十三代目石川五エ門の声を演じられていた、俳優で声優の井上真樹夫さんが亡くなられました(URL)。
訃報を聞いたときには、ちょっと信じられなかった。Twitterの新着をチェックしてたら、「ハーロックが」「五エ門が」というつぶやきが流れてきて、もしかして、と思ったけれど、つい先日までお元気そうにツイートされていたし、講演活動などもされていたはずだった。でも、すぐに事実は確認できて、ほんとうに参ってしまった。
そういう年齢になってしまったのだと思う。子供のころから慣れ親しんで、大好きだった声優さんが、鬼籍に入られるニュースが、珍しくなくなる(そう思えば、山田康夫さんはなんと早くに亡くなられたのだろう……)。いいかげん慣れたと言って斜にかまえたいくらいなのに、そんな知らせが届くたびに、わたしはいつも落ち込んでしまう。またひとり、と向こうの世界に旅立たれてしまうことに慣れることはない。
井上真樹夫さんは、わたしにとってはもちろん五エ門のひとでした。これはもう骨の髄まで染みついたものなのでしかたがないというか当たり前なのです。大塚周夫さんの渋さも浪川大輔さんのイケメン声も、どれもが間違いなく五エ門として大好きだし、比べるようなものではないけれど、わたしのなかで浮かんでくる五エ門の声は、やっぱり真樹夫さんのものでしかない。ただ、わたしは、声を演じたひとが亡くなられたからといって、そのキャラまで亡くなったかのように扱う風潮は好きではありません。そういう現世の縛りから自由であるからこそ、かれらは創作の世界で輝ける存在なのだと思うから。
だから、わたしはあくまで素晴らしい演技で観るものを楽しませてくれた声優であり俳優である井上真樹夫さんの死を悼みます。五エ門以外の役柄で心に残っているキャラクターは、と自分自身に問うならば、ガンダムのスレッガー(映画版)ですね。あの大人の軽さをまとった、しかしただ軽薄な男ではない素敵なかれを、みごとにこの世に生み出したのは真樹夫さんの声だったと思います。
そしてもちろん、いまでもその気になれば、スレッガーもハーロックも五エ門も、すぐにわたしの目の前に現れてくれるのです。それを可能にしたのは、かれらが創作物の世界の住人だから。そんな創作作品のキャラクターである彼らは、絵や物語や設定がない限りこの世には存在しません。そのかれらにまさに命を与える「声」を吹き込んでくれたのが、井上真樹夫さんなのだとわたしは知っています。それがどんなに尊いお仕事か、どんなに感謝しても足りません。
心よりご冥福をお祈りいたします。ほんとうにありがとうございました。
追記)井上真樹夫さんの訃報に際し、ルパン三世公式Twitterで声優のみなさまからのお悔やみのコメントが紹介されています(URL)。どの方の言葉もせつなく、重いのですが、わたしはもう小林清志さんの言葉がとにかく、もう……という感じで言葉もありません。さみしいです。