ルパン三世ベストセレクション第10位「友よ深く眠れ」感想。

 「勝てるか、五ェ門……」(cv井上真樹夫)。

 ルパン三世ベストセレクション、第10位は、PARTⅢ第24話「友よ深く眠れ」でした!24位から発表されてきたこのベストセレクションも、ベスト10に入り、とうとう五ェ門回の登場です。いつものように、ベストセレクションが放送されていない地域に住まうわたくしが、エア感想を書かせて頂きます。ネタバレありなのでお気をつけください。あらすじはこちら→(URL)。

 冒頭、暗い部屋の中に、いかにも神々しい龍が模られた、高王朝の秘宝、龍凰文机台が浮かび上がるように登場し、物語の幕が開きます。そこにたたずむのは、今回の悪役、谷山。ただ笑うだけで間違いなく腹黒の悪人だと分かる、滝口順平さんの声の説得力は素晴らしいなあ。

 つづくパーティ場面では、真っ赤なチャイナドレス姿の不二子ちゃんが登場です。早速、腕輪に仕込んだカメラを使って文机台を盗撮するお仕事モード(この腕輪と指輪がお揃いなのが何気にお洒落だなあ、翡翠っぽい)ですが、このチャイナドレス姿はとても可愛いですね。そしてその姿に鋭い視線を向ける、一癖ありそうな男の顔に、今回のタイトルが浮かびあがる。タイトルの「友」がこの男、青龍を指していることを暗示しているようなタイミングですね。

 そして物語は、港での、銭形警部と谷山の場面へ。今回のお話しでわたしがとても感心するのは、この悪役、谷山のキャラクター造形です。たしかにどうしようもない悪なんだけど、一筋縄でいかない感がハンパないのですね。荷物の積み下ろしの場所に現れた車を見て殺気立つ部下に「手は胸から出しておけ」って、ああいう一言がうまい。銭形警部に対する「心配はいらんということだよ」という台詞も、この場面ではあくまでもう積み下ろしがはじまったから大丈夫だという意味に思わせておいて、後の展開で、この荷物はフェイクであることが明かされるわけです。

つまり、この場面での谷山の台詞はダブルミーニングなのですね。そういうの、頭いい感じがしませんか。そして、ともすればコミカルな感じになりそうな滝口順平さんの声が絶妙なバランスで、この谷山を小物ではない、ルパン(というよりは五ェ門、ひいては青龍)の前に立ちふさがる悪に仕立て上げていると思います。悪役がどこまでも悪じゃないと説得力がなくなる話なだけに、そこがうまいなあと思います。

 ここから、船の爆破という陽動からはじまるルパン一味のお仕事場面がいいですね。夜空から大鷲のように降ってくる五ェ門が、実にカッコいい!そしてルパンは、そのまま海中に没した荷物を海の中で待ち受けます。しかし、荷物はマトリョーシカのごとく何重にもなっていて、いいかげんルパンもあきれ顔(ここの「いいかげんにしろよう」の響きがいいんだ)。木箱に張られたスイートメモリー風ペンギンイラストが時代を感じさせます。

 谷山を人質にとり部下を武装解除させたうえで海中に向かう五ェ門を見て「あとは青龍に任せておけ」と意味深な一言を吐く谷山。一方、ルパンはとうとうお宝の文机台とご対面。唐草模様の風呂敷包みを取り出して「東京ぼん太」ってそれは放送当時でもさすがに古い。こういうとこ、実にパースリの三世さんらしいオッサン臭さですね(夢もチボーもない)。そのまま、船で待つ次元と合流するルパン。しかしそこには謎の男が待ち受けていた。その男は五ェ門と因縁があるようで……という展開になります。

 この場面に限らず、この話全体においてなんですが、五ェ門と青龍の場面が緊張感あふれるシリアスなタッチであるせいか、ルパンと次元のやりとりは、なんだか肩の力が抜けた感じのいい雰囲気の会話が多いですね。「てめえ、敵か味方か?」(手裏剣を投げられて)「間違いない、敵だ」(五ェ門と青龍の戦いを見て)「マンガみたい」「ああ、マンガだ」っていうあたりとか、とてもらしくていいです。ニセモノの文机台が爆弾特有のカチカチ音を立てているのを聞いて「やっだあ!こんな古い手まだ使っちゃってんのお?!」も好き。こうやって拾っていったらきりがない。全編通じて山田康雄さんが素敵すぎてつらい。

 結局、場所は変わって文机台が展示される「日中友好古代美術展」が舞台となるわけですが、そこに並べられた警備の数(次元さん曰く“銭形的物量作戦”“)を見てのルパンと次元の「あんなかから盗み出すのはコトですよう」「毎度のこったい」「つれねえ言い方」のやりとりも好き。この話の次元とルパンの会話はどれもこれも積極的に拾っていきたいレベルで好きです。そして、潜入活動をしてきた不二子ちゃんによって、谷山が青龍をだましていることとその悪事が明らかになります。

 しかし、個人的ハイライトは、やはりこのあと。谷山の悪事をきいた次元さんは「よくある話じゃねえか」とクールな反応。それに対し不二子ちゃんが「あーら、意外と冷たいのね」とあきれ顔をしてみせると、次元さんも「おまえが言うなよ」とポツリとひとこと。はい、いいジゲフジ頂きました!このふたりのあいだにある絶妙なアトモスフィアを感じるやりとりですね。パースリのジゲフジは、分かりやすいハッキリしたものじゃなくて、こういう水面下でなんかある感じのものがときどき見受けられるので油断できません。おいしいです(もぐもぐ)。

 そして、舞台は日中友好美術展のパーティへ。司会に扮した眼鏡っ子不二子ちゃんが可愛いです。五ェ門は青龍との因縁を思い返し、手品師に化けたルパン(一言もしゃべっていないのに、ジャケットを広げた満面の笑顔だけでルパンだと分かるんだよねえ)はみごと文机台を奪って五ェ門に託し、銭形を出し抜いたあとで不二子とともに屋上に向かいます。余談ですが、この話の不二子ちゃんはとてもまっとうにルパン一味の一員ですね。ルパンともほんとうにパートナーという感じがします。そういうところもパースリだなあ。

 ハングライダーを使う五ェ門っていうのも珍しいですね。また、糸の上での青龍と五ェ門の死闘は、スピーディで実に見ごたえあるものです。青龍がこの強さだからこそ話に説得力が出るのです。その戦いの末、傷ついてプールに落ちた五ェ門は瀕死の身体で青龍に真実を告げるものの、青龍は谷山の凶弾に倒れます。この場面、青龍が自らの身体で五ェ門をかばうところが台詞とならなくても、伝わる絆ですよね……。

 そして、駆けつけた次元によって、五ェ門とルパンたちは救われます。ヘリを待ちかねて「くそう、次元の馬鹿あ」とつぶやくルパンの前に「一人で帰ってもいいんだぜ」と現れる次元さんが楽しい。「次元さん次元さん(はーと)」と答えるルパンも。「次元、しばらく出てなかったから忘れておった」との銭形さんの言葉があんまりだ。ヘリの中でも「遅かったじゃねえかよう」「警察のヘリをだれが片付けたか知ってるのか」「次元さんでーす」と、相変わらずのふたりです。すいませんわたくし、素で「イチャイチャすんな」と言いそうに。

 そして最終的に、降りしきる雨の中で五ェ門の谷山への復讐が行われます。普段は峰打ちで済ませることの多い五ェ門らしからぬ残虐な行為が、プールに浮かぶ青龍の遺体を一瞬カットバックさせることで、その凄みのなかにどこか悲しみの余韻を持たせることとなり、そのまま、この物語は終わるのです。

 個人的に思うのは、この話、本来は前後編で見たかったくらいの密度と濃度があるお話なので、いきおい、ところどころが説明不足になったり消化不良なことは否めないということです。だってもうひとこと欲しいじゃないですか。青龍の一族を谷山が殺したうえで、青龍を自分の部下にした流れとか、五ェ門と青龍の因縁とか、文机台はけっきょくルパンのものになってないとか。

 でも、そういうところを削ってでも描かれた青龍と五ェ門の一騎打ちの場面、谷山の悪人としての凄み、ルパンらしい軽さがあふれたお仕事場面、そんなすべての流れが、最後の、あの五ェ門の衝撃的なまでの復讐の場面にたどりつくように構成されているんですよね。やっぱり傑作だと思います。内容だけでなく、青木悠三さんならではのパースリらしい作画も良い作品ですよね。青龍がほんとうに野性味あふれる、厳しくも美しい男として描かれているのがいいです。もちろん、それに対する五ェ門も美しかった。堪能しました。

 さて、いよいよこのベストセレクションもベスト10に入ったわけですが、じつは残る10位となったら中間発表から選んで順位予想しようかなとか思ってたんです。でも、11位にいきなり中間発表に入ってなかった「とっつあんのいない日」が来たもんで、これはもう読めないなあと断念しました。(わたしはまだ「次元に男心の優しさを見た」のランクインを夢見てるよ!)というわけで、これからも発表されるたびにわくわくとDVDで再見し(エア感想ですから)、感想を書いていこうと思います。いつかこの目で放送が見たいです。どうぞこれからもよろしくお願いします!