ルパン三世PART5第23話「その時、古くからの相棒が言った」の感想です。公式サイトによるあらすじはこちら(URL) 。(わたしはhuluにて視聴しています)以下の感想は、完全にネタバレですので、大丈夫な方のみご覧ください。では、どうぞ!
今回のアバンは、前回ラストの場面。エンゾに向かって「パパ、ルパンを助けて!」と懇願するアミちゃんのアップから始まります。アミがエンゾの娘であることに驚く不二子に「ある意味、わたしはヒトログの生みの親ってわけね」と苦い笑いで答えるアミ。倒れたルパンを懸命に解放する五エ門ですが、やがてそこには銃を構えた大量のセキュリティと、エンゾとリンが現れます。
「ルパンの弱点はファミリー。ヒトログの分析通りだったな」と笑うエンゾ。しかしかれは、自分の前に立ちふさがるアミを見ても、たいした反応を見せません。「アミ・エナン、ユウコ・エナンとあなたの間に生まれた娘よ」とのアミの言葉に、隣にいるリンが、良かったなと笑っても、エンゾ自身は、ヒトログの分析がルパンに勝ったことのみを喜び、目の前のアミの存在にはなんのインパクトも感じていない様子です。その反応に、表情をこわばらせるアミと、さすがにひるむリン。アミの必死の言葉も、エンゾの気持ちを動かすことはできません。エンゾはあっさりと「さらわれたこどもを一人助けるより、世界を救う方が大事だろう」と言うのです。そこにやってきたのは銭形警部と八咫烏。倒れたルパンとそれを取り囲む人々を見て、驚きます。それに対し、エンゾは「ルパン三世、逮捕。ヒーローの時代は終わったんだよ!」と宣言し、アバンが終了です。
ここでちょっと驚いたのが、エンゾがアミに無反応だったこと。なおかつそれにリンが驚いたことかな……、相棒のそういう面は見たことなかったということなのでしょうか。エンゾの「ルパンの弱点はファミリー」というエンゾの台詞にも驚いた。まあ、ここでいうファミリーは「家族」ではなく、いわゆる犯罪組織の「一家」というニュアンスなんだと思いますが。
エンゾにすがりつつも、思わぬ反応に絶望するアミちゃんが超可哀想でした。銭形がフォローできたらいいんだけど、とっつあんはとっつあんでそれどころではないものを目にしてるからな……。しかし、ここでエンゾが、最初こそ自らの家族を思う気持ちからだったはずの「ヒトログ」の開発に、没頭するうちに、その「ヒトログ」の改良と発展が、その家族への思いも消し去ったような、ある種のモンスターになっていることが説明されるのです。アミちゃんと普通の父娘という路線にはいかなかったねえ。ある意味で凡庸な悪ではあるんだけど、その凡庸な悪が普通の人間の意識を拡大させるとこんな怖いことになるんだよね……。まさに現代。
本篇。ルパンが逮捕されたという報は世界を駆け巡り、これまでに登場したルパンの過去の敵たちもそれを喜びます。前回、前々回に登場した面々だけでなく、まさかのマルコポーロの三人まで出てきたのには笑った。「こんどは逃げても無駄よ」と笑うのは、かの刑事メロンちゃん。「逃げても逃げても、ヒトログが予想しちまうんだからな」と笑っているのは、あの怪盗モニエタのお仲間ではないですか。PART5はこういう細かいくすぐりがうまいなあ……。
ルパンが逮捕されて半月が過ぎ、ようやくICPOが護送するというニュースを街頭で眺めているのは、なにやら見たことがある着ぐるみ姿の男。警官に職務質問をされてあわてて逃げ出したのは、もちろん次元大介その人でした。「なあルパン、世の中いったいどうなっちまったんだよ」とぼやくその姿は、可愛いんだけど、着ぐるみがけっこうボロボロになってて可哀想でもあります。次元はうまいことシェイクハンズ社から逃げ出したんですね。
一方、シェイクハンズ社のビルから護送されるのは、まず、五エ門。その横顔は憔悴しきっていて、痛々しいほど。その五エ門に、銭形警部は、こいつはどうすると斬鉄剣を差し出します。しかし五エ門は「それがしはルパンに勝った。世界一強い男になったのだ」と受け取ることを拒みます。その言葉とは裏腹に、悲しみと苦さが混じった表情を見せる五エ門に「これはおれのほうで預かっておく。罪を償ったら取りに来い」と告げる銭形警部でした。
いやその、護送中の犯罪者に凶器を渡そうとするって銭形さん大丈夫かしら、と思ったのはわたしだけですか。まあ、あの五エ門を見れば、それを受け取ったところで……という感じはしますし、銭形さんはそれを確かめるついでに、罪を償ったら……、ということを伝えたかったのかなとも思いますが、五エ門って真面目に裁判受けたら余裕で死刑じゃないかな。あ、でも、EUは死刑廃止だから、終身刑なのか。でも、生きてるうちに出てこれるかどうかは微妙だよねえ。
続いて、ストレッチャーに乗せられた姿で運ばれてくるルパン。まともにその姿を見られず目をそらす五エ門に、駆け付けてきた不二子が「ルパンを見なさい、あんたの探してる答えはそこにしかないわ」と声をかけます。そんな不二子はリンの取り計らいでシェイクハンズ社に残ることに。「ルパンは必ず戻ってくるわ。そのためには、お宝が無いといけないでしょう?」と笑います。しかし、リンは「無駄だよ。もう世界は過去には戻らない。ルパン三世も大泥棒も懐かしい昔話だ」と首を横に振ります。
あのすみません、ここすごく良い場面だと思うんです。不二子ちゃんでないと、五エ門にこんな言葉をかけてあげられなかっただろうし、あの決闘を止めなかったかわりに言ってやれる言葉として、不二子ちゃんとしてもベストの言葉だと思うんです。しかもルパンを待つわけだし。
でもごめんなさい。わたし、不二子ちゃんに完璧に無視られたヤタくんに笑いが止まりませんでした。しかも二度。あきらかに目に入ってない。信じてください、わたしほんとうに第1話からヤタくん大好きで、この終盤で急に出番が増えてほくほくしてるんです。しかも、出番が増えたというのに、この空回りっぷりが愛しくてもう苦しい。愛が苦しい。わたしの変なツボを押しまくるヤタくん最高。最終回まで銭形警部以外には名前を呼ばれないでください、お願いします。可愛いよう。
そしてその様子を建物から見守ったアミは、エンゾのもとにおもむき、もういちど、自らの父親への思いを吐露しますが、エンゾは取り付く島もありません。もはやかれには娘の言葉は届かないのです。その事実に直面し、絶望を感じるアミ。
この場面、父親に興味がなかったアミを動かしたのは第一話の父親に化けたルパンだったという流れがなんというかもう。やっぱりアミにとってのルパンは初恋の相手であると同時に、父親なんだなあと思いました。理解者であり保護者であり、愛の対象。娘の名前も発音できない、とアミちゃんは言いましたが、いまだエンゾはアミの名前すら呼んでいないのです……。
そして場面はコンテナの中に入れられて船で護送されているルパンと五エ門の姿に。横になったルパンを見守る五エ門の表情は、真剣で切ない感じ。もしかして不二子ちゃんに言われたことをそのまま実行しているのかな。しかしそんな五エ門に、ルパンは「あんまり見つめんなよ、照れるだろ」と笑います。もしかしなくても、あの決闘から以後、このふたりがふたりきりになったのはこれが初めてなんですよね、きっと。
「そんな顔すんなよ、おれならピンピンしてるぜ」と脂汗を流しながら言うルパンに、ようやく微笑む五エ門。それに対し、前にもこんなことあったな……と、ルパンは、五エ門が女に化けた男に騙され、ルパンと対決したあのエピソード、PART2第56話「花吹雪謎の五人衆」の話を持ち出すのでした。「笑えよ五エ門、終わったことはみんな笑い話さ」というルパンは、まず率先し笑おうとして、痛みに顔をゆがめます。慌てる五エ門でしたが「笑うしかねえだろ、こんなときは」とのルパンの言葉に、まるで泣き出すように肩を震わせてから、笑うのです。コンテナに響くふたりの笑い声。
なんかもう、すごい場面ですよね。ルパンってなんだと思うくらいにルパン。五エ門の迷いや苦しさをさくっと見抜いて、ただ、笑えよというその懐の広さ。五エ門相手なら、言葉での説明も弁明も、なにもいらないんですよね。ルパンはあんがい、いつかは自分を斬らずにはいられない五エ門と対決することがあるかもな、くらいの覚悟はあった気がします。そしてその結果がどうなろうと受け入れるし、アフターケアも怠らない、いっそ死んじゃうとこまでいくかもしれねエけど、それくらいの覚悟がなけりゃ、石川五エ門を仲間にはできねえヨ、くらいのことは言いそうだ。ルパンどこまでカッコいいの。ルパンにとって五エ門と一緒にいることって、常にそういう危うさを抱えることでもあったのかもなあと思うんですよね。とくにこのPART5の五エ門は、(新ルを過ごしてきたことが前提としても)血煙あたりの五エ門と直結な気がします。人斬りなんですよ。
そして夜の街を逃げ惑うのは着ぐるみ姿の次元大介。着ぐるみも服もボロボロになってて超痛々しい。落ちてたシケモクを拾って火をつけようとする、その顔の頬はこけて疲れ切っているというのに、ライターはオイル切れ、しかもそこにもさらに追っ手が。とうとう行き止まりに立ちつくし、残った弾は一発。しかし、そこまでのぎりぎりの状況に追い詰められたときに、天から助けのロープが。驚いて見上げた、その視線の先にいたのは、あのアルベール・ダンドレジーでした。Aパートはここで終了。
キャー!(悲鳴)アルベールキター!しかもスーツ姿で余裕かまして笑ってるとか、なにもうこのひと。あの泥棒姿じゃないんだ(笑)。遠くから狙いをつけられたとかじゃなくて、次元ちゃんと直接顔を合わせるのは初めてじゃないですかね。うわあ楽しい。ヤバいこれ。なんでこんなかたちでルパンに助け船出しちゃうの。アルベール、良い奴じゃん!とわたしはすっかり喜んでしまいました。ここでCMとか神のタイミングかよ。
しかし、あのですね、ここでわたしの哀しい妄想を語ることをお許しください。あんがい長いので、ジゲフジ萌え以外の人は読み飛ばしてもいいですよ。あの、わたし、前回の公式サイトでの予告を見てからずっと、今回はジゲフジ展開来るかなって期待してたんです。だって、護送されるのはルパンと五エ門って書いてあったから、不二子ちゃんは騒ぎに乗じてしれっと逃げ出して、次元もまた逃げて、もしかして協力?とか考えるじゃないですか。半月か、大人の男女が過ちを犯すには十分すぎる時間だわ、とか思ってたんですよ!
ほら、ありがちな感じで「もう見てらんないわね、男の子同士の決闘なんて馬鹿じゃないの」と不二子ちゃんが鳥かごの中から助け舟を出すとか、「おれの知ってる峰不二子って女は、そんなかごの中の鳥で収まっているような女狐じゃなかったはずだがな」とか(とりこ。さん、ここpixivじゃない)そういうの期待するじゃないですか。なので、不二子ちゃんがシェイクハンズ社に残ったのは分かっていても、次元がここまで大変な時に助け船を出せる存在って、もしかして?とロープが落ちてきた瞬間に、はげしくときめいたんですよ。マジ!?ここまで連続話では同じ画面に映ることすらまれだったPART5のふたりに、最後の最後でこんな展開来るなんて、まさかあるわけないわ、なのにそんな、大河内さんありがとう!とか思ってたら、やっぱりあるわけなかったー!(絶叫)
まあ、というわけで、全とりこ。が泣きましたが、アルベールならしょうがないというか、ありがとうアルベールと気を取り直しました。あれだけちらちら出てたアルベール、決めるところで決めてくれたんですね、と追い詰められたルパンたちにようやく反撃ののろしが立ち上った感じがしたところで、Bパートです。
ルパンたちを乗せたコンテナは、無事にマルセイユの港に着いたようです。ここからICPOの本部があるリヨンに送られるマスコミを前にして、各国警察の情報共有が実を結んだ……と語るICPOの上司に、あのヤタくんが「何を言ってるんですか、ルパンを捕まえたのは銭形警部です」と食い下がります。ルパンを捕まえたのはヒトログという声もある、というマスコミにヤタくんはさらにいら立ち「銭形警部がルパンを追い続けたデータがあったからだ!」と叫ぶのです。
「……ルパン専任になったせいで、先輩のキャリアは止まったままです。みんなで銭形警部にルパンを押し付けたんじゃないですか、なにがルパン専任ですか……絶対売れない商品を押し付けられた営業マンですよ、なのに……ようやくルパン逮捕ってそのときに……」とヤタくんは涙ぐんで銭形警部の不遇を訴えます。しかしそれは当の銭形警部によって止められ「戻るぞ、ルパンを連れて行くまでがおれたちの仕事だ」と声をかけられ、ヤタくんは「はい」と深くうなずき、ふたりは現場を去るのでした。
……ごめんなさい。笑い死ぬかと思った(二回目)。ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい。銭形警部はカッコいいんですが、あの、ヤタくんが。どうしてくれようかというほどにヤタくんが。「絶対売れない商品を押し付けられた営業マン」って全方向に失礼な物言いを思いついて口にできるヤタくんクオリティ最高すぎて、わたしもうお腹痛くて仕方ない。前回わたしがげらげら笑った「キャリアは止まったまま」をまた言いよったこのヤタガラス。やめて、これ以上されたらほんとうに好きになるから!
それにしても、中の人である島﨑信長さんの熱演と繊細な演技が素晴らしければ素晴らしいだけ、このヤタくんの根本的な問題点が浮き彫りになるのはどうしたらいいですか。あの、ちょっと思ったんですけど、ヤタくんってもしかしてこういう風に「ぼくが言ってやらないと、先輩の素晴らしさはみんなにつたわらない!」とか思って、ずっとICPOでかまし続けてたのかな。ヤタくんを止めるときの銭形さんがなんか妙に達観して慣れた感じだったのはそのせいかもしれません。がんばって銭形警部。基本的に部下に恵まれないひとですね……。
そしてルパンはコンテナに入ったまま、装甲車に囲まれて護送されていきます。そのTV中継を祈るように見守るあのリクヴィールのカフェの女主人がせつなかった。そしてその護送中に、銭形警部はヤタくんの自分の心情を打ち明けます。ずいぶんと長いあいだ、ルパンを追ってきた。この手で捕まえたことも一度や二度じゃない、と。「いまのおれの願いはな、きちんと刑に服して出所したあいつと、きれいな酒を飲むことなんだ」そう言う銭形警部の表情を見て息をのむヤタくん。そんなヤタくんに「だからな、ヤタ。おれはルパンを正面から捕まえなくちゃならない。心の底から負けたと観念させなければ。おれはルパンの心を捕まえたいんだ」という銭形警部は言うのです。
わたしはここで、PART5も本当に終わるんだな、という気になってしまいました。ルパンと五エ門、銭形警部とルパン、それぞれの男たちの関係がひとつずつ明確なものになっていく。現在進行形が完了形になっていく、そんな感じがしたのです。もちろん、ここでの銭形警部とルパンの勝負はまだ終わってないのですが、ひとつはっきりとしたかたちが与えられた、そんな気がしました。山寺宏一さんの演技がほんとうにほんとうに、素晴らしかった……。
やがて、ルパンたちを運ぶ車列は、前方に止まった車のせいで、立ち往生します。見晴らしの良い一本道ということで、ここなら奇襲の恐れもないと、全車停止を命ずる上司。しかし、そこで「馬鹿な」と吐き捨てる銭形には、なにかが予見できたのかもしれません。車が止まり、不審そうにする五エ門に、ルパンもまた言います。「来たんだよ、あいつが」と。
そう、かれらがたどりついた道の果てで待っていたのは、一台のクラシックカーと、それにもたれて煙草を吸うあの男でした。
次元大介、と確認されるや否や、銃を向けられ、ヘリや装甲車に囲まれる次元。警告も無視して煙草をふかしていますが、自分に向かって弾が発射されたとたんに、破竹の勢いの反撃を始めます。ベンツSSKを盾にして、マグナムで次々と向かうものを狙います。あ、このひとは都会の殺し屋というだけじゃなく、傭兵でもあったのだ……と思う容赦のなさは、カッコいいというより、むしろすさまじい。それでもらちが明かなくなると見るや、取り出したのはグレネードランチャー、ダネルMGL!ヘリも落とすその勢いに、音を耳にしただけで、微笑みあう五エ門とルパン。
この場面の次元さんはひたすらクールですさまじいのですが、わたし的には両手撃ちが最高でした。あんなもの見たらどうしたらいいの。また、それだけでなく、これでもか、といわんばかりに銃器を駆使するその姿を見て、わたしは、あ、そうだ、次元さんもこういうひとだった、五エ門だけでなく、次元もまたこういう強さをもったひとであった……という思いを強くしました。あのマグナムを一回転させた後、にやりと笑い構えるとことか、正直言って、出番が控えめといっても良かったPART5の最後で、次元ファンにすごい接待が来たと思いましたよ。
そして文字通り、敵をせん滅させたところで、ルパンと五エ門のもとに歩み寄る次元。「よう、次元。助かったぜ」というルパン。しかしそれを迎えた次元の口からは思わぬ言葉が出るのです。「ルパン、ここらが潮時じゃねえか?」と。「引退しろよ、ルパン」と次元が言うのです。あのルパン三世、最高の相棒が。
さすがに驚く五エ門と、その真意を確かめるかのように視線を強くするルパンの対比がいいな。「悔しいが、あのエンゾって言うやつの言う通り、時代は変わったらしい」と煙を吐く次元に、ルパンは笑って「ああ、そうかもしれねえな」と答えます。次元はそれも気にせず、とうとう「ルパン、おまえとの付き合いはおれがいちばん古い。……おまえに引導を渡せるのはおれだけだ。不二子なんかにやれるかよ」と言うのです。それを言われたときのルパンの顔ときたら。
この場面。この台詞。見たときに声が出た。いや、そもそもあのシェイクハンズ社での不二子とルパンのやりとりとか、あのあたりをどこまで次元さんが見ていたのか分からない。もしかしてあとから見ることができたのかもしれない。あれを次元さんが知っているという前提の場面だと思うけれど、わたしはここに次元の、次元大介という男の矜持を見た思いです。ルパンに引導を渡す役目を不二子にとられるなんて我慢がならなかったのね。次元さんはそういうひとだ。クラシックで不器用で、昔風の男で、なにより、ルパンの相棒なんだ。
そしてルパンはここで一瞬、視線を落とし、語り始めるのです。……その時、古くからの相棒は言った。引退しろ、と。敵は強い、ひょっとしたらいままでで最悪の敵かもしれない、仲間たちはみな傷つき、戦う意思を失っている、どうなるんだルパン三世……!果たして逆転の秘策はあるのか……!そのふざけた様子にさすがにあきれた次元に、ルパンは改めて語りかけます。
「こうしてるとさ、聞こえてこないか?いい音楽がさ……。主人公が逆転するときにかかるカッコいいやつだよ」
そして「人生は物語じゃねえぞ」とつぶやく次元に「なら、物語にすればいいじゃねえか」とこともなげにルパンは言います。「おれって人生の視聴者はおれだけだ。だったらおれが続きを見たくなるような物語じゃなきゃ、意味がないだろう?」そうウィンクするこのルパンの表情よ。芝居っ気たっぷりにあれこれ言ってのけたあと「おれはおれに期待したいんだよ」と言い切るルパン。「結末がおまえさんの望んだもんじゃなかったらどうする」という次元の言葉には「チッキショー!気いもたせやがって、逆転は次回までお預けかあ」と答えます。「その逆転が、いつまで待っても来なかったら?」と吠えるように言う次元。ルパンは笑って、答えます。
「そんときはおれって視聴者はいなくなる……だからよ、次元。終わりが来るその日まで、おれはルパン三世でいたいんだよ」
この表情。やさしい表情。芝居っけ抜きで、すこしあきらめたようにやさしく笑って、次元を見るこの顔。次元ならこれを分かってくれるって信じてるからこそのこの顔!
だから次元はなにも言わず、煙草を取り出す。ルパンもそれに手を伸ばす。ふたりが吐いた煙がひとつになって、それはさながら和解と理解の握手のよう。そして次元は言うのです。「ルパン、おれにも聞こえてきたぜ。おれの、おれだけの音楽が」と。もしかして、次元はエンゾに言われたあの言葉を思い出したのかもしれません。「ルパン三世の物語のわき役」というあの言葉を。しかし、だれもが自分の人生の主人公であることを、ルパン三世は自然に示したのです。そして、それを見てようやく笑った五エ門の視線の先には、斬鉄剣が光ります。「おまえもそう思うか」とつぶやく五エ門の耳にも、音楽が聞こえているのかもしれません。
さあ、この場面。名場面とか感動的とか、そういうふうに簡単には片付けたくない場面です。ぶっちゃけ、メタっぽくって最初はどうしようかと思った。でもすぐに、PART5のルパンはずっとこうだったと思い直しました。あの砂浜でアミをかばったときも、砂漠で銭形の保護を断ったときも、ルパンはずっと自分がルパン三世であることに意識的だったではありませんか。なんかね、力が抜けた。
これまでずっと見ていたルパン、これまでのルパンの歴史をすべて抱えてるルパンが目の前にいると思った。そしてそのルパンは、次元に対しては、こういうアプローチなんだなと思った。ルパンに引退を迫った次元の真意は分からない。どこまで本気かわたしには読めない。でも、あんな言葉を使う次元が真剣にルパンに迫ったということは分かる。だからこそ、ルパンはあんなふうに丁寧に、言葉を使って身体を使って説明して、自分はこうだ、と次元に説明したんだ。“ルパン三世”でなくなるなら、死んだと同じだと言ったんだ。だって次元はルパンのたったひとりの相棒だから!
そしてそうなれば、あとはわざわざ合意の言葉はいらない。ただ、いっしょに煙草を吸えばいい。そして迷い続けた五エ門のそばにも、五エ門の相棒の斬鉄剣が戻ってきたわけです。終わるなあ、とわたしは思いました。もちろん、ここからは待ち望んだ反撃のターンですが、それでも、PART5が終わるなあとわたしはとてもさみしく思いました。
やがて、世間にはルパンが姿を消したというニュースが流れます。これまた見慣れたみなさまがルパンが一か月も姿が消えて、ヒトログにも現れない、とあせります。ルパンの痕跡はネット上から完璧に消えたのです。そしてシェイクハンズ社には、ルパンを待つアミと不二子の姿がありました。「意外とロマンチックなのね、王子様が来るのを待とうだなんて」というアミに、不二子は微笑んで「大人にはね、大人だからこそロマンチックが必要なのよ」と答えます。「お金も名声も、もうみんな手に入ったわ。でも……」といいかけたときに、ルパンが行動を開始したことを知らせるアラートが鳴るのでした。
ここね。わたしすごく驚いたんですよ。「お金も名声も、もうみんな手に入った」と言う不二子の台詞にびっくりした。えええ。だってだって、峰不二子だよ。欲しいものがみんな手に入った、欲望が充足されたなんて、不二子は不二子でなくなるよ?だって欲望に忠実な女じゃないの?って。でも、そう、でも。なんですよね。そんな不二子の手に入らなかったものが、きっとルパン。あるいはルパンとの未来なのかなあと。
ルパンはルパンという男の持てる限り最大限可能なレベルで不二子を愛してると思うのよ。けれど、ルパンはあの通りの人だから、女というくくりのなかでは不二子のことを最も愛するけれど、女というくくりそのものが、ルパンの中では優先度が低いものだったのかもしれない。それを最高のものにするには、ルパンの中で最優先の存在、お宝そのものになるしかないんですよね。
だから、このルパンがこれまでのシリーズすべての歴史を抱えたルパンであるように、この不二子もまた、そういう不二子なんだなとわたしは思いました。正直言って、わたし、PART5の連続話の不二子にはちょっと足りないものを感じていたんです。不二子ってもっとヤンチャでわがままじゃないの?って。目の前でルパンが切られて「彼の望んだことよ」ってクールに言い放つのが、ほんとうに峰不二子なの?って思ってた。でも、この不二子がこれまでの歴史を抱えていまここにいる不二子なら納得がいきました。これはそういう不二子なのだ。ヤンチャもわがままもやり尽くして、ルパンといっしょにいっぱい遊んで笑って楽しんだあとに、最後の最後のものが欲しくなった不二子なんだ。
復活したルパンはヒトログを通じて、各国政府の機密情報を暴露し始めます。しかも、その情報にはヒトログがエビデンスレベルAを保証するのです。その対象になっているのは、米国、中国、フランス、インド、サウジ……。「ルパン三世の機密情報暴露で大騒ぎだ」とつぶやくアルベール。それにより、各国政府より圧力をかけられるヒトログとシェイクハンズ社。ルパンはヒトログを使って国家を煽っているのです。リンはシェイクハンズ社を守るために、ヒトログからルパンの書き込みだけでも削除するようエンゾに求めますが、エンゾは聞く耳を持ちません。
そして、場面は湖に沈んだ時計台と、ローマ時代の遺跡が観光地になっている、あの国へ。そして我々にはあまりに見慣れた、あの地下のカタコンベでパソコンをいじるルパンの姿があります。そこにやってきた次元は「爺さんから預かってきた、レベッカからの返事だ」と手紙をルパンに差し出し、五エ門も「釣り竿の準備もできている」と笑うのです。そしてルパンは立ちあがり「待ってろよエンゾ。物語はクライマックスってやつだ」と不敵に笑うのです。
次回予告。担当はルパンです。釣りをしているらしいルパンの背後に現れた、長い脚のハイヒール。ヘリに乗っているヤタくんと銭形。どうやら決戦ぽいんですが、不二子ちゃんがベールをつけてこんどこそ花嫁衣裳って感じです。次元も五エ門も敵と戦っていますが、あのアルベールもまた銃を構えています。「おれの名はルパン三世。ま、自分で言うのもなんだけど、狙った獲物は必ず奪う、神出鬼没の大泥棒だ。おれのことがもっと知りたい?じゃあラストまで見逃すなよ」というナレーションが教えてくれるのは、次回、第24話、最終回のタイトル「ルパン三世は永遠に」。「チャンネルは決まったぜ!」です。キャー!(悲鳴)カットの絵も変化して、五エ門がいて、朝になった……。
というわけで、もう、いろんなことがありすぎて、どこまで拾っていいのかわからない第23話でした。PART5というだけじゃない、これまでのルパンシリーズの総ざらえといってもいいようなこの流れに、純粋な本篇の感想だけでなく個人的な解釈や思いもだだもれの感想で、読みづらいかもしれません、ほんとうに申し訳ありません。主にヤタくんのとことか読み流してくれても大丈夫です。
しかしほんとうにすごいことしてるなPART5。ただでさえ目を丸くしてたのに、本篇最後で吹いた。カリオストロて。聖域ないな、PART5!(笑)でも、わたし的には、イイよイイよーって感じです。わたしはこれまでPART5で。過去のキャラクターとかが出てくるのを、ファン心理をくすぐって嬉しいなとか思ってたんですが、これあれですね。そんな生易しいものじゃないですね。ほんとうに、これまでのすべてのシリーズを生きてきた2018年のルパン三世をやっているのだ。すごいすごい。あまりにもすごいけれど、それだけに、あくまで感覚的にPART5はダメって感じる人もいるかなあと思うくらいには尖ってるシリーズだと思います。わたしは愛してるけどな!
いよいよ来週は最終回ですが、ルパンと五エ門、次元、銭形、とそれぞれの関係性を象徴して定義しなおすような場面が終わり、きっと残すところは不二子とルパンの関係です。これまでのキャラ設定を踏襲したこのPART5で唯一変化させたルパンと不二子の関係を、どういう風に決着づけるのか、もう楽しみに待つしかないや!という気分です。個人的には「おまえはおれのお宝だよ」でいいですけど、どうなることやら。
まあ正直に言いますと、このエピソード4は、設定もかなり強引だし、4話で終わるレベルの話じゃないところを力業でまとめ上げている気もする。でも、その結果がこのスピード感とドライブ感なら、まあそれでいいかとも思うのです。わたしはつくづく好きなものに関しては冷静な批評とか出来ない人間なので、ただもうこの物語に夢中になって楽しむしかないなーと思います。
でも、そこでちまちま、アルベールと次元のあいだでどんな会話があったのかなとか(あのグレネードランチャーとかも準備してくれたんだろうか……もしかしてティッキーが次元にご飯とか食べさせてくれたんだろうか……)、カリオストロで「じいさん」と言ったらあの庭師のおじいさんだろうから元気で良かったなあとか、マルコポーロの三人が可愛かったとかヤタくんは最後までヤタくんなのか、とかそういうこと考えるのも楽しいのです。PART5はすごいけど、同じくらいに、楽しいの。
いよいよ次回が最終回です。まあ、不二子ちゃん奪還勝負とアミとエンゾの関係がテーマかな。もうあとはやることやって決めちゃえ!って感じなので、ただもう楽しみにしています。レベッカもちゃんと出るのかな?わたしご贔屓のジゲフジに関してはもう、期待するだけ無駄かもしれないけど、わたし的にはワンチャン願ってるよ!同じ画面のなかにふたりが映るくらいのサービスはきっとあるよ!
というわけで、これまでで最長の感想になりました。読んでくださったかた、本当にありがとうございます。1話の感想から続けて読んでくださっている方がどれだけいらっしゃるか分かりませんが、いつも拍手を押してくださったり、感想の言葉を届けてくださったかたがいらしたおかげで、最終回までいけそうです。あと一回!どうぞよろしくお願いします、ありがとうございました!