ルパン三世ベストセレクション第2位「死の翼アルバトロス」感想

 「おれは放射能とニンニクは嫌えなんだよ!」(cv小林清志)。

 ルパン三世ベストセレクション、第2位は、PART2第145話「死の翼アルバトロス」でした!かの宮崎駿監督(以下敬称略)が脚本、絵コンテ、演出を手掛けたとあって、新ルパンのなかでも抜群の知名度と人気を誇る名作です!いつものように、ベストセレクションが放送されていない地域に住まうわたくしが、エア感想を書かせて頂きます。ネタバレありなのでお気をつけください。あらすじはこちら→(URL)。

 まずは美しい湖のそば、キャンピングカー(?)と思しき狭いアジトのなかですき焼きをつつくルパンたちが映ります。このすき焼き、そして生活感あふれるごちゃごちゃした部屋が映るだけで、なんていうか、しょっぱなから、いつものルパンとぜんぜん違う感が溢れます。そこはもうさすが宮崎駿なのですね。狭苦しいスペースに重なり合って並べられた生活用品の数々が、実にこまかく、リアルなのです。

 そしてこのすき焼きが、実にトラディショナルなスタイルで美味しそう。それを見てわくわくしてるルパンはランニングシャツ姿で実に気楽なスタイルです。「不二子が来ないけど、おっぱじめよっか」というルパンの台詞を受けての次元の「こんな田舎に呼びだしておいてすっぽかすとはなあ」という言葉から、このすき焼きパーティは不二子ちゃんを待ってのことであると分かります。「いつものことだ」と片付ける五ェ門もらしいです。この男三人が膝をつきあわせてる描写、冷静になれば、かの世紀の大泥棒ルパン三世さまの食卓とは思えない風景でもありますが、違和感がまったくないのがいいですね。すぐれた演出力さえあればちゃぶ台で向かい合っても宇宙人ですら違和感ないことは、かのメトロン星人も教えてくれた真実です(ルパン関係ない)。

 そしてやはりここで見逃せないのは、すき焼きにビール入れちゃう次元さん!「この方がコクが出るんだよ」って名台詞だよねえ。これを見てからすき焼きのたびにビールを入れる誘惑と戦ったりはしませんでしたか。日本酒ならまだしもビールはなあ……と思わないでもないけど、ヨーロッパにはそういう料理もあるのは確か。世界をあちこちふらついたであろう次元さんのルーツも感じられる場面ですね!(考え過ぎ?)そして「カリ城」のスパゲティの場面を彷彿とさせる(これが原点なんでしょうが)次元とルパンの肉の奪い合い、そしてそのそばで涼しい顔して肉を根こそぎさらっちゃう五ェ門という名場面に続きます。「ネギ食え、ネギ!日本人だろうが!」って本気で怒るルパンまで、ぜんぶで1分もない場面ですが、実に楽しいですよね。ここはとにかく五ェ門がいい。ぐうかわ。

 しかし、そこに飛び込んできたのは不二子ちゃん。ルパンたちに説明もなくマシンガンをぶっ放し、追っ手は手りゅう弾で応戦します。それに巻き込まれてキャンピングカーから逃げ出すハメになる三人ですが、すき焼き鍋を持ったままのルパン、箸を持ったままの次元というのがいいですね。そしてそのすき焼き鍋には不二子の置き土産が。

 一方、敵に捕らわれた不二子ちゃんは一糸まとわぬお姿に。あのね、ここの不二子ちゃんの余裕綽綽な態度は最高なのですが、このレースたっぷりの下着とさりげなく見えるバストトップの描写が、その、細かいところまで手を抜かない宮崎駿ならではの性癖(あ)を感じさせます。そしてここでタイトル。主役たちのシンプルな紹介、アクション、敵、そして謎の提示。それらが詰まったこれだけの情報量で、4分足らずですよ。すごいなあ。

 さて、残された不二子の置き土産を調べるルパン。そこでコーヒーを入れる次元、外をうかがっている五ェ門という役割分担がさりげなく描写されているのがいいなあ。不二子の置き土産の正体を「原子爆弾だよ」と軽く言うルパンに、おおげさに驚いて「おれは放射能とニンニクは嫌えなんだよ!」という次元さんがかわゆい。ここでもシケモクたっぷりの灰皿に、サントリーならぬ「YONTORY」のウィスキーの瓶などの細かさが楽しいです。

 しかし、そこでそれが超小型原爆の発火プラグであり、それで商売をしようとしているだれかの存在に気づくルパン。それが使われたときの惨状を想像し、ひとこと「好かんな」とつぶやく五ェ門、短く「ああ」と応える次元がいいですね。ルパンも軽く話してはいるけれど、気に入っているわけはない。不二子ちゃんはもちろんですが、この話でのルパンの最終的な獲物がなにであるかを示す描写でもあります。

 やがて舞台はその近く、ロンバッハ航空博物館へ移ります。ICPOのロゴ入りの飛行機でそこに現れたのは銭形警部。しかし、一瞬だけ見えたパイロットが見慣れたヒゲ姿なあたりで、その正体は知れています。ここをルパンが狙っているという情報を手に入れた、と館長の案内の元、博物館のなかに入る銭形警部は、そこで50年前の巨大な飛行艇、アルバトロスを目にします。館長の説明を聞きながら大げさに感心してみせますが、ここの銭形警部は、まあルパンなわけです。でも変装はみごとに銭形警部なんですよ。それを表情と目の動きだけでルパンだと表現するこの動きがとてもみごとなのです。もちろん、ルパンが演じている銭形警部の声を演じる(ややこしいな)納谷悟朗さんの声の演技も素晴らしいのですよ。銭形警部の声なのに、ちゃんとルパンなの。

 そしてわたしはそんなに派手なことをするわけではないこの場面のルパンが好きです。館長との腹の探り合いが実にカッコいい。だって、銭形警部の顔のマスクを剥がして、それを動かしながら「証拠はあがっとる」と銭形の声で言ったあと、「観念せい」と素の声で続ける、この遊び心など、まさにルパン三世そのひとではないですか!

 その軽やかさは、つづいて拘束された不二子ちゃんを見せられて「ほぼスッポンポンのポン、と。粋な趣味ですなあ」とグフフと笑うところまで続きます。しかし、そんな風にルパンが言うのも無理ないくらいにここの不二子ちゃんは可愛いです。そしてあの、ここから続く、下半身のみがヌードって設定は、なんというかほんとうに趣味ですよねえみやざ(略)。

 そして、ここで発火プラグと不二子の交換を館長に持ちかけられるルパン。「大損だよ、不二子じゃな」「ふふ、本心では愛しておられる」(ここの館長の目!)「いやあ、つけまわされてもううんざりだ」という館長とルパンのやりとりを聞き、べーっと舌を出す不二子ちゃん。それにあかんべーと舌を出して答えるルパン。すごいよね。もしわたしがルパフジ者なら、殿堂入りで心に刻む名場面です。通常の「ふーじこちゃん」「ルッパーン」なやりとりも大好きなんですが、たまにこういうところを見せられるとドキドキします。こどもっぽいけど、対等な立場にある大人のやりとりだと思うんですよ。

 やがて、駆けつけた銭形から逃げるルパン。残された不二子は館長にアルバトロスの処女飛行のプランを聞かされ、ついでに第一夫人に、とのプロポーズ(?)も聞かされ、げんなりした顔に。一方、ルパンは次元とともに不二子をスッポンポンにしとけっかよ、と着替えを持って館長に指定された湖へ取引に向かいます。しかしそれは罠で、銭形警部の人海戦術の前にはなすすべくもなく、御用となります。ここでの銭形とルパンによる「昨夜日本から不二子の電話があったよ。おまえと別れたいと泣いておった」「説得力あんなあ……本気にしちゃう」ってこのやりとりがわたしは大好き(笑)。

 そして護送車に放り込まれた次元とルパン。「おれはな、もう鬼ごっこにはうんざりしたんだ。今回でけりにしようぜ」と言う銭形警部、カッコイイですよね。徹底的に裸に剥かれた次元とルパン(やまほど出てくるルパンの隠し道具がほんとうに楽しい)、武士の情けだと残してもらったのは下着と帽子だけという姿になります。が、そこはさすがのルパン三世。いまだ残っていた秘密道具でみごと護送車から逃走です。言うまでもないですが、手錠と足かせでつながれた次元とルパンの逃走シーンの楽しさとかわゆさときたら!

五ェ門の助けを借り、自由の身となったあとは、ボートでアルバトロスの飛行を止めようとしますが、間に合わず、ふたりは航空博物館に取って返して飛行機を盗みます(ここで飛行機に乗りこんだ瞬間に底が抜けて落ちちゃう次元さんがかわゆい。帽子が一瞬浮くのです)。そしてそこに駆けつけた銭形警部ごと、空へ。この一連のシークエンスのテンポのよさったらないですね!無茶な展開も流れるような動きで見せてしまうのだ。

 一方、空を飛ぶアルバトロスでは逃げるチャンスをうかがう不二子。こう見ると、ほんとうに下がスッポンポンのポンなのですが、下品に見えないのはさすが宮崎作画。そこに飛行機で駆けつけるルパンですが、アルバトロスの重装備の前ではなすすべもありません。しかし、ここでいつのまにか手にした銭形警部のコルトガバメントで応戦する次元さんがカッコいい!ステテコ姿で頬もこけてて髪ももっさりで、異様におっさんくさいけど、素敵!(笑)どんどんどん、と撃っておいて、弾が無くなり予備もないと分かると、銭形に銃を返して、しーらないとなるあたりまで最高ですよね。

 そしてこの一連のくだりでは、ピンチにもかかわらず、不二子ちゃんに向かって手を大きく振るルパンというあたりがまたいいのです。べーってしてたくせに!(笑)そんなルパンの危機を見て、ちょうどのタイミングで不二子も行動に移ります。「抱いていってくださる?」って流し目の色っぽいこと。いや、見事な足技ですが、また絶妙な位置にテーブルがありましたな……。

ここからの不二子ちゃんのアクションは、正直言ってわたしの目にはまったくもって不二子ちゃんらしくはないのですが、この宮崎ルパンの不二子ちゃんならそうするのでしょう。いやもうほんと、下半身がスッポンポンのポンとは思えない素晴らしいアクションです(わたし、スッポンポンのポン言い過ぎですか)。それにしても、見ているだけで気持ちいいような動きで、解説する言葉も失うような展開です。不二子ちゃんがアルバトロスを制圧したようなものだな、これ。

 しかし、そう思いかけたところで「けりをつける、もう油が無いんだ」との台詞のもと、BGMも「ルパン三世のテーマ」になり、ルパンが場をさらうのです。不二子が道を開き、ルパンが無茶をやって乗りこむ。意識を失った不二子にやさしく声をかけるルパンと言う流れまで、これはみごとなルパフジですね。でも、わたしはちゃんと確認したけど、不二子ちゃんは次元さんの太ももの上でおねんねしてたよ!。この話、唯一のジゲフジポイントですねってさすがに無理があるとは分かっているのでそっとしておいてください……。

 そして、どんどん高度が下がるアルバトロスをなんとかしようと大荷物を捨てる次元たち。不二子ちゃんに押し出されそうになる次元さんがかわゆい。そして隠れていた館長とともに銭形警部は退場です。ここで、とっつあん、ではなく「銭形!」と次元さんが叫ぶのがなんかいいですね。

 ようやく湖が見えて安心したところで、ルパンに抱きつく不二子ちゃん。それをやさしく抱きとめ、その髪を撫でると見せかけて、髪に隠した発火プラグの設計図を抜き取り、次元に渡すルパンがさすがです。取り上げられてむくれる不二子の頬にキスするルパン、たまんないですね。ツン、とする不二子ちゃんこみで。だって、不二子はルパンから再びそれを手に入れるわけにはいかないと分かってるんだもの。だから、それをなだめるための頬へのキス、不二子ちゃんの意地としてのツン。ルパフジだ。公式だから当たり前だけど、すごいルパフジだ。そして設計図は次元さんの手によって破りすてられ、みごと大団円となったのでした。

 いやあ、この「死の翼アルバトロス」。やはり名作ですよね。わたしは基本的にスタッフとか製作者がどうとかいうレベルで作品を鑑賞するには力量と知識が足りない人間なので、あまりこう「宮崎だからうんぬん」とかは言えないんですが、「未来少年コナン」が原体験で、最高傑作は「原作版」(強調)「風の谷のナウシカ」と信じてやまないタイプのめんどくさい宮崎駿好きではあるので、バイアスかかってるとは思います。それでもとにかく、この理屈抜きのアクションと展開には心を奪われます。

 そもそもわたしは「ルパン三世」は果てしなく深い懐をもったコンテンツだと思ってるんですね。その作品世界に内包できない要素はないかもしれないくらいに、なんでもできる、なんでも模れる、自由な世界。それだけに、その製作者の力量や内的世界がはっきりとするコンテンツだとも思うのです。

 その意味で、この「死の翼アルバトロス」は、あの宮崎駿が思う存分に腕を振るった「ルパン三世」の一エピソードとして、最高に楽しくて素敵な話だと思います。ほんとうに飽きないんですよ。細かい描写ひとつひとつが楽しくてならない。面白かった。そしてこれはあまりにも余談ではあるのですが、じっくりと見るとまるごとルパフジな話でした(笑)。

  さて、ベストセレクションも残すところあと一本。つまり、第一位は「さらば愛しきルパン」ですね。来週はお休みらしいので、再来週に書くことになりますが、この「死の翼アルバトロス」の感想がそうであったように、「名作なんだからそんなに言うことないかな……」と思いつつ、いざ書いたらまたみっちりと書きそうです(今回も本当に長くてすみません……)。勢いで始めたこのベストセレクションのエア感想(とうとうエアのまま終わりそうです)ですが、感想のお言葉や拍手などの反応を頂けたのはほんとうに嬉しいことでした。励みになりました。ほんとうにありがとうございます。どうぞあと一本もよろしくお願いします!