「とっつあんといっしょにお手手つないで天国に行くってのも、オツなもんだぜ」(cv山田康雄)。
ルパン三世ベストセレクション、第11位は、PART2第98話「父っつあんのいない日」でした!ベスト10も近くなったところで、中間発表には名前のなかったこの話が彗星のように登場です。びっくり。いつものように、ベストセレクションが放送されていない地域に住まうわたくしが、エア感想を書かせて頂きます。ネタバレありなのでお気をつけください。あらすじはこちら→(URL)。
まずは冒頭。緊張感ある仕事の場面ながら、ルパンの肩に銃身を乗せている次元、というあたりがなんとも二人の信頼関係をうかがわせますね。ここの「ナイスショット」ってルパンがいい表情。お宝を手に入れたあと、歯をむき出して笑う次元さんも!いかにもルパンらしい秘密道具を使って首尾よくお宝をゲット、そこに駆けつけた銭形警部とのいつものような追っかけっこ……と思わせておいて、まさかの銭形警部の殉職場面となります。
そんなこととは露知らずのルパンと次元は(ここでの次元さんの「あんな女のどこがいいんだ」というお約束に対してルパンの「どこもかしこもファンタスティックでしょうが」って返しがいいですね。夢みたいってことなんだな)、不二子と五ェ門に続いてなじられ、目を白黒させることに。ここらあたりが、ルパン一味と銭形警部のなんとも言葉にしがたい信頼関係のようなものを描いていて面白いですね。
そしてトリュフォーの悪企みが視聴者には知らされるものの、ハナから銭形警部が死んだと信じていないルパンによって、銭形警部の遺体強奪がはかられるのですが、それもトリュフォーの計算内。ヘリに襲われ逃げ惑いつつも、棺から飛び出しても動かないその姿を見て、ルパンも銭形警部の死を実感するわけです。危ういところを五ェ門に助けられ(余談ですがこの走って逃げるときになぜか舌を出してる次元さんがかわゆいですね)事なきをえます。このときのルパンの「泣かせるねえ。この単純武士道さんがよ」ってのがいいな。
そして、銭形警部の葬式がパリ警察の本部で行われることとなり、いよいよルパンによる仇討ちといってもいい計画がはじまります。わたしが思うに、このお話のポイントはここなんですよね。ルパンは、ここで「どんなことがあろうと、とっつあんの葬式はおれが出す」と言い切り、その信念のもとに、悪役トリュフォーとかれが率いるICPOを敵にまわしての銭形警部遺体強奪計画を立てるわけです。つまり、ルパンはもう銭形警部が生きていると思っていない。ただ、その死がほかの誰かによって弔われることが我慢がならない、それだけの理由でこれだけの大立ち回りをやってのけるのです。
もちろん、その死の原因が自分に押しつけられたことがなによりも腹立たしい、その仇討ちと弔い合戦というのがいちばんの理由なんでしょうが、わたしは、そこが、すごいなあと思うんです。だって、そんなことしてもルパンには一銭の得にもならないうえに、銭形警部はルパンにとってはずっと、目の上のタンコブであり世界一面倒くさい相手だったわけですよ。なのに、いざ死んだとなると、その葬式はほかのだれにもあげさせたくないの。犬死にさせたかと思うと許せないの。ルパンとはそういう男ではあるとは思いますが、真正面からここまでやられると、参っちゃうよなあ……。
そして、そのルパンの意をくんで、次元と五ェ門もそれぞれにとっつあんへの思い入れを台詞の端々に感じさせ、あの不二子ちゃんまでが(一銭にもならないのに)、ルパンのために必要な機密書類を手に入れるという(さすが銭形警部の葬儀に関する書類だけあって純日本風のとじ紐書類ですね!)、まさにルパン一味総出での、銭形警部奪還作戦(わたしにとってはそうです。すでに強奪じゃなくて奪還なんですよね、ニュアンスとして)がはじまるくだりには、胸が熱くなるものがあります。
いよいよ荼毘にふせられそうになったとっつあんを、まさかの方法でみごとに盗み出す(そして、この方法がまさに“盗む”ものだったということが、わたしには、大泥棒ルパン三世ならではの矜持と受け取れてしまうのです)ルパン。とにかくこの話、冒頭の宝石強盗の場面からトリュフォーの手から銭形警部を手に入れようとする二回の作戦、アクション場面がどれもテンポよく、カーチェイスに見どころがあります。そこがこの話が単なる人情噺で終わらないゆえんなのですね。ルパン一味はあくまでいつものルパン一味なの。でも、警官殺しの汚名を着せられ、なおかつ銭形警部という永遠のライバルを奪われて黙って見過ごすようなかれらじゃないってことなんですよ。痺れる。
そしてまさかのとっつあんの蘇生(笑)。ねえフランス警察は死んだからには一応検死とかしなかったんですかと言いそうになりますが、きっといろんなことがばれたらまずいトリュフォーがだれにも触らせなかったんですよ!そこで銭形警部とルパン一味がそろっての復讐劇が始まります。変装を解いてのルパンの台詞の軽やかさ、白布をはいだ次元さんの「とっつあんよ、出番だよ」の声が実にいい。もちろん、それに応じて帽子をかぶりつつ挨拶する銭形警部も!
ここで語られる、銭形警部を撃ったトリュフォーの部下と銭形警部との友情を示す場面が、短いながらに泣かせます。とっつあんは本当にみんなに愛されるひとなんだよねえ……、もちろんここでもその事実がなぜ皆の知ることとなっているのかという疑問が残りますが、ルパンの目に隠せることなんかなにもないんだよ!と言い切ってしまいましょう。
しかし、ここもウェットになるのは最小限に抑えて、スマートにかつ小気味良く復讐を終わらせ、ルパン一味は、ふたたび銭形警部との関係を立て直し、追うもの追われるものとしての関係性を再確認し、別れていくのです。「くふふ、そうこなくっちゃ、はりあいがねえもんな」というルパンの嬉しそうなこと。そしてそれを見た銭形警部の「このモンキー面の悪党め」というの台詞もたまりませんね(納谷悟朗さんの声があかんくらいに可愛いのだ……)。すみません、わたくし、思わず素で「イチャイチャすんな」とつぶやきそうに(ごめんなさい)。そしてそのまま実に軽やかにトランポリンで跳ねながら(笑)去っていくかれら。そこを警官らしい敬礼で見送る銭形警部の後姿まで、ほんとうにカッコ良く決まってます。
この話、なにがいいって、銭形警部の死というテーマを扱いながらウェットではないところ。ルパン一味はみんなとっつあん大好きなんだけど、この連中、とっつあんの死を確信した後でも涙の一滴もこぼさない。むしろこの話のテーマは銭形警部をルパン一味から奪った敵への実にスマートな復讐劇でして、話のどこにも無駄がなく、いい話なんです。「父っつあんのいない日」ではあるけれど、銭形回というわけではなく(なんせ話の半分以上、とっつあんは仮死状態だ)、むしろルパン一味回というか、とっつあんという存在を前にしたかれらの立ち位置がテーマでもある、非常に面白い話ですよね。シンプルにまとまって、出来が良い。新ルパンのなかでも派手ではなくても、評価が高い一作だと思います。この感想を書くために再見して、その思いを新たにしました。
しかし、冒頭にも書きましたが、いかな良作と言えど、中間発表に名前が出ていなかったこの話がいきなりこの順位で現れたことには驚きました。もしかしてまだまだ番狂わせがあるのかしら。わたしが投票した「次元に男心の優しさを見た」もランクインしたりしないかな(笑)。これからの発表がますます楽しみです。感想もこの調子で書いていこうと思いますので、どうぞこれからもよろしくお願いします!