ルパン三世PART4第5話「魔法使いの左手」感想

 スポットライトが照らされた舞台の上で口上を述べるサーカス団の男。期待に胸を躍らせる観客を前に、舞台では、不二子が柱に鋼鉄の鎖で縛りつけられています。燃え盛る矢が不二子を狙うところに駆け付けたのは、ルパンと若い男(ルカ)。しかし危ういところで間に合わず、燃える矢は不二子を狙い、不二子は燃え盛る炎のなかへ。愕然とした顔でそれを見守るしかないルカ。かれのもとをルパンが訪れたのは、いまから数時間前のことでした。

 記者と思しき変装をしたルパンとカメラマンの変装をした次元は、頭にけがをしたルカの入院先を訪れていました。「教えて下さい、ルカさん。峰不二子にとって、あなたはどんな存在だったのか」というルパンの問いに、ためらいを見せるルカ。アバンはここまで。

 ルカは、サーカスの取材のはずなのに不二子のことを問われて不審そうにしますが、ルパンはルパンで、不二子との一幕を思い出していました。不二子は「あなたとお別れ、もう会わないってこと」とルパンに告げたのです。「なんだ、男でもできたのか? おまえはそんな女じゃねえだろ」と納得いかないルパンですが、レベッカのことをほのめかされてしまい、そのまま背中を見送るしかなかったのです。

 そんなことを思い出したルパンは、ルカに「おれは不二子って女をようく知ってる、あいつが男に近づくのは、お宝を奪うとき……」と告げ、それに合わせて次元も「たぶんあんたもあの女に騙されて……」といいますが、ふたりともルカに一蹴されてしまいます。

 ここ、ルパンさまの黒縁眼鏡姿が堪能できてほんとうにありがたいのひとことなのですが、カメラマンに扮している次元さんも、珍しい格好で可愛いですね! 不二子がルパンに別れを告げること自体はそれなりにあった気がしますが、たいていはお宝絡みの男絡み。ルパンは今回もそれだと思ってやってきたというところでしょう。

 「奪われてなんかいない、彼女はぼくにたくさんのものを与えてくれた」と言ったルカにより、ひまわりの咲く場所での不二子との出会いと、不二子がサーカス団の看板になっていった過程が語られます。ルパンは取材によって、それを快く思わない他の団員もいたことや、死んだ魔法使い、トニーが記した100のマジックのタネ〝トリックレシピ〟を受け継いだのがルカただひとりであることを突き止めていました。他の団員たちは、不二子がそれを狙っているのではないかと疑っていたのです。

 そして、団員以外には知らされていなかったトリックレシピのことが、いつのまにか外部に漏れ、イタリア中のサーカス団がルカから秘密を聞き出そうとやってくるようになりました。しかし、ルカは決して明らかにしようとはしません。そのとき、不二子がトニーの死にまつわるスキャンダラスな噂をルカに尋ねます。レシピをすべて聞き出したルカが、ショー中の事故に見せかけてトニーを殺したのではないか、というのです。団長はその噂を真っ向から否定するものの、他の団員のルカへの視線は冷やかなものでした。

 ルパンが団員たちに事情を聞いていく流れがスマートでいいですね。そして猛獣使いのところでルパンが話を聞いているあいだに虎にちょっかいを出している次元さんがウルトラキュート。虎がまんざらでもない顔なのがいいな。こういう小さな遊び、嬉しいです。

 ルパンは、他の団員たちのコメントをルカに聞かせ、次元も「やっぱりあの女、お宝目当てじゃねえか」と笑いますが、ルカは「物事の一面でしか、事柄を判断できないんですね」ときっぱり言い、次元を怒らせます。ルカがトリックレシピを他の人間に教えない理由は、いまは亡きトニーがルカの手を取りささやいた「わたしの魔法を受け継げるのはこの右手だけだ」という言葉でした。

 「だから決めたんです。いつかかならず、一人前のマジシャンになって、ぼくの力で魔法を復活させるって……!」だからいつの日か……と心に決めていたルカですが、不二子の「リスクを背負わなきゃ、ひとはなにも得られないの、富も名声も……愛もね。信じなさいよ、自分の右手を。魔法を受けつげるのは、この手だけなんだから」という言葉に、とうとうマジックの特訓に本気で取り組むことを決めたのでした。自分を奮い立たせてくれた、不二子との未来のために。頑張ってマジックの特訓を続けたルカ。しかし、魔法を復活させようとして不二子を呼びだしたルカの目の前で、そのすべてが崩れ去ったのでした……。Aパートはここまで。

 やっぱりPART4はいいな! とAパートだけで言ってしまいますが、不二子のキャラ把握が完璧でニコニコしてしまいました。ひまわりの花が舞い散るなかの不二子ちゃんが素晴らしく美しいうえに、カッコよくもやさしいのが最高です。しかも、この素敵な言葉が、ルカ本人を本気で案じてなのか、それとも〝トリックレシピ〟目当てのお芝居なのか、どっちにとってもいいような構成になっているのがまた良い。峰不二子はこういう、謎の女じゃないといけないんですよ!

 色気頼りの甘い声を出すだけの女ではなく、あさはかな計算で男をだます術に頼っているわけでもなく、自分も十分に身体を張りながら、丁寧にゆっくりとルカの心を動かしていくこの手腕こそが不二子です。あくまでルカの視点で語られるこのAパートまでの段階では、不二子の本心は誰にも分からないわけです。

 ルカが不二子のことを自分を奮い立たせてくれる女神のような女性だと思い込んでいることは分かるけれど、不二子自身の狙いが、ほんとうにトリックレシピなのか、それともちょっとはルカが可愛いと思わないでもないのか(いやないとは思うけど)、そして冒頭、ルパンに別れを告げた本心はどこにあるのか。謎だらけの不二子は、ひまわり畑の中でただ美しくたたずむのです。

 Bパート。不二子の元に駆け付けたルカでしたが、かれを迎えたのは、敵意をむき出しにした他の団員たちと団長でした。逆さまに吊り上げられ、虎に襲われる不二子を目の前にしたルカに、団長は「わたしも心苦しいよ。またおまえから大切なものを奪わなくてはならないのはね」と告げ、不二子の安全とひきかえに、ルカから脱出マジックのトリックレシピを手に入れ、ルカは不二子をかばい、頭にけがを負って入院したというわけでした。しかし、そんなルカにルパンはTVを見せます。そこには団長と共にトニーの魔法の復活を宣伝する不二子の姿がありました。愕然とするルカ。

 わーい、悪女だ! まあそれはそうだろうという展開ではあるのですが、お約束であっても、不二子の美しさと頭の良さがはっきりしていていいですね。それに、ここにいたっても、不二子は本当に団長と手を組んだのかは怪しいところ。だって、ルカはまだ99のレシピを持ったままなのですから……。

 愕然としているルカに、次元は「グルだったんだろ、団長と不二子は。おまえは騙されていたんだよ」と告げますが、ルカは「そんなのだめだ」と顔色を変え「脱出マジックをするのは団長じゃなきゃダメなんだ!」と叫びます。ルカは、正しいトリックレシピではなく、マジシャンを死に追いやる〝死のレシピ〟を団長に渡していたのでした。病室を飛び出すルパンたち。

 そして、ここ。しつこくおまえは騙されていたとかああいう女だとか言い続けているヒゲのひとが可愛くてならんのですがどうしたらいいですか。もしかしてルカにちょっとムカついてましたか(そう思うとルパンはわりとずっと冷静なんだよね……。まあ、ルカみたいな男の子に不二子が本気になるはずはないと分かってたんだろうけど)。

 そしてサーカスでは冒頭の場面に。駆け付けたルパンたちの前で、不二子は燃え盛る炎に包まれます。絶望するルパンたち。しかし、そこに無傷な姿でスポットライトを浴びる不二子が現れます。あっけにとられるルパン。一方、トニーを殺したのが団長の陰謀であると確信したルカはナイフを持ち出し、団長に迫ります。追い詰められた団長は、トニーが、息子の自分ではなくルカにサーカスを継がせるといったせいだと告白し、ルカは団長にナイフを振り下ろそうとします。しかし、危ういところでそれを止めたのは不二子でした。

 ふたりきりになったルカと不二子。不二子がトリックレシピが死のレシピだと気づいたのは、ルカが〝ひとをあざむく〟左手で、レシピを団長に渡していたせいでした。〝死のレシピ〟だと分かっていてショーを実行した理由は「あなたを守りたかったの。あんな奴のためにこの手を汚してほしくなかった」と不二子に打ち明けられたルカは、感動で不二子を抱きしめます。不二子はその耳元で「一緒に来てくれる? こんどこそわたしが、あなたを本物の魔法使いにしてあげる」とささやくのでした。

 この一連の謎解きも伏線がしっかりあるうえに驚きはないものなんですが、不二子の絡め方がいいですね。悪女と見せかけて実は……って、こんなことされたらそりゃ惚れてまうやろ。不二子の言葉はすべて嘘でお芝居で、信頼できないものだとわたしたちは知っているけれど、同時に、とてつもなく魅惑的なものなわけです。ここまで夢見心地にさせられたら文句ないよねえ。ルカと不二子の周りのひまわりがすべて枯れているのは、これがひと夏の夢の終わりである証拠なのかもしれません。

 新しいサーカス団と契約を結んだルカは、不二子を探しますが、そこにその姿はありません。不二子の仕事は、そのサーカス団にルカを入団させること、だったのです。報酬を手にした不二子に、ルパンはその事実を指摘しますが、不二子はただ「あなたとはお別れしたはずだけど?」というだけでした。ルパンは「おまえの願いは何でもかなえてやりたいが、それだけはできねえ相談だな」と答えます。

 ルパンを無視してハーレーにまたがった不二子の前に、ルパンはたちふさがり「最後に教えてくれ、おまえは奴を奪ったのか、それとも救ったのか?」と問いますが、不二子はふっと笑って「……どっちがお好み?」とささやき、その場を去ります。それを見送り「まったく、怖え女だぜ」と次元が言うと、ルパンは「イイ女じゃねえか。こうじゃなくっちゃな、峰不二子って女はよ……」と笑い、ハーレーにまたがり、ひとり走る不二子の胸元には、ちいさな枯れたヒマワリが一輪、飾られているのでした。

 ……というわけで、幕。いやあ、これまでにも何度も見ているけれど、作画といいキャラ解釈といい、ほんとうに満足いく不二子回です。ここまで正面きった不二子回って珍しくないですか。

 ここには、第1話でルパンの足を引っ張った不二子の姿はどこにもありません。不二子があわや、という危機の場面でもルパンは何の役にも立ってません(言いすぎか)。不二子はあくまで不二子の仕事をやってのけただけで、ルパンと(そして次元は)、その過程を横で眺めていただけに過ぎないのです。惚れてまうやろ。このPART4という、ルパンにレベッカという花嫁が存在するシリーズにおける不二子の立ち位置としても、これが正しいと思います。何回も言いますけど、不二子は有能で頭がよく、嘘のかたまりで欲望に忠実で、なのに、そのすべてがたまらなく魅惑的な女なんですよー、いいないいな!と思いながら感想を書きました。お話自体も、サーカスという舞台のせいか、新ルっぽいほどほどの緩さで楽しめました。こういうのでいいんですよ、こういうので。

 で、あの。ジゲフジ的解釈ですが、この話自体では接触はほぼないふたりといえど、冒頭で不二子がルパンにお別れしてますので、不二子ちゃんのお気持ちやいかに、と解釈して一本書きました(URL)。わたし個人のこの話のジゲフジ的解釈はそれに詰まってますので、良かったら読んでみてください。それはあくまで不二子視点ですが、あの、いちいちルカに突っかかってた次元さんの態度を思うに、次元さんもまあなにか思うことはあったのではないかと思います。弊社としましてはその解釈で参りますので御社のほうもどうぞよろしくお願いします(会社じゃない)。

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