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「弟の夫(1)」田亀源五郎(双葉社・アクションコミックス)
by くさてる

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 ゲイアートの巨匠、ということで、知っているかたにはとても有名だけれども、そうでないかたにはちとマイナーな作家である、田亀源五郎先生(公式サイト)の初の一般誌連載作品です。これまでの作品も何冊か読んだことはあるのですが、読者として明らかに対象外でありました(わたしが)。でも、田亀先生のTwitterのファンでもありましたので、今回のこの連載が一冊にまとまるのをとても楽しみにしていたのです。

 主人公、弥一の双子の弟が結婚していた相手は、カナダ人で男性でした。10年逢わないあいだに、弟は亡くなり、その弟の結婚相手が家にやってきたことで、娘と二人で暮らしている主人公は、その状況に困惑せざるをえません。いったいどんな風に対応したらいいのか…という内容の作品です。

 ゲイマンガを描いてきた先生ならではのお話、と思いもしましたが、そういう前提抜きでも十分読める、面白いお話だと思います。10年離れて暮らしてきた弟の突然の死、そして弟の結婚相手が男性でカナダ人だったこと、二重の異文化との出会いに対する弥一の反応が、とても丁寧に描かれていて読んでいて感情移入がしやすかったです。こういうテーマだと、単純に同性愛への嫌悪や偏見を前に出してお涙頂戴的なお話にすることも可能だったと思うのですが、そういう分かりやすい悪役や悲劇はいっさい出てこない。むしろ、そういう現実を目の前にした時の人間の感情としての、迷いや戸惑い、どうしていいか分からないからこそ無難にやり過ごしてしまう、という正直さが自然でした。うん、どうしていいか分からないよね。頭の中でごちゃごちゃ思ってても、口に出せずにとりあえず、固まっちゃうよね。

 そして、頭の中で思ったことをそのまま口に出しちゃうのが、弥一の娘の夏菜ちゃん。夏菜ちゃんの描写がまた自然でいいのです。カナダ人のおじさんなんて楽しいし、友達に自慢したいし、(男性同士の結婚が)こっちで良くてあっちでダメなんて、そんなの変だよね!また、この夏菜ちゃんの体型とか動作とかが、なんとも子どもと少女の端境期にいるもさっとした感じで、そういう子だからこその素直さだなーと説得力ありました。美少女とかそういうのでなくて、こどもはこどもであるだけで可愛いという現実がここにはあります。

 田亀先生の描線は、わたしにとっては劇画的というよりはよりマンガ的に可愛らしく見えます。1話の口絵とか超可愛い。けれど、その線で描かれる男性人物の肉体は生々しく、男性の肉体をこういう風に解釈して表現するやりかたがあるんだな、と、体毛や筋肉の描写にエロスを感じるのがちょっと新鮮でもありました。そこらへんはやはり先生ならでは、かな。

 マンガとしては、丁寧にエピソードが積み重なっていくタイプのお話なので、1巻では、正直いってまだこれからという感じではあります。マイクはそもそも長期滞在するつもりがあるかどうかも良く分からないし、最終話でのある人物の登場で、弥一にも家族との関係についてなにかしら抱えるものがあることが推察されます。今後どうなっていくのかがとても期待の一冊です。


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「こくごの時間」雁須磨子(秋田書店)
by くさてる

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 「走れメロス」「少年の日の思い出」「十五の心」「言葉の力」「夕焼け」「小僧の神様」「山月記」「クマの子ウーフ」。国語の教科書に掲載されていた小説や童話や詩、文章をモチーフにした連作短編集。

 舞台になるのは小さなカフェ。そこの店主の女性がなにげなく昔の自分の国語の教科書を店に置いたことから、それを手に取るお客や従業員との間で交わされる、思い出の作品についてのあれこれ…という感じではありますが、そこらへんはいつも明確なかたちがあるわけではなく、カフェ自体が登場しない話もあったりするあたりが、ふわっと自由でこの著者らしいゆるさです。そしてそのゆるさが、とても自然で、自分の身の回りにも、こういう出来事が起きては通り過ぎていくのではないかと思わされるような錯覚を産みます。この自然さが、わたしにとっての雁須磨子の魅力です。

 個人的に好きなのは、木を描くのが好きなオタク系男子とつけまばっちりのギャル系女子の、恋にもまだ至らない惹かれあいを描いた「言葉の力」と、壇一雄が太宰治とのヒドいエピソードを描いた「熱海行き」と「走れメロス」について女性たちがおしゃべりするうちに、そのひとりが自分の間違った恋愛を待ち続ける不毛さに気づいて静かに歩きだす「走れメロス」の二話です。どちらも分かりにくいといえば分かりにくい、感覚で描かれている部分の多い話なので(そこが少女マンガだといえば少女マンガっぽいところではありますが)、ピンとこない人も多いかもしれませんが、ハマるひとにはハマる。わたしはそのひとりなのです。

 当たり前に誰かと一緒にいること。恋が生まれたり終わったりすること。他人と触れあうことで起きる波紋と、それに付きまとう自分自身の気持ちの揺れ動き。日々のなかで自然に生まれては消えていく、泡のような思いをすくいあげて目の前に差しだされているような気持ちになります。百パーセントの善人も、悪人も存在しない。特別な人間はどこにもいないけれど、ひとりひとりがみな違う、当たり前だけど、ここにしかない世界で生まれる人間模様が、心地良い短編集でした。

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「グッデイ」須藤真澄(エンターブレイン・ビームコミックス)
by くさてる

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「明日死んじゃうわたしですが、今日はちょっと幸せものです。」

 15歳以上のひとが任意で服用することが出来る「玉薬」。その薬を飲むと、身体の寿命で亡くなる人の体形が、亡くなる前日から球体に見えるようになります。その現象は「玉迎え」と呼ばれます。ただし、亡くなる人と、そのひとの「玉迎え」を見ることが出来る人との組み合わせは、世界でたった一組のみ。天文学的な確率だけど、それでも起こりうる現象。あなたは、いますれ違った誰か、久しぶりに会った家族、偶然出会った他人、それぞれが死ぬ前日にいることに気づいたら、どうしますか?

 …というテーマの連作短篇です。これがまあ素晴らしい。テーマだけ聞くと、重々しかったり、お涙頂戴に思えたり、或いはもっと悪趣味なものに思えてしまうかもしれないのですが、そういう先入観は、須藤真澄描くところの「玉迎え」を迎えたひとびとのヴィジュアルを見た瞬間に吹き飛ぶことでしょう。可愛いんですよ、これが。

 そう、いくらでもシリアスな感動作に仕上げることが出来る素材ではありますが、須藤真澄はそれをとても軽やかに自然な笑いをともなったお話に創りあげています。そしてそれだけに終わらないのがまたすごい。

 なんといっても、絵の力が良いのです。つーてんな描線(見て頂ければ納得できますこの表現)で描かれるこの世界は、とても可愛いけれど、甘過ぎない。細かいところまで描写しているけれど、ごちゃごちゃしてない。作中の女の子たちは、うるさくて落ちつきが無いくせに男子の夢を裏切る冷たさをもっているけれど、そのまつげは可愛らしく伸びやかで、素直なほっぺたはきっと真っ赤に染まっている。

 また、このマンガは「身体の寿命」で亡くなるひとたち、をめぐるお話なので、お年寄りがメインを張る話が多いのですが、さすがはこれまでずっと、お年寄りを可愛らしく生き生きと描かせたら右に出る者はいないマンガ家さん(わたし調べ。次点はひらのあゆでお願いします)である須藤真澄らしく、いまの年代のおばあさん、おじいさんたちってこうよねえ、という服装に髪型、生活の風景に説得力が半端ないです。

 そしてこの可愛い描線で描く世界そのものは、油断して読んでしまえば良いお話、泣けるお話でもあるのですが、それでもなんだかそれだけに終わらない。笑って少し涙ぐんで、良いなあと感動したあとに、でも、そのあとに。ぞくっとするのです。ああ、このひとたちには翌朝は無いんだ、という事実に気づくと、少し冷え冷えするような気持ちが残るのです。須藤真澄の作品は、その可愛さとファンタジーな雰囲気に酔わされて楽しく読み終えてしまうことが多いのですが、そのところどころに、冷たさ、というか、人生そのものを達観して見ている冷静さを感じることがあり、この作品でも、わたしはそれをちらっと感じました。まさに神の視点。

 可愛らしい描線で描かれて悪人は登場しない、気持ちのいいお話が並んでいます。けれど、それは人間の寿命が分かってしまうというある意味、とても怖い世界。正反対であるような両者が同居している、そのバランスが絶妙な作品でもあると思います。須藤真澄の描線でなければ納得できない「玉迎え」の描写であることを踏まえて、本当に、このひとでなければ描けない作品だと思いました。わたしはたいしたマンガ読みではありませんが、直観的に、わたしのなかで、2014ベスト作品である、と決めました。おすすめです。

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「あぶな坂HOTEL」萩尾望都(集英社・クイーンズコミックス)
by くさてる

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 あの世とこの世の間に立つ「あぶな坂HOTEL」。さまざまな原因で生死のあいだをさ迷っている人々は、この場所に足を踏み入れて、どちらの方向に進むかを決断しなくてはならなくなる。自分が死ぬ?死んでもいいかも。いや、なんとしても生き延びたい。わたし、何回もここに来たことがあるわ。ねえ、生きたい願望と死にたい願望、どっちを選べばいいの…?

 萩尾望都の連作短篇集です。生きるか死ぬかという真剣な状況なので、いくらでもドラマチックに盛りあげることが出来る題材ですが、そこをあえて軽くかわして、不思議なユーモアが漂う雰囲気の作品にしているあたりが、とても面白い。何人ものキャラクターがドタバタと繰り広げる大騒ぎが、昔の萩尾望都っぽくて楽しいです。基本的なトーンが賑やかで明るいのがいいですね。そして、温かい。

 でも、そんななかでもやっぱり、ひとの死が周囲の人々にもたらす影響というものに正面から向き合った「雪山へ」がいちばん良かったです。共に雪山へ出かけ、雪崩に巻き込まれた兄と弟。2人がこのHOTELで再会した意味とは…。泣いてしまった。単に悲しいとかいうレベルでなく、ああ、そういうことなんだと腑に落ちたから。愛するひとが突然消え去ってしまうこと、それをいつまでも受け入れられないこと、受け入れること、どちらにしてもその事実の重さは、ひとの人生にいつまでも大きな影を落とすことが、強く、響いてきた作品でした。

 わたしは萩尾望都のファンではありますが、この単行本は、ふと見落としていた一冊です。なので、発行して数年たっての読書となりましたが、とても良い本でした。一冊で読み切ることが出来るし、萩尾望都の良さ(テーマ、構成力、絵)が良く現れていると思います。おすすめ。


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「阿・吽(1)」おかざき真里 (小学館・ビッグコミックススペシャル)
by くさてる

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 「サプリ」「&‐アンド‐」で知られるおかざき真里の新刊です。なんと今回は、歴史物で、主役の二人は最澄と空海!

 実は、わたし、おかざき真里はずっと昔から、かの「ファンロード」で一般投稿されていた頃からのファンでした。しかし、「サプリ」以降の胸が締めつけられるような恋愛物は苦手で(それはね、作品のせいではなく、読み手のわたしが辛くなっちゃうのですよ…)、かの「&‐アンド‐」も未読です。なので久しぶりのおかざき真里体験なのですが、最澄と空海が主役、という前評判を聞いただけでなんだかわくわくしていた、その期待が裏切られることなくて万歳です。

 おかざき真里といえば、やっぱり絵。これがまたいいのです。あの繊細で美しい描線はそのままで、けれども疾走感というか躍動感というか、そんな生命力に溢れているのがすごく良い。電気が無かったこの時代、いまよりもずっと、闇と月の光、木漏れ日の光と影、そういったものが人間に近しかった頃の光景が目の前に広がっているようです。

 また、怨霊が文字を解したところとか、与えられた言葉がかたちをもって姿を見せるときの表現とかが、時にユーモラスでキュートで、温かい。言葉の意味をこういうかたちで現すことにより、現代人とはまた違う、この時代の人間にとっての言葉のちから、というものがよりダイレクトに伝わってくる気がします。そう、現代の人間と、この時代の人間は、なにもかも違う。価値観も倫理観も死生観も。違うからこそ、この二人がこの時代に誕生したことに意味があるんじゃないかな、と思うことが出来る。そんな世界で、この二人がどうやって生きていくのかということに惹かれてしまう。わくわくします。

 そして、最澄と空海という二人だけでなく、それ以外の登場人物もそれぞれが、それぞれの思惑で生きている感じで、良いです。現代人とは違う倫理観のなかで生きているのは間違いないけど、でも、どこかわたしたちと通じるものもある。その説得力が、とても良い。そのなかでもわたしが気になるのは、愛嬌ある微笑みで世界を渡ってきた泰範という僧。かれのなかの鬱屈がどのように変化していくのかに惹かれます。

 まだ1巻なので、お話としてはプロローグの部分なのかもしれませんが、それでも読みどころはたくさんあります。なんていうか、シンプルに面白いのです。この世界で。こんな希有な存在として生まれたこのひとたちはこれからどうなっていくのだろうか。なんとなく覚えている歴史上の人物や出来事が、この二人にどんな影響を与えていくのか。そんなことが楽しみでなりません。

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