宝塚雪組公演「ルパン三世ー王妃の首飾りを追え!」(宝塚大劇場)

 さて、これは、宝塚雪組公演『ルパン三世 ―王妃の首飾りを追え!―』の感想でございます。ネタバレありますのでご注意ください。公式サイトはこちら

 まず最初にお断りしておきますが、わたし、宝塚に関しましては、気になった公演を年に一回か二回観に行くレベルの、超ライトなレベルのファンです。もちろん宝塚の魅力は十分に承知しておりますが、すごく入れこむご贔屓な方とは未だ出会えず(毎回、「あ、このひと素敵」くらいの気持ちにはなるんですけどね)、むしろ演目が面白そうかな(「銀河英雄伝説」とか)という時に、行けるんなら行くかな、くらいの浅い宝塚好きです。なので、今回に関してはむしろ「ルパン三世」のほうに熱が入っておりました。もちろん大好きなルパン(うん、子どもの頃も大好きだったが、大人になったいまのほうが、なんというか、たちの悪い感じで好きになっている気がする)を、あの宝塚が演じる!というところはポイントですよ、その事実を知った瞬間に飛びついたもの!小栗旬のときとかは跳び逃げましたからその違いはいやその。でも、それでもまあ一回観られたらいいなーくらいのノリでした。宝塚でルパンだもんなー楽しいだろうなーあのテーマ曲、生のオーケストラで聴けるんなら文句無いなーくらいのノリ。

 それくらいの気持ちで、いつも宝塚を一緒に観に行っている友人と出かけたのが1月22日。で、見終わった後にはもう愕然として、楽しいとか素敵とかいろんな言葉が生オーケストラの「ルパン三世のテーマ」をBGMに頭の中に渦巻いていて、とりあえず「これならもう一回観てもいいわ」とか呟いたのが10回を超えた時に自分で、ああ、観てもいいとかヌルいこと言ってる場合じゃないわこれもう一回見なきゃだわ、と判断して29日に二回目の観劇となったわけです。平日休みの仕事ゆえになんとかチケットも取れました。良かった。

 で、対象とは直接に関係ない前置きが長いのがわたしのレポの癖なので、適当に流して欲しいんですが、ちょっとルパンについて語ります。ルパン三世はとても人気のあるコンテンツです。わたしも、新ルパンとカリ城の直撃世代なので、やはりルパンといえば赤ルパン。でも、あとになっていろいろ見た結果、自分自身のいちばんのルパンは原作マンガのルパンというファンです。ツイッターにも書きましたが、どのルパンにも「ルパンじゃない」と思う人は存在する。カリ城も原作もTVシリーズも、それぞれに評価は分かれる。でも、私が思うに「こんなのルパンじゃない」という唯一の基準があるとしたらそれはきっと「つまらない」ルパンです。その意味では宝塚ルパンは間違いなく最高の「ルパン三世」でした。

 そもそも、わたしにとってのルパンは「からっぽ」なひとです。頭は恐ろしくいいし、勘もセンスもすぐれている。だからいつも退屈している。自分にとって価値があるものにしか興味はないし、手に入れたら忘れちゃう。友情とか愛情もそう。マンガ版が発表当時そうだったように、次の週になったら、それまで死ぬほど苦労してきたことや命がけの勝負、愛した女も手に入れたお宝も、消えてしまう。いつでも最初からやり直せる誰のものにもならない永遠のロードランナー。そんなかれが主役だからこそ、作り手はいろんなものを詰め込める。素材として最高の主人公なんですね。でも、怖いことに空っぽだからこそ、作り手の技量そのものがそのまま作品の出来となって誤魔化しがきかない。だから「ルパン三世」って魅力はあるけれど難しいコンテンツなんだと思います。

 とまあ、ぐだぐだと言いましたが、それでも宝塚ルパンにはあまり不安はありませんでした。なんせ事前に知ったストーリーがマリー・アントワネットの首飾りってそら卑怯や(笑)という感じで、宝塚ならではの世界にルパンを引きずりこむことは分かっていましたから。それにこれまでの経験から(主に銀英伝とか銀英伝とかあと銀英伝とか)、二次元の世界を三次元に移すときの宝塚の素晴らしさも知っていたので。だってラインハルトを日本人の女性が具現化しちゃうのよ。ルパンもできるさ!

 そうやって、宝塚を信頼して観劇に赴いたところ、期待や信頼どころか、なんだかそれ以上のものを貰っちゃった気持ちになって、二回出かけちゃったんですけどね。一回目はなんかこうふわふわしてて、ストーリーを追いかけていくことに夢中だったけど、二回目はそれを確認しながらふわふわしたので。どっちにしてもふわふわなのですが、そういうわけで、以下の感想は主に二回目(1月29日)の観劇の感想だと思ってください。

 失われた秘宝「マリー・アントワネットの首飾り」を盗みに入ったルパン一味。しかし不思議な力によって銭形警部とルパン一味はフランス革命前夜のフランスにタイムスリップしてしまう。ルパンは、元の時代に戻る為に、錬金術師カリオストロの元を訪れ、ある計略を練ることになり、王妃マリー・アントワネットとも出会って…というのがストーリー。

 とりあえず、まずはルパンの登場場面ですよね。「ばっかも?ん!そいつがルパンだ!」の銭形の叫び声と共にテーマ曲が鳴り響き、赤いジャケットをひるがえしたルパンが現れた瞬間に、オペラグラスが曇った。鼻息で。二回目に観た時も思いましたが、この場面だけでもあと三十回は観たい。最初に観た時は、キャーッ!という感じだったのだけど、二回目は来るぞ来るぞと待ちかまえていたところに、赤いジャケットをまとった早霧せいなさん演じるルパンが現れてポーズを決めた瞬間、泣くかと思いました。ていうか泣いた。

 あれですよ。映画でよくあるあれ。二次元の画面から三次元の世界に人物が具現化するSFXだと思った。ルパンが現れた、と思いました。ルパンがいる。やだもう、ルパンがいるよ。それも綺麗なルパンだよ。そして、もちろんそこには次元も五ェ衛門も不二子ちゃんもいて。そして登場時から持っているメガホンに「埼玉県警」の文字が入っていた銭形のとっつあんも、もちろん!宝塚雪組はん、あんたなんちゅうもんみせてくれたんや…。という感じで、プロローグの段階でわたしはすっかり完全降伏状態となりました。いや、本当に素晴らしかった。この段階でブルーレイ購入決定。どうしてこの日の帰りに買えないのか(無茶)。以下はちょっとそれぞれの役者さんについて。

 まずはもちろんルパンを演じた早霧せいなさん。じつはわたし、2011年に雪組「ロミオとジュリエット」を見ているのですが、そのときにマキューシオーを演じたのを観た時に、あ、素敵と思って名前を覚えていたのです。時は流れて、そのちぎちゃん(愛称)が、トップになった公演を観ることになったのは嬉しい限りですが、いや、本当に良かった…。そんな本当に細かいアンドそんなこといちいち褒めるなんて舐めてるのかとか思われそうですが、どこもかしこもちゃんとルパンなんですよ…もちろんきれいなルパンなんですが、ルパン。あのガニ股とか後ろ姿とか、いつでも本気にならずにふざけちゃうけど、譲れない自分の美意識があるルパンを、素晴らしく演じてくれました。カッコ良くて綺麗なだけでなく、「こしょこしょこしょ」的な笑いを誘う場面も本当に可愛いかったです。

 また次元を演じた彩風咲奈さんの色気に、これまた登場した瞬間に二階席からでもむせそうになりました。髭と咥え煙草の色気ハンパない。そしてあの細腰。彩凪翔さんの五ェ衛門の可愛さもそうなのですが、この二人、これといった活躍場面こそ少ないものの、要所要所でキめてくれて、おかげでオペラグラスがきょろきょろ忙しいったらなかったです。ルパンに唯一ツッコめる存在としての次元が良かったなあ。黙って話を聞いているだけの場面でも、いかにも五ェ衛門らしい座り方なのがまたよし。カタコンベでルパンとカリオストロがあれこれ言い合っている時も、二人がその後ろでこっそりワイン飲んだりいろいろやってるのがもう楽しくて可愛くて仕方ない。そういうちょっとした仕草や立ち振舞いが、ルパンもそうであるように間違いなく五ェ衛門と次元なのです。もちろんアクションシーンもカッコ良いし、楽しい。でも、もっともっと二人の活躍を見たかったのも確か(笑)。なので、宝塚さん、バウホールあたりで「次元大介の墓標」とかどうですか。やりましょうよスピンオフ?(笑)。

 忘れちゃいけない大湖せしるさん演じる不二子ちゃんも文句無しです。ボディコン(死語)に身を包み、スリットからのぞくガーターベルトにピストルと言うお約束はもちろんのこと、なにより不二子の魅力であるグラマラスなボディと美貌が輝かんばかりで、見ていてうっとりでした。一幕でお色気で隊員を倒す場面なんて本当に軽やかで可愛くてエロい。あの太腿はエロい。良いものを見させて頂きました(眼福)。

 そして今回コメディリリーフとして素晴らしかった銭形警部役の夢乃聖夏さん。まさかの銭形マーチの場面はまさにこれこそ泣き笑いの名場面でした。こんなもの聴けるなんてお宝すぎる…。また、直接的な描写こそなくとも、ルパンと阿吽の呼吸で通じ合うものがあるのが分かるのが良かったです。「愚かさや無知であることと、犯罪を犯すのは違うだろう?」の場面、すごく好きです。

 そんな風にルパン一味ばかりに入れこむかと思っていてそうなりかけたわたしですが、いやいやどうして。この物語がそうはさせませんでした。単純に、ルパンが三次元になった、というだけじゃなかったんですよ。それだけでもすごいのにね。

 この物語には、ルパンが運命を変えることになる二人の登場人物がいます。まずは、咲妃美優さん演じる王妃マリー・アントワネット。笑い上戸で、愚かで無知で、けれど邪悪ではなく罪を犯してはいない少女として彼女を描くことで、ルパンが男女の愛ではなく、彼女に惹かれて、その命を救わずにいられなくなる流れがとても良かったのです。彼女が歌う「自由(リベルテ)」は、まさにルパン三世そのもののテーマと言っても良い。この彼女だからこそ、ルパンは愛らしく思ったということが説得力を持って伝わってきました。良かった。

 また、酔っぱらったマリーが、未来から来たというルパンに「わたしの未来を教えて!」とねだる場面。もちろん、ルパンは彼女の未来を知っている。恐ろしいことに観客も知っている。この世界で、彼女がこのあとたどる悲劇を知らないのは彼女自身のみ。だからこそ、ここでルパンが云う「…幸せに暮らすさ。子どもや孫に囲まれて。旦那と添い遂げて」という優しい嘘に泣けました。そう、この優しさは間違いなく、ルパン。これこそがルパンの優しさなんです。ルパンがマリー・アントワネットの運命を盗むと心に決めたであろうこの場面が大好きです。ルパンはこの嘘で、観客も自分の共犯に仕立てたのです。

 そしてもうひとり、望海風斗さん演じるカリオストロ伯爵。こちらは、マリーと違って、海千山千の錬金術師。泥棒であるルパンと限りなく近い詐欺師として登場しますが、その心根には少年のときの夢が消えずに残っている。熱く語りあうことはなくとも、その心性を見抜いて、その夢を成就させる存在としてのルパン。やだもうカッコいい!ルパン×カリオストロで薄い本あるわこれ(いやその)。ていうか、個人的には、登場のシーンからこのカリオストロ伯爵。わたし、すっかり撃ち抜かれちゃいましてね…。この歌声が。ががが(くさてるさん動揺)。こ、この声は好き。この歌声、すごく良い!この曲も好きなのだけど、顔も好きなのだけど、この声、もっと聴いていたい…。望海風斗さんというひとなのですね(繰り返し)。覚えた。愛称は「だいもん」。…西部警察?

 さまざまなハラハラを無事乗り越えて、現代に戻った後、それでめでたしめでたしと思いきや、この二人がそれぞれのかたちでルパンの前に現れる展開には痺れました。まさにハッピーエンドで、賑やかで、楽しくてしょうがなかったんですが、わたしはカリオストロがルパン一味の前に現れた瞬間から、もう泣けて泣けて。まったく泣くような展開ではなく、むしろ笑って喜ぶだけの場面なのに、にこにこしつつも、泣いてしまいました。その涙は、パリの夜景に消えていくルパンの背中を見たあともなかなか引かなくて。自分でもその涙の理由がよく分からないので、そのあともずっと考えていたんですが、結局、わたしは感動したんですね。ルパン三世と言う存在が具現化したことだけでなく、その物語そのものに。

 これは失われた運命が再生するお話なのです。王妃マリー・アントワネットが、ギロチンでの斬首刑で命を落とすことも無く、愛する夫と子供たちと幸せに暮らすことができた世界。カリオストロが、異端の嫌疑をかけられて獄死することもなく、時をかける錬金術師として生き続ける世界。なんて甘くて、ご都合主義で、ロマンティックで、素晴らしい夢のような世界でしょう。そしてその世界をもたらしたのがほかでもない、あのルパンなのです。これが泣かずにいられましょうか。

 わたしはタカラヅカ好きとしては本当にごく浅いライトなファンなので、濃いファンの方からしたら的外れなことを言っているかもしれませんが、それはどうぞお許しください。でもルパンファンとしては、本当に素晴らしい「ルパン三世」だったと胸を張って云えます。そしてそれがこの宝塚雪組の公演でなければ成り立たないような世界だったこともきっと確かだと思います。それが本当に有難いのです。ツイッターでも何回も云いましたし、ここでも云いますが、ルパン好きなら見ないと嘘。ここでわたしが語りこぼした良かったところ、楽しかったところ、それはもうたくさんあるはずです。個人的には、あの大野雄二先生の楽曲が、テーマ曲以外にも多く使われていたのがすごく楽しかった。それが生オーケストラですから、さらに嬉しい。そしてこの内容、わたしはすごく楽しめましたが、これをそのままアニメでやってもそんなに楽しめないと思うのですね(それでも昨今のTVスペシャルよりはよっぽど…?)。ミュージカルとして、生の舞台としての面白さ。これはまさに宝塚でないと楽しめないものだったと思います。しかもルパンだけでなく、同時のショー「ファンシー・ガイ」も素敵に楽しめるものでしたし!

 しかし結局残る感想は、面白くて素敵なルパン三世を有難う、に尽きるのです。もうそれしかいう言葉はない。素晴らしい夢を有難うございました!

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