らしく、騙し騙されの流れが謎ときされていって、実にカタルシスがありました。ここのルパンさまが青いジャケットなのが個人的にときめきポイント。緑でも、赤でもないんだーって。予告などでも見ていたんだけど、あらためて気づいた。これはなにかの意味があるのかな……。そしてそれに対する偽ルパンがほんとにワルい顔でカッコいい。

 そして回想場面の不二子ちゃんが、セクシーが過ぎる格好でちょっとびっくりした。バストトップが丸見えなだけじゃなく、全裸でしたね。偽ルパンひどい。それでも平然としてるルパンと、負けずに駆け引きしようとする不二子の関係性も良かった。ⅢRDのふたりはこれでいい。

 しかしサクソン大統領(ニクソンのもじりですね)に個人的に内偵を頼まれるって、不二子ちゃんの仕事はすでにそこらの女スパイの範疇を越えているのでは。同時にロビエトの最高指導者も手玉にとってるんだもんなー。

 そして、不二子ちゃんがブレーリンの姿を撮影し、次元ちゃんがブレーリンの声を録音しているということは、これはジゲフジふたりの協力プレイといってもいいのでは……?(プレイ言うな)次元ちゃんは「暇つぶし」とか言ってたけど、いい笑顔で楽しんでるからきっとそう。

 ここ、ブレーリンに対し正義の怒りをぶつける銭形警部はカッコいいのですが「見なよ、おれの銭形を」状態で後ろからそれを見てる三世さんはさすがにどうかと思いました。なんか嬉しそうなんだよ。いや、嬉しいんだろうね、銭形が本気で許せなかった爆破テロの犯人を示してやったんだから……。とか思ってたら、銭形が納得するわけもないブレーリンの言い草を聞いて、おサルさん顔で肩をすくめてて爆笑した。三世さんの可愛いが過ぎる。でもここの「私は一介の警察官、目の前の犯罪者を逮捕する」はすごくすごくカッコいい! 銭形警部のアイデンティティはここにある。すごくいい!

 しかし、ここで偽ルパンが笑いだします。偽ルパンもまた自分自身に爆弾を装着した人間爆弾となっていたのです。パニックになったブレーリンは上階に逃げますが、そこで偽ルパンは爆弾のスイッチを入れ、上階が吹き飛び、ブレーリンは死にます。がれきで上階がふさがれたことを確認した偽ルパンは、こんどこそ自身の身体に装着された爆弾のタイマーを起動させます。解除できなければ全員あの世行きだと。銭形は偽ルパンに殴りかかりますが、反撃されてしまいます。そこに加勢するルパン。しかし、爆弾の起動までの残り時間はわずか。銭形もカラシコフから渡された銃を持ち、立ち上がります。

 ブレーリンを逮捕して、あとは銭形さんが医者に行くだけと思っていたらまさかの展開。しかし、ここらへんからの偽ルパンの吊り上がった笑いと狂気と遊びが区別がつかない振る舞い、まるでジョーカーですね(アメコミの)。本当の顔があるかどうかも分からないあたり、爆弾を使うとことかも含めてよく似てる。

 ここからの流れも先が読めずにハラハラしちゃった。ブレーリンのちぎれた足が転がる描写とか、ⅢRDは大人のアニメだなと思います。そして、「どうする銭形!」とルパンが言うより早く偽ルパンに飛びかかって殴りつける銭形さんの行動の早さはちと笑った。でも、その特攻が考え無しのものじゃないことが明らかになるあたりはさすが!って感じ。銭形さんすごい。そして偽ルパンにとっても銭形は「面白い」男になったんだな……。とか思ってたら、その偽ルパンに怪我してるとこをがんがんに殴られちゃうんですが(マジ痛そうだった)。そこに突っ込んでくる三世さんがロケットみたいだった。すごかった。

 カラシコフと銭形警部の関係性もいいですね。さすがにあの偶然(銭形さんのいるとこにカラシコフが落ちてくる)はないだろと思いつつ、それがこんないい場面につながったのならよし! 男女だけど恋愛ではない、心が折れた公僕に同じ立場の人間として手を差し伸べる銭形警部、ほんとカッコいい。この映画の銭形警部、マジでカッコいい……。

 決意をこめて偽ルパンに狙いをつける銭形警部。しかし偽ルパンは「警察のおまえに人を殺せるのか?」と嘯き、余裕の表情。しかし、発砲音が響き、偽ルパンは崩れ落ちます。ルパンと銭形、ふたりは偽ルパンの足を狙ったのでした。しかし、爆破のタイマーは止まらないまま。ふたりは連鎖用の爆弾を爆破させて逃げ道をふさいでいた瓦礫を破壊し、外への道を開きます。偽ルパンの身体に巻かれた爆弾が爆破されるまでの数秒間で、ふたりは逃げ出し、偽ルパンは爆弾と共に散ったのでした。

 ここ、偽ルパンが銭形警部に狙われていても、余裕でネクタイを直すの、いやらしくて実にいいなと思いました。悪人!って感じ。で、銭形さんが足を狙うのは分かるけど、ルパンも足を狙ったんだなーと。ルパンもまた偽ルパンにムカつきはあるだろうけど、ここは銭形に譲ってやろうというか、銭形警部の意思を尊重しようという意思があったんだろうなとか思ってたら、ぜんぜん違った! 

 偽ルパンの生命を守ったわけじゃなく、タイマーが偽ルパンの心拍数を利用していたことをふたりとも同時に見抜いていたからこその狙いで、偽ルパンの、自分が撃たれて死ぬことで同時に爆弾を爆発させようという目論見も外させたって、実にしびれる展開です。それでも自分で死のうとする偽ルパン、耳まで吊り上がった笑み、ほんとジョーカーだなと思いました。そして「これも大いなる意志、ならば是非もない」の言葉と共に、かれの最後の瞳に映る後ろ姿はあのマモーに似た人物……。

 爆風に雪の上に投げ出されるルパンと銭形。「なぜ助けた」と問う銭形に「おれと組むか?」と応じ、煙草を投げてその場を去るルパン。やがて、テロ現場の空港に捧げられた祭壇に花を捧げる銭形警部の姿が映し出されます。カラシコフに銃を返し、ルパン三世を捕まえる決意を新たにする銭形警部。一方、ルパンと次元は、目的の飛行機を入手することに成功。そこには五エ門と不二子も現れ、4人は「地図にない島」へと旅立つことになります。そしてその後を追い、銭形もまた機上の人に……で終幕。

 ルパンと銭形が仲良く爆風に飛ばされているのを見て、なんとなく「複製人間」のラストを思い出しました。ⅢRDで「ルパン音頭」が流れるとはさすがのわたしも思いませんが、つくづく、仲良しだな……って。あと、ふたりとも丈夫だなって……。でも、偽ルパンについて「あいつの顔、変装じゃなかった」っていう三世さんの顔がいいですね。ちょっと驚いてる。もちろんそれは……ってことなんでしょうが。

 そして三世さんと銭形の対話がまたすごかった。「おれと組むか?」ってルパンが言った。ルパンが言ったよ。もちろん、銭形が泥棒と組むわけはなく、ルパンにとって最上級の褒め言葉、相手を認めたときに使う言葉がこれ、ってことなんでしょうね。もしかしたら、そのなかにほんのわずかの真意が含まれていたかもしれないけど。でも、銭形警部の返事はあくまで刑事としてのもの。そこがいいです。実にいいです。あと「医者に見てもらえ、死ぬぞ」はたぶん見てるひと全員の言いたいことをルパンさまが言ったんだと思う。銭形さんほんと丈夫すぎたので、やっぱり包帯くらい巻いてる描写があった方が良かったのではと思いました。

 カラシコフとの別れの場面も良かったですね! カラシコフが自分が渡した銃の残弾数を確認して、銭形が自分なりの正義を貫く戦いをしたんだなって察したあたりとか、公僕同士としての理解は万国共通なんだろうな、と思わせて。カラシコフが男性でもじゅうぶん成り立つ関係だと思ったけど、だからこそいい。恋愛じゃない、尊敬の念に近い心の通わせ方こそⅢRDの銭形警部にふさわしいと思いました。

 そして最後でようやく五エ門が登場しました。まあ今回は次元も脇役だったので(なんせマグナムすら抜いてない)(抜かれてたけど)、さらに五エ門まで登場させる余地はなかったとは思います。でも、すたっと降りてくる五エ門はカッコ良かった。もしかして待ち合わせのこの場所でずっと待ってたのかな。次元とルパンだ!って降りてきたとしたらほんと可愛い。いえ、極寒の山中で修業してたらしいですが。

 そしてそこに不二子ちゃんが登場。真っ先に反応したのが五エ門で次元さんじゃなかったのは、次元さんはすでに不二子が来ることを知ってたからかな! と思いました。ということはつきあってるのかな! 

 それぞれにトランプのカードを準備していたルパン、「旅行のチケットみたいなもん」と言いつつ、銭形にまで配ってた、というのが意味深です。ルパンの後を追い、ブローカーにたどり着いて、実力行使で情報を得る銭形さんがカッコ良かった。そして、飛行機に乗る銭形さんをみつめるオオカミも。

 というわけで感想でした。長くてすみません。こういうみっちり系感想は自分でも書いてて疲れるので、読んで下さったひとも疲れるのではと思いつつ、ほんとちいさいとこからおおきなとこまで拾わずにいられない密度の作品でした。この「銭形と2人のルパン」にはほんとに満足です。

 これなら劇場公開でも良かったと思うけど、「不死身の血族」への引きがはっきりしている作品なので、これを公開したあと、また三年とか待たされた可能性があったなら、無理!とは思います。でも、劇場で観たい完成度なのは間違いないので、「不死身の血族」と同時上映とかの特別興行をお願いしたいです! 

 個人的には、ふたりのルパン、というより、銭形警部とルパン、というテーマのほうがすごくて参っちゃいました。感想でさんざん書いたのであれですが、銭形警部というキャラクターを内面含めてここまで創り上げた公式作品って初めてなのでは……? と思います。わたしは新ルとかのお茶目な銭形警部も大好きだし、あれもまた銭形警部の魅力のひとつとは思っていますが、ⅢRDの銭形警部はこれなので、大満足です。

 で、その銭形警部と互角にやりあうというか、バディとかじゃないもっとねじれた深い関係性を持つ存在としてのルパン三世がまたたまらなかった。次元とも五エ門とも不二子とも違う顔を見せたと思う。三世さんの人物造形、こういうかたちでも掘れるんだなあと感心しました。めちゃくちゃ解釈一致なのでこれまた大満足です。

 そして偽ルパンに関して。面白かったのが「退屈なのが嫌い」「面白ければいい」ってルパン本人が言っても違和感ない台詞ですよね。でも、偽ルパンが口にすると、ニセモノ感が半端ない。やってることがルパン自身のセンスとかけ離れてるのはもちろんながら、やっぱり、偽ルパンがニセモノなのは、誰かに属している(隷属してる、とまで言っていいのかは分からない)存在だから、なんじゃないかなーと思いました。自由じゃないのよ。そして、偽ルパン自身は嗤ったけど、ホンモノのルパン三世には「美学」「センス」ってものがあるからこそ、ホンモノなんだろうな、と。

 いろんなことがまだ気になってて、そのあたりは「不死身の血族」見ないと正確には判断しかねるところでもあります。ただ、あの常に狂っていたような偽ルパンにも、まともな自我があったはず(不二子ちゃんを事故させたときのあれですね)なので、そのあたりもどうなんだろ、と。もしかして「島」にはまだ偽ルパンがいるのかしら。

 さて、あとはいよいよ「不死身の血族」です。これだけの「前日談」を持ってきてくれたからにはと期待も大。楽しみに待ちたいと思います。ここまで読んで下さったかた、ありがとうございました!

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