ルパン三世ベストセレクション第4位「脱獄のチャンスは一度」感想。

 「素晴らしいゲームを楽しんでるんだ。処刑か脱獄か。万にひとつの失敗も許されないきわどいゲームをな」(cv山田康雄)。

 ルパン三世ベストセレクション、第4位は、PART1第4話「脱獄のチャンスは一度」でした!旧ルパンのなかでも名作中の名作と名高い作品がとうとう登場です。いつものように、ベストセレクションが放送されていない地域に住まうわたくしが、エア感想を書かせて頂きます。ネタバレありなのでお気をつけください。あらすじはこちら→(URL)。

 顔に靴墨を塗り、黒い泥棒用スーツに黒い手袋、という黒ずくめの姿で銃の入ったホルスターを手にとり、短く「行くぜ」と言うルパンという場面から物語は始まります。それに「おう」と答える次元とそばに立っている不二子がいることで、今回は三人のお仕事だと分かりますね。警戒厳重な現場に忍び寄り、首尾よく警備員を眠らせたあとで箱に入ったお宝を手に入れようとしたルパンですが、銭形警部の手にかかり、麻酔弾で倒れてしまうことに。しかし肝心のお宝は次元と不二子の手によってさらわれていきます。

 このルパンのお仕事場面ですが、短いなかにも緊張感がみなぎっているのがいいですね。お宝を目にした時も、声を出さずにニヤリと笑うだけっていうのが、いかにも旧ル初期のルパンです。そして、あの、こんな冒頭からいうのもなんだと思いつつ、ジゲフジスキーのみなさまの中ではある種の共通見解なのかなと思わないでもないので言っちゃいますが、この話は旧ルのなかでもなかなかにジゲフジ度が高いお話でもありますよね。まあぶっちゃけルパンはずっと牢屋の中にいてなおかつ五ェ門もまだ登場していないので、そりゃまあこのふたりがいっしょに映る確率は挙がるよなって話ではあるんですが、でもまあジゲフジ度が高いですよね(しつこい)。お宝にフックをかける次元とそれを持ちあげるヘリを操縦するふたりになんとなくそれを感じる冒頭でした。

 タイトル後は黒姫刑務所に護送されるルパンと銭形の会話となります。ここのふたりの心理戦がすごくカッコいいですよね。まだとっつあんもコミカル色が薄くて憎たらしい様子をみせるうえ、ルパンはずっと怒っている。そう、三世さんファンのわたしとしては声を大にして言いたいのですが、この話、冒頭とラスト前後以外は、ルパンはずっと怒っているのです。それがもうたまらなくカッコいい。カンカンに怒っているのに冷静を装い、銭形をからかい、カマをかけ、とぼけてみせるその姿、そのプライド。ああもうこれこそルパン三世!って感じで、わたしは大好き。

 まあ心理戦以前に、ほんとうに護送車をバイクで追跡している不二子ちゃんもいるのですが。欲しいのは箱の鍵、とうそぶきつつも、この話の不二子ちゃんは1話や2話の謎めいた悪女の部分は弱まって、あくまでルパンの可愛い恋人という立ち位置ですね。雨の中をノーヘルで走り、警官のバズーカで転んでしまうあたりとか痛々しいくらいではないですか。そしてそこに「よしな、ルパンはその気ならいつだって逃げるさ」と手を差し伸べる次元さんも登場です。ジゲフジ(つぶやいてみた)。

 いざ刑務所に到着すると、囚人服ではなく毛布のような拘束服を着せられるルパン。でも考えようによってはこの服のおかげで後々の脱獄計画は有利に運んだような気もします。それもまたルパンのたくらみなのか、その服のおかげでたくらみが思いついたのかは定かではありませんが。

 どちらにせよ、ここからルパンの一年にわたるたくらみが始まるのです。「おれはルパンじゃない!」という叫びとともに。そしてここでは同時に、自分の望み通り、ルパンに死刑の判決が出たものの、その結果が自分のなかにもたらしたものに戸惑う銭形警部という、銭形警部自身の物語も始まったような気がわたしにはします。そう、これからの一年は、ルパンにとっては「おれはルパンじゃない!」と叫びながら、自分に屈辱を与えた銭形警部にとり、いちばん最高の復讐となる脱獄の瞬間を待ちかまえる長い日々であり、銭形警部にとっては、いつルパンが脱獄するかと恐れ、怒り、さらには願うような気持のなか、確実に迫るルパンの死を受け入れられない自分との葛藤の日々でもあるのです。

 しかし、なぜルパンが脱獄しないのかとあせる銭形警部が部下の言葉に怒り「おれはやつのことを知り尽くしている。困難があればあるほどやつは燃える。メラメラとな!ほんとうにみごとなやつなんだよ、ええ……!」ってすごいですよね。うん。ある種の告白といってもいいと思います。あいつのことが分かるのは、おれだけなんだという告白。

 そしてその信念が、ルパンはこのまま死を受け入れるような人間ではないと銭形に教えているのに、ルパンは一向に動こうとしない。ルパンの相棒が助けにくる様子もない。そんな銭形警部の煩悶を見ていると、本当にルパン三世だけは怒らせないほうがいいという気分になりますね。だってきっとルパンはこの銭形のいら立ちを知ってるんだもの。分かっていて、ただただ最高のときが来るのを待ちづけているんだもの……(怖)。

 そして一方、この一年は、刑務所の外で、なんとかルパンを助けようとする不二子と結果的にそれを見守り水を差し続ける次元の日々でもあるわけです。このわたしとしては信じられないような感もありますが、わたしはここの一連のシークエンス(不二子ちゃんがルパンを脱獄させようと頑張る→次元が邪魔をする)は、ジゲフジ的に萌えるというよりは、むしろ、ルパンという存在を核にした男と女の違いを見せつけるための場面のように思えます(ていうかいま書きながら思いましたが、そもそも、ルパフジならともかく、製作者側はジゲフジ的に萌えるシーンとか意図していない。気がつけわたし)。
 
 それだけ、ここで頑張る不二子ちゃんはかわいくっていじらしい。どんなに次元に邪魔されても、なんどでもトライするとことか、すっごく可愛い。そしてそれを笑いながら邪魔する次元さんのクールさときたら。しかし次元さんの「およしよ、カギだなんて。ルパンさまの昼寝の邪魔だ」はすごいですよね。あのね、コバキヨさんの声が甘いの。新ルとかと違って、不二子ちゃんに対するツンツンモードがまた確立していない時期のせいか、やさしいの。そしてそれに「わからずや!」と怒る不二子ちゃんの美しいこと。萌える(←結局ジゲフジ的に萌えとるやないかーい、とわたしのなかの山田ルイ53世がワイングラスを鳴らしました)

 そして、いよいよルパンが処刑されるその日が来ます。「おれはルパンじゃない!」と叫びつつも、一年間伸ばし続けた髪と髭のなかのなかに光るその瞳と笑みだけは、まさにルパン三世そのひとのもの、という一瞬の描写がいいなあ。そこに和尚に化けた次元がルパンの前に現れます。そしてここがわたし的にはこの話のキモだったりするのです。

 だって、すごくないですか。次元はここで初めて「ルパン、いったいどういう気なんだ」と笑うんですよ。つまり、この一年、なんとかルパンを助けようとする不二子を邪魔したりなんだりしながらずっとルパンを見守っていた次元は、じつはなにも分かってないんですよ。ルパンがどうするつもりかというなんのヒントも持ってないの。ルパンの意図を知らないまま、それなのに、このひとは一年ルパンをただ信じて、待ってたというわけなんですよ。

 そしてようやくその本意を確かめようとルパンのもとに赴いたものの、そこでもピストルを渡そうとして断られ、無茶だとようやく驚いたりもします。でも、そこでも、分かったような分からないような、具体的な説明はなにもないルパンの言葉を聞き、そのなかの「やれるかやれないかはおれの勝手にさせてくれ」で納得して「おまえは生まれつき贅沢なんだよな、好きにするさ」と引くんですよ。すごくないですか(二度目)。

 もちろんそれに「ありがとう」と応えるルパンもすごいんだけど。うん、このふたりすごい。一年かけて悶々と悩んで机を叩いたりしてた銭形警部もすごいけど、次元さんもすごい。みんなルパンを中心にして自分の世界を成り立たせている。さすがルパンは世紀の大泥棒です。ふたりの男(そしてひとりの女)のとんでもないものを盗んでいる。そしてルパン自身はそのことをさほど気にかけた様子もない、というのが、また、たまらないですね。

 そしていよいよ死刑執行、生と死の境目の一瞬を前に、ルパンが動きます。みごと看守を自分と入れ替えにすることにより、一年間叫び続けた「おれはルパンじゃない!」の台詞を生かして脱獄を完成させるのです。しかし、出し抜かれたと気づく前、「ルパンが脱獄した!」の声に反応する銭形警部の嬉しそうな様子ったらないですね……。

 ここまでうまくやっておきながら、死刑方法を間違えることでばれてしまうルパンなんですが、これってあんがいワザとなのかなあという気がしますよね。だまされた、と知ったときの銭形警部の顔が見たかったんじゃないかなあ。

 そしてそんなルパンを迎えに来た次元。「不二子のやつはどっか行っちまったぜ。たぶん待ちきれなかったんだろうな」って台詞がなんか意味深ですね。不二子ちゃんはお宝なんかどうでもよかったらしいですが、肝心のルパンはそれを知る由もなく、一年はそれだけ長かったけれど、自分はそれだけの時間をかけて銭形警部に屈辱感を感じさせたかったと思うのです。やっぱりこのひとは怒らせちゃいけない、怖いひとです。

 そして、そもそもの始まりとなったお宝は、山の中腹に埋めたはずが、みごと開発工事にさらされ、ダイナマイトの餌食に……という落ちも皮肉なユーモアが効いていていい感じでした。「あれえ?一年前、森だったんだぜ!」という次元ちゃんの声が最高ですね。クールに決めてても、やっぱりこのひと旧ルの次元ちゃんだわ。ちょっと抜けててそこがキュート!という感じがします。そしてようやく煙草を吸って腹の底から笑いあうふたりの男、というラストで大団円です。

 この「脱獄のチャンスは一度」。基本のルパンの脱獄のアイデアもいいんですが、それを軸にした、ルパンと銭形、ルパンと次元、ルパンと不二子の関係性の描写も素敵ですよね。でも、個人的にはどこまでも誇り高いルパン三世のカッコ良さがハンパない話だと思います。これこそ、ルパン!なんですよね。堪能いたしました。そしてこれで旧ルは5本がランクイン。1話から4話までがすべて入っているってさすがです。

 さて、ベストセレクションも第4位となりました。あと三本はどうなるかって「さらば愛しきルパン」と「死の翼アルバトロス」はシードだろうし、ここまでくれば中間発表で出ていない作品が顔を出す可能性はもうないとすれば、中間発表からいえば「十三代五ヱ門登場」「7番目の橋が落ちるとき」「国境は別れの顔」の中からどれかひとつなわけです。まあ順当なところで「7番目」かなあと思わないでもありませんが、五ェ門クラスタの底力が爆発する可能性もあります。でも、これで「国境」来たら驚くよ!とか言って、いきなり「アルバトロス」が来たらそれもまたびっくりだ。わくわくしますね!

 というわけで、ベストセレクションの感想でした。24位からずっと書いてきて、残りも少なくなってきましたが、このまま一位まで書いていくつもりです。いろいろと好き勝手に書いていますが、あくまで個人の感想です。お許しください。でも、そんな感想を読んで下さったり、拍手まで押してくださるかたには心よりお礼申し上げます。励みになります。ほんとうにありがとうございます。どうぞこれからもよろしくお願いします!