「夢野久作全集3」夢野久作(ちくま文庫)



 以前にも触れた「私とハルマゲドン」にて、引用されたいた歌が気になったことから「猟奇歌」を目当てに購入しました。なにげに読んでいるようで読んでいないようで読んでいる(どっちやねん)夢野久作でしたが、この一冊はお目当て以外も佳作ぞろいで面白く読めました。
 「猟奇歌」は読んで字のごとく、猟奇な事物や心持を歌に詠んだものですが、短い一文だけでもざっくりと人の昏い心や視線を表現した物語性は確かなもの。解説によると、発表当時はこの形式を模倣した作品が相次いだそうですが、それも分かる。いまでもそんなことやってるひとはいそうだね。わたしのお気に入りをいくつか引用してみます。
「わるいもの見たと思うて/立ち帰る/彼女の室の毟られた蝶」
「透明な硝子の探偵が/前に在り/うしろにも在り/秋晴れの町」
「白い乳を出させようとて/タンポポを引き切る気持ち/彼女の腕を見る」

 総数259首のなかには、とても分かりやすいいかにも猟奇なものもあれば、とぼけた感じのものもあり、色々ですが、まとめて読んでも拾い読みしても楽しめる内容の濃さだと思います。「猟奇歌」以外では、呪われた鼓をめぐっての二転三転する物語展開が面白い「あやかしの鼓」、女性の手紙形式を使い、奇怪でロマンな運命の悲恋を描いた「押絵の奇跡」、父を裏切った叔父やその情婦を悪魔と疑い生きてきた男の、最後の最後の述懐がせつない「鉄槌」などがとくに面白かったです。
 時代が時代なので、文章が名文で美しく、劇的で描写力に溢れているのは当たり前かもしれませんが、それにしても、夢野久作の描く女性たちはとても魅惑的で小悪魔で、愚かで美しいです。カタカナで笑う仕草が、こんなに似合う女性たちはいまの小説には存在しないことでしょう。

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