さあ、行ってきました。「ルパンVS複製人間」MX4D版!1月の「カリオストロの城」に続くルパン三世劇場版のMX4D版再上映です。というわけで、さっそく感想を書きますが、いろいろネタバレになります。これから鑑賞予定のかたはお気を付けください。あと、ごめんなさい、すごく長いです……。
前回同様に、MX4D版なので、画面の状態に合わせて座席が揺れたり動いたり、霧のような水がかかったり風が吹いたりという仕様です。「カリ城」で体験済みとはいえ、これが、今回はちょっと辛かった……。本編前の「亜人」の予告編の段階でギブギブって感じだった(わたしは乗り物遊具全般が苦手な人間なのです)。しかも本編は、「カリ城」に比べてもずっとカーチェイスや派手な場面が多いので、ちょっと助けて状態になりました。あ、でも個人的には、不二子ちゃんがルパンを固まらせるいつもの薬を使う場面で、自分の顔にも霧が吹きつけられたのには笑いました。あれは盲点だ。
しかし、そういう楽しみは個人的にはオマケでして、やっぱりいちばんのお目当てはリマスターされた画面と音響を大画面で楽しむということだったんですが、そこはもう大満足!ほんとうに画面が綺麗で感動しました。ノイズが排除されているからこそ際立つ、あの「複製人間」ならではの描線。不二子ちゃんが本当に可愛らしくて美しいし、浅黒い肌の五ェ門はいかにもサムライだし、歯並びが悪い次元さんは超キュートだし、三世さんのスタイルのオシャレでカッコイイこと!新ルパンとも旧ルパンとも違う、あの独特の線で描かれる各キャラクターを堪能しました。
そう、キャラクターが本当にいいんですよね。ルパンと次元に関してはもう書き始めたらきりがないのですが、まずはルパン三世。とにかくルパンの軽薄さがすごく良い。どんなときも本気にならない(あの不二子ちゃんを落とせる最高の機会でも「グフフフ……」とやらずにいられないのはもう業だな)その軽さこそがルパン三世で、それがマモーを動揺させて不二子を惹きつけるのがいいのです(そして次元をイラつかせて五ェ門を怒らせるのだ)。でも、その軽さが、次元と五ェ門があわや一触即発のときの救いともなるし、ラストのミサイルの引き金(?)にもなっちゃう(笑)。
つくづく、ルパン三世は自由だなあと思いました。この自由こそがルパンだ。そしてその自由を支えるのは、マモーによって暴かれたあの真っ白な深層心理なのです。ルパンは夢を見ない。空間、虚無、それは白痴のあるいは神の意識にほかならないのです。やだもうカッコいい!
次元さんは、もう、一場面一場面拾っていきたい……。やたら可愛いし、そのくせ男臭いし、カッコいい……。個人的にお気に入り場面は、マドリードで街をウロウロしている姿から空母に連れて行かれての流れです。もう言うまでもないですよね!コロンビアでコーヒーを入れたり、市場で果物をかじったり、そういうとこも好き。ルパンとの関係については後述しますが、五ェ門との仲も、なんかいいですよね。けしてなれあってはいないんだけど、いい距離感がある。
そして不二子ちゃん。わたしとしてはあれだけストーリーをかきまわす不二子ちゃんが自分なりの意志をまっすぐ通した結果があれなのがすごく好きなんです。自由で強くて、凛としている。とにかく美しいし惜しげもなく見せて下さるし、ファッションも素敵。ジゲフジ派のわたしではありますが、不二子ちゃんがマモーの島でルパンとイチャついているときにそのままマモーの前に現れる、あのときのふたりのイチャイチャかげんがとても好きです。ふたりとも可愛いし、本当に楽しそう。不二子ちゃんはずっとルパンのこと大好きなんだよ。
五ェ門の立ち位置もすごく好きです。ピラミッドでの登場場面から、なにかと「とても付き合いきれん!」と怒るストイックさがじつに五ェ門ぽくて良い。「ルパンを他人に殺させたくない」ってあたりが、旧ルの五ェ門がほのかに香りますね。個人的には、ラストのマモーとの対決でのルパンを救ったのが斬鉄剣の刃先だったというあたりがすごく好きです。たとえその場にいなくとも、五ェ門はルパンを助けたのです。まさに「五ェ門、カッコいーい」です。
また今回、あらたに感じたのが、この「複製人間」の影の主役は、銭形警部ですよねということ。冒頭からしてそうですし、ストーリーの要の場面を上手に押さえて、ラストまできっちりまとめる糸のような存在です。どこまでもルパンを追いかけるその執念には、もしかしなくてもこの世界でいちばん不死身なのはとっつあんじゃないかというぐらいですが、劇場の大画面で見ていくうちに、とっつあんの目のファナティックさにも気づかされました。あの目はすごい。うん、ときどき忘れるけど、とっつあんも十分におかしいひとだ。だからこそ、最後の最後まで、あのルパンに付き添うにふさわしい存在なんでしょうね。
ストーリーについてはいまさらどうこういう必要もないと思うんですが、やはり、こうやって改めて見直すとつくづくたまらないストーリーです。マモーという謎の存在を芯にしたそれぞれのキャラクターの立て方がハンパない。ひとつひとつていねいに拾っていくときりがないんですよ、名台詞も名場面もたくさんある。そのなかでひとつわたしが選ぶとしたら、やはりあの「行くなルパン!」の場面でしょう。以下、考え過ぎのオタクな考察です。
わたしがなにより好きなのはこの場面のルパンなんです。次元は、普通の人間とはとても思えない、もしかしたら神かもしれないようなマモーのところに、ルパンが不二子を取り返すために乗りこもうとしていると思っている。だから「行くなルパン!」なのだけど、ルパンはそういうレベルではもはや動いていない。もちろん不二子ちゃんのことだって取り返すつもりだけど、それ以上にマモーの言葉が、一瞬でも自分のアイデンティティを揺らしたのが気に食わない。ルパンはなによりも「おれはおれ」と思っていて、なによりもオリジナルであることをプライドにしているひとだから、そこを嗤う存在はぜったいに許せないのです。
けれど、マモーはそこを超越した、ルパンを嗤うことができるようなすごい存在だった。ルパンはそのことをずっと否定してきたけれど、薄皮一枚で、ルパンも察している。マモーは「神」だと。
つまり、ルパンがやろうとしていることは「神殺し」のほかならず、だからこそ「信心深いやつには向かない仕事だ」になるわけです。それでもルパンは最初、次元が自分とともに来ることを疑わないし、拒否されるとちょっと意外そうなんですよね。ルパンはルパンで、次元のことがよく分かってない。次元はものすごく葛藤しているのです。自分が死ぬとか死なないとかの問題じゃなくて、神のような存在に歯向かう可能性自体を忌避している。人間は本能的に神を殺せない。だから次元はルパンの言うことを「理屈だ」と叱る。それは次元の感じている恐怖が理屈でないからです。そしてそのことがルパンには理解できないんです。でも、次元が拒否するなら、それはそれで受け入れる。いいよ、と笑う。
人間である次元は神に逆らうことを恐れつつ、でも、同時にルパンは自分にとってとても大事な存在で、失いたくないからこそ「行くなルパン!」と言う。そしてその言葉はルパンには届かない。なにか大事なことを言われているのは分かるけれども、届かない。まっすぐ歩いていくルパンと、それを追いかけた次元、あのふたりのあいだにある縮まらない距離は、あくまで人間である次元大介と、神の意識を持ち、人間を超越しているルパン三世との距離なのです。
そしてルパンの言う「夢」という言葉が次元にはよく飲みこめない。だから分かりやすい「女」という概念に翻訳する。でもルパンのなかではきっとそうではない。「夢」という言葉は、おそらくはあくまでオリジナルであり唯一無二の存在である自分というルパン三世のアイデンティティを意味していて、マモーの言葉でそれを疑ったルパンは、まさにそれ、自身の存在理由を盗まれてしまったわけです。けれども、そんな感覚を理解できないまま、「夢ってのは女のことか」と言う次元は、とても人間らしい人間です。だから、ルパンにとって、次元は、クラシック=古典的な存在なんです。ルパンは新しすぎるんですよ。でも、そのときのルパンの笑顔がすごく優しい。わたしは、その笑顔のやさしさが、ちょっと辛い……。見た人の数だけ解釈が分かれる場面だとは思いますが、わたしはそんな風に感じました。
で。真面目にここまで語りましたが、このブログ的にはメインの部分についても触れなくては!なんせ公式に「心の中では不二子にホレているという説もある」設定の次元さんなだけに、紫フィルターを装着のうえで必要以上に熱心にジゲフジ観点で鑑賞いたしましたが、はっきり、おお、これは……というのは、あの不二子ちゃんを突き飛ばしてマモーを撃つ場面と、ラストのふたりきりのフライトだけだと思います。
でも、次元さんが「最近不二子はトんでるぜ」「不二子め、田舎芝居もほどほどにしやがれってんだ」とかイラつくのもそうかもしれないな。まあTVSPとかで同じ画面に8秒映ったとか次元さんの横顔に「声の出演 峰不二子・増山江威子」って出たわ、とか言ってたわたしからしたら、十分すぎる描写でございます。見るたびに言ってますが、今回も大変おいしく頂きました。倒れたマモーを見て思わず駆け寄ろうとした不二子ちゃんを「馬鹿野郎!」と叱ったあとに、「行くぞ」とかける声の響きが、なんかやさしいと気づくことが出来たのはやっぱモノラルからステレオになったせいかな。技術革新万歳。
とりあえず、39年前の作品とは思えないそのスタイリッシュさと自由さに感動しました。とかく「カリ城」と比較されがちなのがこの「複製人間」の不幸ですが、「カリ城」が宮崎駿監督の感覚で制作された、劇場用映画としての質で見る側を圧倒させる作品ならば、この「複製人間」は「ルパン三世」という土壌でどれだけの大人向けのスラップスティックコメディを作り上げられるかを勝負した作品で、比べるようなもんじゃないんですよね。ルパンワールドの懐の広さは、両者を余裕で包みこめるはずです。みんな違ってみんないい。
というわけで、またしてもMX4D版の感想というよりは、「複製人間」そのものの感想になってしまいました。リピートで見たいのですが、MX4Dがわたし的につらいので難しいかなあ。でも、ほんとうに画面が綺麗で音が素晴らしい。何回みた人間でも楽しい体験でした。1月の「カリ城」MX4D版に始まった、ルパン三世50周年というアニバーサリーイヤーも残すところ3か月となりました。その流れでこんな素敵なものを見ることが出来て幸せです。ありがとうございました!