「オレたち14帝國 vol.5~天才風間少佐のパパなのだ!~」(アポロシアター)

 というわけで、久しぶりの名古屋となりました。毎月どころか月に二回とか出かけてたのはそう昔じゃないような気もするのになあ。新幹線では、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を一気読み。打ちのめされた。ちゃんと感想を書こう。

 未だに残った選ばれし(いや誰も選んでないと苦情が出るな)臣民友達の真夜さんと、大須のいつものカフェで待ち合わせの予定だったのですが、新幹線からメールを送ってもいっさい返事がない。高島屋で買い物など済ませた頃に、「いま起きました」メールが届く。そんなものだね…(微笑)。大須では、いつもブラジル人でいっぱいだった鳥の丸焼き屋の前を通るが、日本人が大勢をしめていた。自動車不況のあおりなのかもしれない。

 大須で一足先にお茶をしながら、真夜さんを待っていると、ちょうど関東から業が深いお買い物帰りの月見さんからメールが入って、合流することになりました。遅れた真夜さんにバレンタインのチョコと、「飲まんとやっとれんきに」カンバッジを渡して、いつもの馬鹿話をしていると、月見さんもやってきて、ひとしきり、会話に花が咲きました。もうこれ時効だろうからブログに書いていいかなあと真夜さんに確認したら、「いつもは云わないけど今回は云う。名前は出すな」と云われたので書きませんが、いやあ、夢って大事だね(意味深)。あと、月見さん、いつでもSさんの連絡先教えるから。遠慮しなくていいから。

 ぎりぎりで会場入りすると、すでに入場が始まっていました。時間きっちりなのは「オレたち」になってからの特徴のような気がします。いいことだ。会場には椅子が出ていて、無事に座ったところで、どうしようもない式典前のときめき。本当に、呆れるけど、10年帝國見てるのに、未だに慣れない。未だに、ドキドキする。楽しみで仕方ない気持ちと、なにが起こるんだろうという不安のカクテルにぐらぐら酔うこの心持ち。でも、「オレたち」は、これまでの帝國と違うのですよね。なんていうか、わたしは安心しているところがある。信じて、待っていられる気持ちがある。それが、ほのかに嬉しい。

 ずっとずっと、思っていたし、分かっていた。わたしには帝國が必要なんだ。どんなにもっともらしいこと云って、理屈をつけていても、カルミナブラーナの旋律を聞けば、魂が震える。赤い光に映える黒い旗。それが振られてリッターが左右に分かれ、鳴り響くソロ。そこに元帥がいなくとも。いなくては駄目なたくさんのひとたちがいるのも知って、あえて、わたしは云う。そこに元帥はいなくとも、そこに精神世界第14帝國はある。

 さて、いきなりしょっぱなから定光寺中将の死に場面で、胸が高鳴りました(ひどいですかわたし)。いやいやいや!リッターは死んでナンボの原則を久々に思い出したよ!(本当にひどいよ)。これがまたいい死にかたでね…。あと50回は死んでいいですよ、中将!(ほんとうにひど略)。

 回想シーンでの、立花大将とのじゃんけんも良かったです、実にらしくて。「オレたち」は、こういうリッターの生かし方が本当に巧いなあ。人数がぐっと減ったのが功を奏して、二時間の式典内で、メインでないどのリッターの個性も一度は光る場面が用意されている。アックスくんのあの独特な立ち位置、いつもわたしを和ませてくれるもん。本当に、軍隊なのに階級ないひとがなんでいるんだ。軍楽隊でも階級はあるだろうに、もしかして軍人じゃないのか。妖精かなにか?しかし、声が出るようになったねえ。

 もちろん、「オレたち」随一のクールビューティ、元帥とはまったく違った意味で帝國世界に君臨しているかのような五藤中尉の存在感も素晴らしいものです。中将の命令にしたがったばかりに、結果的に中将を見殺しにしたことになったと肩身の狭い思いをしている風間少佐とアックスくんに放った「おい、見殺し」のひとことで、わたしのなかの今日のドS桶はたっぷんたっぷんに一杯になりました。

 風間少佐と定光寺中将の語りのシーン。いつもの世界観に関するメタメタしい語りはもちろんのこと、元帥と風間少佐を重ねて「貴官が怖い」と云い放つ定光寺中将の歪み方が、とてもらしくて良かった。これが元帥であれば、そういう云い方はしない。どういう状況で発せられるかによるのはもちろんですが、「風間少佐、貴官とわたしは似てるな」とか云ったとしても、その発言は、その言葉によって風間少佐に微妙なプレッシャーをかける以上の意味は、表面上は持たないだろうし。でも、これが定光寺中将による発言になると、プレッシャーと同時に、中将というキャラの揺らぎも伺わせて、より、深いものとなる。ここに限らず、わたしは今回の式典は、定光寺中将がもし柊生元帥だったらという視点で見ずにはいられなかったのですが、その理由はまたのちほど。

 そんな感じで、シリアスはきゅっと短かったですが、後半につながるであろう伏線がちらばめられていることはみてとれて(そのときはそう思ったんだって)、わたしは満足でした。

 オールナイト14。実に面白かった(笑)。そもそも前半でわたしが抱いた疑問といえば「仮にも司令官が流れ弾はないだろうし、遠征ならまだしも、負傷した人間を置いてかないだろう、という意味で「帝國には衛生兵はいないの?」というものだったのですが。どんな怪我でも汚れた包帯を巻いておけば翌週には復活している男塾のようだ。20万の軍勢はみな歩兵か。いや本当に、艦隊作る前に衛生兵、衛生兵(笑)。流れ弾の件については、見事な説明がなされて(笑)大満足です。いやあ、わたし、「オレたち」のこの身も蓋もない感じ、大好きかもしれない(笑)。思うのだけど「オレたち」のオールナイトは、云って良いことといけないことのバランスが実に絶妙だ。後半の展開をざらざらっと並べていく、あの人の悪さ、素晴らしいよ。この感覚、どこまで分かっていただけるかは微妙なんですが、これまでの式典であればいかにもやりそうなあの展開を、ああやって並べておいて、でも…と落とすやりかた、わたしは大好き(笑)。いやあ、定光寺中将は性格が悪い(褒め言葉)。でもでも、これだけは。春木大佐の本官さんは、あまりにハマっていたので、本当に見たかったです。あと、アックスくんのウナギイヌな。もうそれ以外なにもあてはまらないよ。

 加納中佐が「やんごとない」理由で欠席されたので、今回はCMが無し。それもあって、だらだらと話しているようで実はコンパクトだったオールナイトでした。

 さて、後半。

 ここはまず、オールナイトの伏線が生かされた裁判員制度の実施でしょう!照明部隊に移動した五藤中尉が裁判官って、どれだけハマってるんだ(笑)。これ、裁判にかけられたのが元帥だったら、もっとシャレにならない黒さになったようないやその。ここで「イノチクレナイ」氏に扮した春木大佐が良い味で、わたしは好みです。あの体型を生かした大振り感がとてもよろしい。続く、地獄行きの船に乗った中将とのやりとりが、派手でないけどじんわり来る感じのユーモアがあって、大好き。

 天才ドクターYKK(どんだけ懐かしいねん)、半ばやけになっているような草薙大佐のジャック・バウアーが可愛かったり、ぴょんぴょん跳ねるキョンピー(だからどんだけ懐か略)などの小ネタも十分に楽しかったけれど、そこから一転してのシリアスにつながるアクロバットな展開は、正直云って、一瞬、眼が白黒しました(笑)。だ、だって、あれ、普通に見ていて流れを疑問なく飲み込めるひとはそういないと思うのですけど…。要するに、風間少佐が定光寺中将の命令に従わずにいた場合の未来にリンクしたのが、あの結果ですよね?キョンピー騒ぎは、夢なのか…?

 ここでの中将の、「わたしは死ぬわけにはいかない」という語りは、確かにその通りで、すごく良かったのですが、ちょっとその繋がりに戸惑っているうちに、式典の終了を知らせるワーグナーの「さまよえるオランダ人」が鳴り響き、今度こそ本当に驚いた。いやあもう正直に云います。「ありか?」と思った。この終わりはありなのか、と。ただ、そのあとの風間少佐の語りで、式典内容自体はまとまった、と思ったんだけど。ちょっとこれまでにない感じで、戸惑ってしまったというのが本音です。

 そんな感じでちょっとまだきょときょとしつつも、最後の定光寺中将の挨拶を聞いて、そこでの「色々なパターン」という言葉に、まあ納得はしたのですが、ちょっと自分内で消化するのに時間がかかったかな?じゃあどうすればすっきりしたのかと云えば、もっと分かりやすくすればよかったのでしょうか。客席からの失笑覚悟で「夢か」という台詞を入れるとか?でもそれも、この式典の展開のわたしの解釈が正しいとしての話だし…。そしてそういうことは、暗闇のなかで手探りで正しい道をみつけることに意味がある迷宮に、頭からライトを浴びせるような、無粋な行為なのかもしれないという気も致します。そういうことは何十回もやってきたからこその、今回なんだろうし。

 前述したように、わたしはずっと今回の式典の定光寺中将を「もしこれが柊生元帥であったら」と思いながら見ていたのですが、それはこれがとても昔を感じさせる式典だったからですね。シリアスのみならず、コメディ展開の味といい、いわば原点。未だにナンバーワンフェイバリット式典がVol.6であるわたしが、嫌いなわけはないのです。後半についてあれこれ書きましたが、いっぱい笑ったし、面白かったのはたしか。そしてなにより、わたしは、今回、これを書いた定光寺中将が面白くて仕方ない。元帥とは違うこの個性、独特の人の悪さ(褒めてます)。だって、あれだけオールナイトで並べておいて、それへのフォローは「皆さんはいくつパパポイントが見つけられましたか?(微笑)」ですよ。悪人だ。元帥とまったく違った意味で、なんていうか、捨て身の悪人だ(笑)。

 元帥は、もっと「分かってもらえない」ことを積極的に忌避する部分があったと思うから、わたしは定光寺中将の怖いものしらずな感じは、たしかに個性であると思う。この独特の突き放しかたは、評価が分かれるところかもしれませんが、わたしは、嫌いじゃない。なによりラストの風間少佐と定光寺友情の語りとその内容を考えるとね…。わたしだけの感じかたとは百も承知で、そんなに無防備でいいの?と思ってしまう。このひとは本当に14帝國を愛しているのだと思います。絶対に。

 ぐだぐだと書きましたが、今回は、バンドも無かったし、あるていどフォーマットが固まっているかのように思えていた「オレたち14帝國」も、様々なパターンを試す事が出来るのだということが面白かったです。帝國は生きている。わたしはそれをまだこれからも見ていきたいと思っているのです。楽しかった。ありがとう14帝國。

 式典が終了したのは、8時前。その短さにちょっと驚いて、あんなにいろいろあったのになあ、と思った。とにかく笑いすぎて疲れちゃったけど、大将にバレンタインのチョコを渡したくて、ご挨拶に行った。おめでとうございます、本当に。幸せになって下さい。心から。あとは会場内を「楽しかったなあー!」と大声を出しながら歩いていく定光寺中将の背中を見送ってから、月見さんと真夜さんと外に出ました。
 
 いつものように、名古屋駅前の居酒屋で新幹線リミットまで打ち上げです。10時10分の最終まで、24時間あればいいのに、とさすがに訳の分からないことを云いました。このときのわたしはなんかこう、云いたいことがいっぱいありすぎて、溢れちゃうのが断片で、でも話したくて、とかなりおかしな感じだったと思います。まあ、お二人とももう慣れていらっしゃるから(だからいいというものではない)。なんかね、こう見て終わったばかりの式典の内容を自分なりに整理しながら、整理しきれずに溢れるんだけど、泣いてないのはいいなとちょっと思った。昔は泣いてばかりいた。それだって別に悪いことじゃなかったと思うけど。でも、いまは、この楽しさを重視したい。大好きな14帝國で、美味しいお酒が呑みたいもの。

 とにかく、次の式典が、楽しみです。

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