ルパン三世PART4第1話「ルパン三世の結婚」感想

 「イタリアが愛の国ならば、すべての愛はおれの手中にある……ルパン三世」

 印象的なフレーズと共にはじまったPART4の第1話は、イタリアの小国、サンマリノを舞台に、ルパンからの結婚式の招待状を手にして会場に急ぐ銭形警部の姿で幕を上げます。ルパンが式を挙げている教会には、一般の人々に混じって、五エ門と次元、不二子の三人の姿があります。五エ門は紋付き袴、不二子は髪をアップにしてそれらしい様子ですが、次元はこんな場所でも肘をついているのが、かれらしいですね。そして、ルパンと隣り合って微笑むのはミントグリーンのメッシュが印象的なブロンドの美女。余裕たっぷりなウィンクで美女の笑みに応じるルパンのアップに、銭形警部の「あのルパンが結婚なんて」という台詞がかぶって、アバンは終了。

 とりあえずこの短いアバンで主要人物が勢ぞろいし、最後の最後でルパンのウィンクというのが素晴らしい。ていうかときめいた。PART4独特のこの描線がすごく好きです。

 指輪の交換が終わると同時にやって来た銭形警部。「その結婚、ちょっと待った!」と叫ぶあたりが、映画の「卒業」みたいですねと思ったら、花嫁のレベッカちゃんが「ええ? なになに、ルパンの愛人?」なんて言うから笑っちゃったよ。でも、これだけで彼女のキャラが分かりますね。このレベッカちゃんのウェディングドレスがまた可愛い……。ずんずんやって来る銭形警部にレベッカちゃんは面白がって受けてるけど、それを止めるロブソンも登場です。銭形警部はそのまま退場。

 続く披露宴の場面では、三ツ星シェフの料理もいらないといい、ピアニストの演奏も耳ざわりだと言ってのけるレベッカ(余談ですけど、このピアニストの曲も大野雄二先生の作曲なのですが、レベッカちゃんがお気に入りだった大野先生がこの場面をみてがっくりしちゃったという可愛いエピソードがわたしのお気に入りです)。それをたしなめるルパンにも「あたしのセンスに合わないの」とレベッカは耳を貸しません。この「あたしのセンス」ってレベッカのキーワードなんですよね。

 それを遠巻きに見ているのは、次元と五エ門、不二子の三人。「噂にたがわぬワガママ娘だな」とあきれる次元に「今に始まったことじゃないわよ」とレベッカの話を始める不二子。サンマリノの名家、ロッセリーニ家の令嬢にしてロッセリーニ財閥の若き会長、16歳でモデルデビューして以来、ファッションデザイナー、歌手、女優を転々とし、政治家や有名スポーツ選手との浮名も数知れないゴシップ・クイーン……そんな彼女がなぜルパンと、という五エ門の疑問に、次元が「ルパンのやつが一目ぼれしちまいやがったんだ」と説明します。「とんだ茶番ね」とあきれる不二子。

 ここ、笑うくらいにレベッカの設定が盛り盛りなんだけど、そういう子じゃないとルパンの花嫁にはふさわしくないというか、このシリーズ全体を通じてのヒロインなんだからあたりまえかな。というか、この表面的な設定よりもっと深いところにレベッカの真の部分があるというのは、このあと分かっていくことなんですよね。わたしはレベッカちゃん大好きなのでひいき目に見ています。そして、ここでしれっとルパンとレベッカの出会いを説明する次元さん、こういう場なのに帽子もかぶったまま、ネクタイも崩れているあたりが素敵です。下手したらテーブルで煙草も吸いかねないな。

 席を立った不二子に、「最後までお祝いしていってくれないのか?」とやって来るルパン。レベッカちゃん、このひとのほうが銭形警部よりよっぽど昔からのルパンの愛人です。でも不二子ちゃんは「このわたしがご祝儀渡したのよ? それで十分でしょ」と取り付く島もない。あの、素直な疑問ですが、イタリアの結婚式でもご祝儀ってあるんでしょうか。受付でのし袋で渡すんでしょうか。受付で預かる友人が次元と五エ門だったら泥棒に渡すことになるから大丈夫でしょうか。あ、ルパンも泥棒か。でも真面目な話、教会の造形や街の風景などの細部の美術にこだわっても、こういう台詞は軽く流しちゃうセンスってルパンぽくて好き。

 ルパンの今後を疑問視する五エ門にも「サンマリノで家庭菜園でもしながら余生を過ごすよ」と軽く言ってのけるルパン。不二子と五エ門、次元は付き合ってられないとばかりに席を立ちます。五エ門の席にはちゃんと徳利が準備されていたのは細かいなと思いました。店を出ながら、不二子に「素直になれよ、他の女にルパンを取られて妬いてるんだろ」という次元。しかし不二子は取り合わず「冗談よしてよ」とアップにまとめていた髪をほどきます。「だったらなぜルパンの招待に応じた?」と重ねて言う次元に、不二子は「あら、そういうあなたこそ」と笑います。「わたしの目を誤魔化そうたって、そうはいかないわよ」という謎めいたセリフを残して去る不二子。「あの女、なぜあのようなことを」といぶかしがる五エ門に、次元は「……ったく、やりづれえ女だ」と言うのみでした。

 えー、申し遅れましたが、このPART4、PART6が放送されるまでは、歴代ルパンシリーズの中でも最強に近いほど、次元と不二子が付き合っているシリーズだったのですが(いまなんかとたんに自分がバグった感がある)、第1話の最初からこんな場面があったからにはそれもしょうがない。この思わせぶりなやりとりどうしましょう。距離感最高だな。

 正直言って、台詞の整合性という意味ではまったく噛み合ってない会話だと思うんですが(だって、妬いてないからこそ不二子はルパンの結婚式に出られるんでしょうし、その「あなたこそ」ってなんだ。それだと次元も妬いてるってことになっちゃわないか。それはそれでいやその)、要するにこの結婚には裏がある。それを不二子は見抜いてるからこそ式に出ているってことなんでしょうね。不二子の台詞はその釘さし。まったく分かっていない五エ門はただもう可愛い。

 そして結婚式も終え、レベッカのセカンドハウスで、リラックスしているルパンとレベッカ。この家も、高いワインも、レベッカの元カレからのもらいもの。ふたりのハネムーン用にレベッカがデザインしたプライベートジェットのデザインまで見せられたルパンは、いささか圧倒され気味で「なんでおれのプロポーズ、OKしてくれたわけ?」とレベッカに問いますが、レベッカは「しいて言えば、顔。あたしのセンスにドンピシャって感じ」とにっこり笑います。盛り上がるルパンですが、執事のロブソンに待ったをかけられます。明日の塔での儀式が終わるまではそういうことはなし、だそうです。

 レベッカの天衣無縫なキャラとそれに負けないルパンの軽さがとてもいいですね。ひさしぶりのルパンダイブも楽しいし、ロブソンに邪魔されて犬みたいにうなってるルパン可愛すぎ。
 
 一方、閉じ込められている銭形警部は衛兵に、必死にルパンの危険さを訴えます。そこに、「明日、午前7時、リベルタスの王冠を頂きます」とのルパンからの予告状が届いたと知らせが入ります。「おれなら奴の手の内が分かる!」と叫ぶ銭形警部。そのとおり、ルパンは眠るレベッカをひとりセカンドハウスに残し「予定通りだぜ、現地で落ち合おう」と次元に話しながら車を走らせているのです。

 そこで「不二子が勘づいていやがった」とルパンに告げる次元。そこで、どうやらなにもかも仕事のため、と悟った五エ門は「心外だ……本気でルパンの結婚を祝福していたそれがしをだますとは」とちょっとショックの様子。次元は「あとでカプチーノご馳走してやるから。うまいぞう」と軽く流そうとしますが、五エ門は納得いきません。それを見て、次元はターゲットがサンマリノの国宝「リベルタスの王冠」であること、その王冠が現れるのは名家の結婚式の翌日に行われる「旅立ちの儀式」のときのみで、参加が許されるのは9人の長とその血縁者だけ、ということを明らかにします。それでもなぜ自分に黙っていたか、と問う五エ門ですが「おまえさんは隠し事が顔に出るタイプだから、直前まで内緒にしておけってルパンがな」と次元に言われて否定できずに黙ります。「さあて、お宝とご対面といきますか!」と張り切るルパン。Aパートはここまで。

 後半の展開への伏線も抜かりなく、これからお仕事、とわくわくするAパートですね。次元も五エ門も不二子もとっつあんも、出番は少なくとも勘所は押さえてる感じ。なかでも次元と不二子のさやあてと、「隠し事が顔に出る」といわれてしまった五エ門の可愛さが無限大です。次元が五エ門を可愛がってる感があって良い……。

 Bパート。儀式のために持ち出されたリベルタスの王冠のもとに駆け付ける銭形警部は王冠を保管場所に戻そうとしますが、その様子を離れた場所から見守っているのは次元とルパン。どうやらふたりにとっても銭形警部がここにいるのは予想外だった様子。しかも、それを銭形に嗅ぎつけられてしまいます。ここで、予告状を送り付けたのはルパンでないことが明らかになり、ルパンはその場を逃げ出します。その場にいる人たちが、それに気を取られているうちに、リベルタスの王冠は保管場所へと姿を消します。銭形から逃げるルパンと次元に助け舟を出したのは五エ門でした。

 ニセの予告状を出したのは誰か、といぶかしがる次元ですが、ルパンには見当がついている様子。「このおれをダシに使うとは、いい度胸してやがる、このままで済むと思うなよ!」と言うルパンの言葉に応えるように、警備の兵に変装してリベルタスの王冠を手に入れたのは不二子でした。変装を取って髪が揺れる瞬間の顔が素晴らしく可愛い! バイクに乗って去ろうとした不二子の前に立ちはだかったのは、警備のパトリック。そこに駆け付けた銭形警部ですが、さらにはルパンもその場に。逃げる不二子のハーレーのタイヤを撃ち抜いて足を止めたのは次元の放った銃弾でした。そして、リベルタスの王冠は、ルパンの元に。しかし、不二子を人質に取られたルパンは、けっきょく王冠をパトリックのもとに返し、その場を去るのでした。

 この一連の流れも、決して意外な展開ではないけれどテンポが良くて楽しいです。不二子ちゃんを足止めする次元さんが楽しそうなんだよな……。みんなここで偽の予告状を出したのは不二子だと思っちゃうよね。そして、王冠を「あたしのものよ!」「いーやおれのものだ」「ばかもん、サンマリノのものだ!」と言い合う不二子、ルパン、銭形のやりとりがいい。とっつあんはつくづく正しい公僕だな……。

 で、ちょっと内容自体の感想とはズレるんですが、わたしが面白いなと思ったポイントについて。ここでよけいなことをした不二子ちゃんのためにルパンがお宝をあきらめなくていけなくなるという、新ルとかTVSPあたりで佃煮にするほどたくさんあった展開になりますね。ひさしぶりのTVシリーズの第1話だから、お約束としてやったのかな?と思ったのですが、面白いことに、これ以後の作品では、不二子が自分の失敗のためルパンに助けを求め、結果として足を引っ張る展開というのはほぼ皆無になるんですね、たしか。

 今後、不二子は(このPART4のシリーズ内でさえ)、ルパンに一歩先を行かれたり、失敗をすることはあっても、ルパンの足手まといにはならなくなるんです。作劇上の展開として使うにはあまりに安易なやり口、というのが第一ではあると思いますし、どれだけスタッフの意図した事かは分かりませんが、その変化は、常にその時代の「理想の女性」であった峰不二子というキャラクターの変貌をうかがい知れるポイントだなあとわたしは感じました。

 夜明け前。王冠を保管する役割を申し出て、王冠をわがものにしたパトリックですが、その前にルパンが現れます。ルパンは偽の予告状を出したのが、パトリックを騙ったレベッカであることを見抜いていたのでした。なぜそんなことをしたのかと問うルパンですが、レベッカの望みは王冠そのものではありませんでした。レベッカは「わたしが欲しいのはスリルよ!」と告げます。レベッカはルパンが自分にプロポーズした段階で、ルパンの狙いを見抜いていたのでした。「もう用済みだからあげる」と王冠をルパンに投げたレベッカは、塔の上からその身を躍らせます。追いかけるルパンですが、レベッカはロブソンの操縦する飛行機に飛び乗ります。ルパンはそのまま地上に落ち、「ミセス・ルパンか、言ってくれるねえ……」と飛行機が去るのを見送るのでした。

 ルパンとレベッカのチェイス場面は、ほんとうによく動いて楽しい! 作画的な細かさより、とにかく動いて軽やかに飛ことが優先されている感じで、レベッカもルパンも、ふたりの魅力が引き出されてる。ルパンの上を狙ったスリルを愛するヒロイン、というのは目新しい存在ではないですが、レベッカがルパンと互角で飛び回っても、ルパンに格落ちの感じがしないのがいいな。もちろんレベッカと言うキャラクターの深みが引き出されるのはこのあとの話になるのですが……。

 そして地上に落ちたルパンの元にやってきたのは不二子。ルパンは一度渡された王冠をレベッカに返していたのでした。飛行機の中で満足げにビールを飲むレベッカですが、「わたしの負けよ、負け。……本当に受ける、最高ね、ルパンって」とつぶやきます。どうやら彼女の行動には何か理由がある様子。一方、すべての流れを悟ったと思しき不二子は、ルパンに「ご祝儀返してちょうだい」と手を出します。いいぞ不二子。それでこそ不二子。しかしルパンは「離婚届にサインしてもらわないと!」と慌てる始末。これも余談ですが、イタリアで離婚するのって滅茶苦茶たいへんなんですよね。あきれた不二子に置き去りにされたルパンのもとに銭形警部もやってきて、ルパンが逃げ出し幕……と思いきや、なにやら怪しげな男性のカット(二クス)で1話は幕、となりました。

 というわけで第1話の感想でした。リアルタイムで見てた時は、ルパンにこんな風に再燃する前でしたが、ルパン好きはルパン好きだったので、新OPのカッコ良さにときめき、普通に新しいルパンいいじゃん、と眺めていた記憶があります。まさかこんなことになろうとは。で、いまこうやって再見するとまたいろんな発見があって面白い。個人的には、30年ぶりのTVシリーズということで、作り手のみなさまの気合と力の入れ方、同時に若干の試行錯誤感もありつつ、みごとに2010年代の「ルパン三世」をやりきり、ルパン三世を再生させたシリーズだと思っているご贔屓シリーズです。褒め倒していく所存です。こういう風に一話一話の感想を書いていくのが楽しみです。のんびり書いていきますので、どうぞお付き合い頂けたらと思います!

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