ルパン三世PART6第10話「ダーウィンの鳥」の感想です。公式によるあらすじはこちら(URL) 。以下の感想は、完全にネタバレですので、大丈夫な方のみご覧ください。では、どうぞ!
アバンは無し。眼鏡にショートヘア、パンツスーツといかにも落ち着いたビジネスウーマンといった雰囲気の不二子が、博物館でなにかの化石を眺めている場面で、物語は始まります。「Sorry、It’s time(閉館時間です)」との職員の言葉を受けて博物館を出た不二子を待ち構えていたのは白いリムジンでした。それに乗り込む不二子。そしてさりげなくその車を監視していたのは、変装しているルパンです。
車の中にいたのは白皙の男でした。男はそのまま不二子を鳥の剥製で埋め尽くされた豪華な屋敷に招きいれ、不二子がさきほどいた大英自然史博物館にある、「ダーウィンの鳥」(アーケオプテリクス、いわゆる始祖鳥)の化石についての話を始めます。「あの鳥が美しいのは、あれが真贋の隙間(あわい)を飛ぶ鳥だからです」と謎めいた言葉を口にする男に、不二子はかれの名前を尋ねます。「わたしは……そう、ミハイルとでもしておこうか。なんならミシェルでもマイケルでも構わないが」との男の言葉に「もしかしたらミカエルでも?」と問う不二子。男は静かにほほ笑むだけで、肯定も否定もしようとはしません。
すいません、ミハイルと聞いてまっさきに「氷のミハイル」を連想しちゃったよ。そしてここでの会話、羽を持った鳥の化石から始まっただけに、ミカエルはあきらかに大天使ミカエルを気取っているのか、という不二子の揶揄ですね。
ミハイルは不二子に対し、ダーウィンの「種の起源」が発行された二年後に、かれの理論を裏付ける証拠として〝ダーウィンの鳥〟が発見されたことを語ります。そこに偽造の匂いを感じた不二子に対し、ミハイルは「化石の発見そのものがいわば偶然の産物なのですから、それを必然に変えるために証明と証拠の順番を変えて見たに過ぎないのでしょう」と応じます。ここで不二子が口にする「ピルトダウン人」とは、考古学者によってねつ造された有名な化石人類のことです。
ふたりの間で、ドイツの採石場で羽毛を含む三個の化石が発見されて以来、いまだに同じような発見がないこと、当時は化石の偽造も盛んだったこと、化石を高額で博物館に売却した人物の存在などから、それが偽造ではないかという話が進んでいきます。「あの美しい鳥が、こうまで金まみれとは」とため息をつく不二子。「フランク・ウィンあたりが書いて、ベストセラーになったら映画化されるような話ね」とコメントします。フランク・ウィンとは、画家フェルメールの贋作者を追ったノンフィクションがベストセラーになった作家です。
しかし、ミハイルにとっては化石の真贋は問題ではありませんでした。「あの化石の美しさは尋常ならざるものだ……億年の歳月と職人の技が生み出した妄想の結晶」と語り、不二子に展示用のレプリカではなく、収蔵庫に保管されているホンモノを盗んできてほしいと不二子に依頼します。もっとも、それはミハイル本人の依頼ではありませんでした。ミハイルは自分の主人の代理人なのです。「あの方の御意思はだれにも推し量ることができない……。あなたと、あなたの友人たちの噂は聞いています。手段は問わない。ぜひとも主人の依頼を引き受けて頂きたい」それがミハイルの言葉でした。
森の中で、顔を合わせる次元とルパン、不二子。ルパンは「どうにも胡散臭い話だな」と乗り気ではありません。不二子に報酬を問いますが、それに不二子は二回両の掌を開いて応じます(つまり、20桁?)不二子は、忍び込む段取りは自分がつけるので、ルパンたちには依頼人の正体を探ることを求めます。
しかし、ここで次元が「姿を見せたがらない依頼人なんてのはおれの流儀に反するからな」と仕事を降ります。「金でもなけりゃ正義でもない、〝美しいから〟なんて動機はいちばんタチが悪いのさ」と。それに対し、したり顔で不二子に視線を向けて「おれには十分な動機になるがな」というルパン。「救えねえ野郎だ」と言い残し、次元はその場を去ります。もっともルパンも狙いは報酬。「おれは泥棒だからな……美とか人の心とか、そんな分かりにくいもののために身体を張るのはごめんだ」というルパンで、Aパートは終了。
ここまで、謎めいてはいるけれど、わりとオーソドックスに落ち着いた「ルパン三世」という印象を受けました。謎めいた依頼人の真意はなにか、ちりばめられた始祖鳥にまつわるぺダンティックな会話、剥製で埋め尽くされた屋敷、などのポイントは押井っぽいけど、分かりにくいものではありません。個人的に、不二子とミハイルの会話場面の雰囲気はすごく好きです。
森の中で次元とルパン、不二子の三人が顔を合わせる場面は、不二子と次元の距離が近く感じられて喜びましたが、次元さんはとっとと仕事から降りてしまったのだ……。まあこのひとはそう言って後半にいきなり出てくるところまでがお約束だし(と思ったんですよ)。そしてここのルパンと次元のやりとりはとてもらしい。さあ、どうなるかな! とBパートに突入です。
Bパート。舞台は閉館した大英自然史博物館に移ります。戸締りがされ、職員たちもひきあげていくなか、職員に変装して中に入り込んでいた不二子は、仕事用のスーツを身に着けて博物館内部(通気口?)を移動していきます。
ルパンの調査によっても、ミハイルの正体は依然として分からないままでした。しかも、不二子が招かれたあの屋敷は5年前から売りに出されていた空き家で、数年分の埃が積もっていたというルパンの言葉に顔色を変える不二子。リムジンのナンバーも未登録、支度金の送金元も、複数のダミー口座を経由していて追跡は無理、出入国の記録にも残っていないのです。
「降りるならいましかないぞ」といるルパンの言葉を思い出しながら、博物館の中を進む不二子。サーバールームに侵入したあとは、監視カメラをハックします。数秒の映像がリピートされる監視カメラ。しかし、ここで奇妙なことが起こります。数秒の時間をリピートするのは、カメラの映像だけではありません。その外部にいる警備員もまた、カップを置いたり自販機から飲みものをとりだす、といった日常の数秒の動作を延々と繰り返し、壁の時計までもがなんども同じ時間を繰り返し指し示しているのです……。
一方、不二子は階段をひた走り、地下の収蔵庫にたどりつきます。そこでマスクを取った不二子に声をかけたのはルパンでした。不二子の後をつけてきたというのです。「ストーキングのスキルは不二子の十八番だが、おれもなかなかのものだろう」という台詞がちょっとおかしい。そして「いつからそこにいたの?」という不二子の問いに、ルパンは不適に笑って「おれは不二子の守護天使だからな」と答えます。
ふたりは収蔵庫のコンピュータに侵入し、〝ダーウィンの鳥〟が収められている場所を調べます。「東側だ」というルパン。しかし、コンピューターは北側の保管庫を示します。「外れたようね」と不二子は言いますが、ルパンのまなざしは真剣で、不二子はそれになにかを感じたようです。
〝ダーウィンの鳥〟が収められている保管庫にやってきたふたり。不二子は厳重に保管されている化石を見つけて顔を輝かせますが、ルパンは「それじゃない」と、壁に向かい、不審気にする不二子に「あいつは本物を盗んでくれと言ったんだろう? それじゃあない」と繰り返します。
オリジナルの化石はここに、という不二子に「それはオリジナルの化石なんだろうが、本物じゃない」と言うルパン。その元に向かった不二子は、壁にうめこまれた記号が刻まれたボタンに気づきます。「金星の惑星記号だ」というルパン。
「明けの明星は夜明け前に東の空に輝く」とつぶやくルパンに「金星……っ、あ、ヴィーナス?」と答える不二子。するとルパンは「金星が美の女神だって?」と嗤いだします。その指がボタンを押すと、壁が動き出し、不二子は驚きます。壁の向こうに現れたのは、巨大な……羽を持った生物の化石。
その全貌の前に立ち尽くす不二子の背後にルパンが近づき、顔を寄せてささやきます。そして、そこで聞こえてくるのは、ルパンの声ではなく、あのミハイルの声なのです「あしたの子、明星(ルシファ)よ。いかにして天より堕ちしや」。その言葉に「明けの明星……金星」と愕然とする不二子。
「わたしの主人が望んだのは、かれの不興を買って天界から堕ちたものの回収だ」というルパン(ミハイル)の言葉が耳に入ったのかどうか、不二子は呆然と「ルシファ……」とつぶやきます。その視線の先にあるのは、まぎれもなく巨大な翼を持った、天使の化石。
そこで舞台は冒頭の自然史博物館に戻ります。〝ダーウィンの鳥〟のレプリカを確認した不二子は、博物館を出ると、ミハイルが待つリムジンに乗り込みます。「考えていただけましたかな?」というミハイルの言葉に「やめておくわ」と答える不二子。
ミハイルは驚きますが、不二子は「不信心な泥棒には神様の依頼は重過ぎる……悪く思わないでね、ミカエル。発音はこれでよかったかしら?」と言います。それを聞いたミハイルの顔には、不穏な笑みが広がり、不二子は車から降ります。雪の降りしきる中を歩く不二子の耳をかすめたのは、大きな羽が羽ばたき、去っていく音でした。
次回予告。厳しい表情のホームズ。「レイブンの謎を先に解くのはヤツか、それともおれさまか」というルパンのナレーション。車に乗った次元とルパン、五エ門に、銭形と八咫烏くん、アルベールにリリーも映って、まさにルパンのいうとおり、いよいよ大詰め。次回、第11話のタイトルは「真実とワタリガラス」です!
というわけで、第10話でした。押井守だから、といろいろ構えて見てたせいか、初見の第一声は「はい、押井守でした! みんなお疲れー!」だったんですが、感想を書くためにじっくりと見たら、まあこれはこれでありかなという気分になりました。
だいたい、Aパートですでにミハイルの正体は大天使ミカエルであると示唆されているので、そう思えば、そんなに分かりにくい話ではなかった(わたしのなかの分かりにくい話かどうかの基準線はパースリの「悪のり変奏曲」なので……)。
どこからどこまでが不二子の夢?なのか、というあたり、わたしとしてはすべてがそうで、最初から最後まで、あの〝ダーウィンの鳥〟を博物館で見ていた一瞬の白日夢。それを見せたのはミカエル。はたして不二子に堕天使ルシファーの回収を請け負う資格(あるいは勇気)があるかどうかを試したものという解釈なんです。
が、あるいは最後の笑みを思えば、ミカエルこそがルシファーそのひとで己の回収を依頼してきたものという解釈もありですね。もうひとつ、途中まで(時間がリピートし始めたとき)は、現実で、それ以後が幻想。そこで時間が巻き戻り、不二子は冒頭の場面に戻された、とかいうのもありかも。ルパンは博物館に現れた段階で確実にミハイルだしな。
まあぜんぶ夢だと思ったら、ルパンがいつミハイルに入れ替わったのかとか考えても無駄ですし、そもそもあれが現実ならミハイルがルシファーの回収をわざわざ不二子に依頼する必要もないと思うの。だからそうやっていろいろみんなが考えて解釈すること自体を楽しむような話なんじゃないかなーと思います。
個人的にはそういう話は嫌いじゃないので、楽しみました。「殺し屋たちのダイナー」とはまた違ったかたちで押井守の作家性が出た話だと思います。もっともこれは脚本なので監督までやってたらどうなったのかなあと思わないでもないですが……。
のんきなルパンファンとしましては、森の中での会合がアウトローぽくってカッコ良かったですね。ミハイルが成り代わったルパンも迫力あって良かった。次元さんは途中で降りちゃいましたが、ルパンがミハイルの声でしゃべりだしたときに後ろから現れたらどうしようと思っちゃいました(ないよ)。
あと、個人的には、作画がもう一声欲しかったかなあ。こういう話なら、ミハイルはもっとギリシャ彫刻系の美形で、不二子はもっと睫毛ばさばさの美麗な方がいいと思うんですよ……。
さて、とりあえずこれでPART6の第1クールもいよいよ大詰め。ルパン対ホームズ!と謳ったわりには関係ない単発話が6本(「ラストブレット」は一応ホームズ関連なので)もあったせいか、そっちがちょっとかすんじゃった印象はありつつ(あとテーマ「ミステリ」?って感じもありますよね……)大詰めの二本でどうまとめてくれるのかな、と期待しています。もちろん次元と不二子の仲も、もうちょっと詰めて下さってもぜんぜんかまいません。どうぞよろしくお願いします、という感じです。
というわけで、第10話の感想でした。いつもながら細かいところをつつきつつ、肝心なところでは公式に甘い(つもりだよ!)感想で申し訳ありませんが、毎週楽しく書いています。いつも、こんな感想に目を通してくださって、拍手を下さる方々に感謝しています。これからも書いていきますので、おひまでしたら目を通して頂けると幸いです。どうぞよろしくお願いします!