COUNT
PROFILE
NEW ENTRIES
CATEGORYS
COMMENTS
SEARCH BOX

「繁栄の昭和」筒井康隆(文藝春秋)
by くさてる

<amazon>

 筒井康隆の最新短編集です。まず、表紙のモノクロ写真の女性が美しい。それに添えられた題名と合わせて、これだけでノスタルジックな雰囲気が漂う素敵な装丁です。そしてこの女性が誰か分かったときに、なるほどなあと思いました。以下、とくに印象に残った作品について。

「繁栄の昭和」:「ダンシング・ヴァニティ」などの過去作品でもあった、絶妙な世界の繰り返しと少しずつずれていく様相に酔いました。それも、アルコールの陶然とした酔いではなく、乗り物酔いのような目眩をともなう感覚で。

「大盗庶幾」:「今日は帝劇、明日は三越。母の日常はその頃のそのような流行語の通りだった」という冒頭から引き込まれました。大正時代の華族の家に生まれた美少年が、やがて運命に導かれるままに成長していって…という内容。夢のように描かれる大正時代の華やかさがすごく良い。そして、最後の引用文で、はっきりと明らかになるかれの正体。その鮮やかさがたまりません。乱歩ファンは必読といえましょう。

「科学探偵帆村」:身に覚えのない妊娠に動揺する様々な立場の女性たち。まさかの処女懐胎の原因は…という内容。往年のヒドいドタバタ作品の数々(褒め言葉)を思い出しました。このデリカシーの欠如が著者の特徴でもあるので、それをどうこう云っても仕方ないよね。「大盗庶幾」が江戸川乱歩オマージュで、この作品は海野十三オマージュです。

「リア王」:伝統的な自然主義リアリズムを信奉している初老の役者。ある日高校の文化祭でリア王を演じているときに、携帯電話の着信音が鳴り響いて…。そう、デリカシーのない作品も書くけれど、こういう、なんともいえない優しいくすぐったさを持つ作品を書くのも筒井康隆なのです。わたしはこれ、すごく好きだなあ。単なる良い話に終わらない、なんだか夢のような優しさが満ちている作品です。

「一族散らし語り」:古い屋敷のなかで腐った身体を引きずりながら生きていく一族のさまが、それぞれ違った語り手によって描かれるのがグロテスクで生々しい。「遠い座敷」を思い出しました。

「附・高清子とその時代」:これのみエッセイ。奥さまに良く似ているエノケン映画に出演していた女優さんについての文章です。もうこの時代には存在しないだれかを「好き」になる楽しさとせつなさが現れていて、いいなあと思って読んでいたら、最後になんだかとても多いなる意志による具現化的な場面。これもまた夢と現実の融合した感じで、「繁栄の昭和」という言葉から浮かぶイメージにぴったり合うエッセイだと思いました。そして、この高清子という女優さんが表紙の女性なのですね。まさに夢見るような美しさ、です。

 全体的に、なんだか「筒井康隆らしい」という言葉を繰り返してしまう短編集でした。でも、単なる再生産という感じはしないんですよね。どの作品も、雰囲気は違えど、紡がれる言葉の一つ一つが、筒井康隆の選ぶ文字という感じです。満足しました。




|| 21:36 | comments (x) | trackback (x) | ||
「あぶな坂HOTEL」萩尾望都(集英社・クイーンズコミックス)
by くさてる

<amazon>

 あの世とこの世の間に立つ「あぶな坂HOTEL」。さまざまな原因で生死のあいだをさ迷っている人々は、この場所に足を踏み入れて、どちらの方向に進むかを決断しなくてはならなくなる。自分が死ぬ?死んでもいいかも。いや、なんとしても生き延びたい。わたし、何回もここに来たことがあるわ。ねえ、生きたい願望と死にたい願望、どっちを選べばいいの…?

 萩尾望都の連作短篇集です。生きるか死ぬかという真剣な状況なので、いくらでもドラマチックに盛りあげることが出来る題材ですが、そこをあえて軽くかわして、不思議なユーモアが漂う雰囲気の作品にしているあたりが、とても面白い。何人ものキャラクターがドタバタと繰り広げる大騒ぎが、昔の萩尾望都っぽくて楽しいです。基本的なトーンが賑やかで明るいのがいいですね。そして、温かい。

 でも、そんななかでもやっぱり、ひとの死が周囲の人々にもたらす影響というものに正面から向き合った「雪山へ」がいちばん良かったです。共に雪山へ出かけ、雪崩に巻き込まれた兄と弟。2人がこのHOTELで再会した意味とは…。泣いてしまった。単に悲しいとかいうレベルでなく、ああ、そういうことなんだと腑に落ちたから。愛するひとが突然消え去ってしまうこと、それをいつまでも受け入れられないこと、受け入れること、どちらにしてもその事実の重さは、ひとの人生にいつまでも大きな影を落とすことが、強く、響いてきた作品でした。

 わたしは萩尾望都のファンではありますが、この単行本は、ふと見落としていた一冊です。なので、発行して数年たっての読書となりましたが、とても良い本でした。一冊で読み切ることが出来るし、萩尾望都の良さ(テーマ、構成力、絵)が良く現れていると思います。おすすめ。


|| 22:13 | comments (x) | trackback (x) | ||
「オレたち14帝國式典 vol.14~風間少佐のT14~」(名古屋伏見ハートランド)
by くさてる
 さて、今日は、名古屋伏見ハートランドにて、オレたち14帝國式典「vol.14~風間少佐のT14~」に参加でございます。前回の式典からどれくらい?と思って確認してみたところ、名古屋での最後の式典は2012年11月11日のVol.12でした。その後、今年の1月にライヒスリッター、7月に東京でVol.13の公演があったりはしてるのですが、純粋な名古屋での「オレ14」式典は二年ぶり。毎月のように東名阪とかで式典を見ていた時期を思うと、なんだか驚いてしまいますね。ええ、毎月もどうかとは思います、はい。

 しかも式典会場がハートランド。そんなわけなので、今回のお供である、長年の臣民友達真夜さんと、嬉しいことにオレ14には初参加、でも臣民歴的にはなかなかのMちゃんとの会話も、だらだらと昔話になるのは仕方がありません。式典が無いとなかなか逢えないお友達ではありますが、式典が無くても逢ってしまえばいつまでも話題が尽きない、それこそ本当のオトモダチ。くさてる嘘つかない。そういえば、ここで真夜さんより、渾身の最新刊であるグルグル映畫館本「夢をみるのも疲れた朝に」を入手いたしました。グルグル映畫館の、いわゆる薄い本のはずなんだけど、薄くない。物理的にも本質的にも重い一冊です。まだ在庫はあるようなので、入手できなかったひとはこちらまで。(この宣伝は本人の許可を得てます)(みんなもっと真夜さんの本を読むといいのです)(ここで触れるべきではないジャンルがいちばんのおすすめですがなにか)(あ、最近は妖怪ウォッチにハマってらっしゃるようですがさすが本人がようか略)

 そんなおしゃべりをしつつも、開場時間となりました。そして、いざ、ハートランドの前まで来たら、一気に思い出がフラッシュバックしてしまいました。自分的にハートランドに来たのがどれくらいぶりか考えてみれば、リッターの単独ライブ以来なのではと思いますが、それが何年ぶりであることを意味するかというあたりは考えたくもありません。18歳のキラキラしてた金髪美少年の児玉少尉(ええ、そんなひとがいたんですよ。あれ?覚えていらっしゃらないなんて残念ですね)、フサフサだった立花大将(リーゼントだったのよ)、スリムだった定光寺中将(………)はわたしの記憶のなかでまだ現役です。そしてもちろん、自分自身の姿は己が目には映らないので覚えていないという人間の顔面構造の素晴らしさには拍手しておきたいところです。まあ、感性と内臓は確実に老けたけどな。

 待ってる間に、Mちゃんが「15年前の自分にいまの自分のことを教えても絶対に信じないに違いない」と云ってましたが、15年前のわたしに「あんたは15年後も帝國を見にハートランドにいるよ」と云っても、普通に「うん!」とか答えそうでムカつきますね15年前のわたし。あ、でもそのあとに、ちょっと不審そうに「……でも、まだハートランドなの?」とかは云うかもしれん。まあそこらへんはいろいろとあって回りまわってハートランドというかいいじゃないかハートランドわたしけっこう好きよハートランド(目玉グルグル)。

 あと、10分押しの開場となりましたが、正直、お客さんの数がかなり少なくて心配になってしまいました。見渡す限り、言葉を交わしたことこそないものの、袖すりあうもなんとやらな感じで、勝手にお馴染みなように思ってしまう、なんというか「選ばれし我が精鋭たちよ」と呼びかけられそうなくらいの古い臣民のみなさま(はい!ここにもいますよ!分かってますよ!)ばかりというのは、当たり前かもしれないけれど、ちょっと勿体ない話でもあります。…精神世界とか幻創論とか好きなひとにはぜひぜひ、オレたち14帝國の式典に来て頂きたいなあ。

 以下、感想。ばりばりにネタバレです。今回の式典、再演の予定は明示されませんでしたが、気になるかたはご遠慮くださいませ。念のため、続きを読むのクリックでお願いいたします。

続きを読む▽
|| 21:36 | comments (x) | trackback (x) | ||
「リテラリーゴシック・イン・ジャパン: 文学的ゴシック作品選」高原英理・編 (ちくま文庫)
by くさてる

<amazon>

 「人間の持つ暗黒面への興味」を必要条件とし、「不穏」を最大の特性とした文学。それをテーマにしたアンソロジーです。明治から大正、昭和、平成と、時代の制限は無く、詩歌や随筆も収録され、幅広いジャンルから選ばれたそれらの作品は、すべてが豊潤な香りを放つ内容となっています。


 脳が沸騰しそうなほど興奮しながら読みました。単純に、こういうのが好き、なのです。文学少女的、厨二的メンタリティからの背伸び感や憧れを通り過ぎて、さまざまな言葉や表現に触れ、それぞれの美点を楽しみ味わってきました。でも、わたしはやっぱり、こういうのが好きなんです。幻想、怪奇、退廃、耽美…これまでに評されてきたであろうどんなキーワードを選んでも足りない気がします。単に粒揃いの真珠、というのなら、どれもが極上のバロック真珠です。美しく、貴重で、歪んでいる。幾通りもの言葉の組み合わせが厳密に成されて表現されるだけで、こんなにも世界が暗く、そして色鮮やかに豊かになるなんて、と思います。そのひとつひとつを引用していたらきりがありませんが、そのなかでも厳選してお気に入りの作品をいくつかご紹介します。

月澹荘奇譚」(三島由紀夫):ある焼け落ちた別荘の跡地を訪ねて島にやってきた男に、老人が語る40年前の悲劇。子どもの頃から何一つ、自分の手を汚そうとしなかった侯爵家の嫡男と、かれにつき従う別荘番の息子の、こどもらしい主従関係。それは、かれらがやがて青年となったあとも変わること無く…。なぜ別荘は火事となったのか、侯爵家に嫁いだ夫人の謎めいた憂鬱、というあたりがちょっとした謎解きのようにもなっていて、読み応えあります。しかしなによりも、全体に濃く匂うフェチズムの香りと、目にも鮮やかな夏茱萸の色が忘れられません。最後で本を取り落としそうになりました。

」(金井美恵子):全身を大きな白い兎の毛皮で包んだ少女の語る、あたたかく生臭い血の香りに満ちた父との生活。これは既読の作品でしたが、このアンソロジーにふさわしいMadnessがある一作で、選ばれたのも納得です。

大広間」(吉田知子):目隠しをされた「わたし」が受ける蹂躙の不可思議さと残虐さ。ストーリーでもキャラクターでもなく、純粋に言葉の力だけで作りあげられるこの世界に打ちのめされました。どんな解釈も成り立ちそうで、どんな説明も却下されそうな世界です。確かにこれは「不穏」。救いの見つからない(けれど絶望も無い)不思議な世界です。

眉雨」(古井由吉):そしてまた、男女の交合もまたどこまでも不穏を高めていくことが出来る行為なのだなと思います。理性ではなく、純粋な感覚だけでつながっていくこと。その恐ろしさ、たどりつかなさがどこまでも広がっていくような感覚を、何度も行きつ戻りつする夢のような語り口で表現されると、ただもう、圧倒されるしかありません。

今日の心霊」(藤野可織):どんな写真を撮ってもかならずそれが心霊写真になる少女。彼女の写真が巻き起こす騒動と、彼女を見守る人々。ゴシックというと、恐ろしかったり耽美であったり、という面が強調されがちですが、この作品は、黒い笑いもまた十分に不穏なものであることを教えてくれます。ユーモラスで、不謹慎で、楽しい一作です。

 700頁近い大著のうえ、濃い内容の作品ばかりなので、読むのには多少の覚悟が必要かもしれません。けれど、いったん読み始めてしまったら、そこにたたずむ様々な不穏な美の世界に浸りきってしまうことでしょう。わたしとしては「幻想文学の領土から」の章で、素晴らしさに呻きっぱなしとなりました。読む人それぞれによってお気に入りの箇所は違うと思うのですが、ひとによってはこの本で生涯の忘れられない一作に出会うかもしれません。表紙写真の中川多里による人形写真を見て、それに惹かれるものが少しでもあるのなら、手に取って見ることをおすすめします。

|| 23:11 | comments (x) | trackback (x) | ||
「狼少女たちの聖ルーシー寮」カレン・ラッセル/松田青子訳(河出書房新社)
by くさてる

<amazon>

 奇妙で歪で、不思議なほど美しい、10の短編が収められています。

 一篇をのぞき、すべての作品が思春期前後の子供を主人公としていて、その年齢にふさわしい瑞々しく純粋な心性と、それに付随する痛々しいほどの傷つきやすさと残酷さが混ざり合ったセンチメンタルな雰囲気が、作品そのものの奇想極まりない設定や展開で見事に中和されていて、とても不思議なバランスになっている作品ばかりです。どれもがおかしな世界のはずなのに、そこにたたずむ人々は、自分がよく知っている表情をしている、そんな感じ。

 わたしは海外文学が好きですが、ある種の海外文学のなかには、その奇想な展開にこちらの感性がついていけずに置いてけぼりになってしまったり、そのシュールさにお手上げになってしまうことがあります。ヌルい文学好きだなと自分のことを思うのはそんなとき。この本も、それに近いシュールさと奇想な展開は溢れているのですが、読んでいてもそういう置いてけぼり感とはほとんど無縁で楽しめました。

 なぜなら、登場人物たちがどんなに奇妙な立ち位置にあるおかしな存在だとしても、それぞれのキャラクターとしての造形がしっかりしているから。かれらの感じる哀しみや情熱に共感することが出来るから。だから、狼少女が集められた女子寮や、歌声で氷河を砕く少年合唱団、睡眠障害のこどもたちが集まるキャンプ、などの不思議さや奇妙さにも、すっと入ることが出来るのです。その奇想のなかに自分も入れてもらえるような不思議な快感を味わえました。

 どれもそれぞれに魅力的な短篇ですが、わたしがとくに好きなのは人間社会に帰化する為に集められた狼少女たちが、徐々に野性を失っていく過程とそこからはみ出した少女の運命が交差していく展開がせつなくて哀しい「狼少女たちの聖ルーシー寮」、ミノタウルスを父に持つ少年が西部を夢見て家族とともに歩き続ける開拓史「西に向かう子供たちの回想録」です。

 あと、この本の翻訳は、作家でもある松田青子によるものですが、とても良かった。わたしは松田さんの小説のほうも好きなのですが、原文を知らずともなんとも読みやすく、原文のエッセンスをこぼすことなく伝えていることが分かるような文章でした。訳者あとがきも、著者の経歴や他作品の紹介、各短篇の解題、著者が考えるカレン・ラッセルの魅力までコンパクトにまとめたもので、海外文学の翻訳解説にわたしが求めるものが揃っていました。良かったです。

|| 23:05 | comments (x) | trackback (x) | ||

CALENDAR
S M T W T F S
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
<<  2014 - 10  >>
ARCHIVES
LINKS
OTHERS
    処理時間 0.189453秒
POWERED BY
POWERED BY
ぶろぐん
DESIGN BY
ゲットネット