「湖中の女」レイモンド・チャンドラー(ハヤカワ・ミステリ文庫)



 わたしはミステリのトリックを見破ることがほとんどまったく出来ない人間なのですが、そんなわたしでも予想がついたトリックはともかくとして、これもまた女性の魅力が光る一作。マーロウが追う金髪の女性はもちろんですが、わたしは、ミス・フロムセットの健気さに打たれたな。この時代、生き生きとした女性が描写されるとしたら、あるていどの悪の要素を持たずには不可能だったのかもしれないと思ったり。
 チャンドラーの長編小説を4冊読んで、残るは3冊なのですが、あとはゆっくり読めばいいかなという感じです。やはり「長いお別れ」が群を抜いている。どの作品でも、マーロウは無関心を装った人情家でありますが、「長いお別れ」のテリー・レノックスに対して向けたような情愛は他の作品では見つからない。だからこそ、あの最後が、わたしにはとても残酷で哀しく、他のものとは比較できないものであると感じるのです。

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