「ひっち&GO!!全二巻」永野のりこ(メディアファクトリー)



 
ひきこもり気味の対人恐怖な青年安五郎の前に突然現れた奇妙な美少女「ひっち」。とってもキュートなんだけどとっても人外。あくまで自分をフツーのオンナノコと云い張る彼女に、べた惚れしてしまった安五郎だったが、彼女は怪しい連中に狙われていた。実は彼女は異世界の姫だったのだ…というあらすじだけ書いてしまったら、なんだかそこらにはいて捨てるほどあるうる星をプロトタイプにしたオタクドリーム萌えマンガみたいですが、そこはやはりナガノなので。

 それでも正直、一巻はそういう路線ぽいです。なんせ絵がとてもキュートなアニメぽい絵だし。しかしわたしはこのいまのナガノ絵がすごく好きなんです。可愛いし綺麗なんだもん。そういう絵とハイなファンタジー設定のなか、ナガノ独特のごちゃごちゃとしたハイテンションなキャラクターたちが暴れまわる賑やかなコメディ、と思いきや。見事に二巻で化けの皮がはがれたね。化けの皮云うなわたし。

 いや、もともとはそういう話だったのかな。ひっちの出自が、人間が生み出した汚れに耐えられず、ただ滅んでゆくしかない種族であり、ひっちがその種族の最後の希望として迎えられた姫であったことが明らかになってゆくに従い、物語はその種の人間への戦いを描き、シリアスな度合いを増していきます。その種の運命と悲劇は、同じナガノ作品でいえば「さかなちゃん」を思い出す流れです。あまりにも辛いその絶望と諦念。そしてその壮大な運命が、ひきこもりだった安五郎がひっちの存在をきっかけとしてひととの関わりを信じていけるようになる展開とリンクしている、その構成には泣けました。「オデッセイ」以来の感激です。汚れた世界は変わるわけではない。しかし世界は果てがない。そしてその世界を信じれば、ひとであってもなんであっても、誰もが、どこへでもいけることが出来るのだと。

 肝心の安五郎とひっちの関係自体は、男女の恋愛というにはあまりに淡いものですし、正直「主」というキャラクターの凄みで、物語の芯はこちらに引きずられてしまったのではないかなと思うのですが、わたしはもうこういう話に弱いので、OKなのです。

 ナガノというとどうしても「すげこまくん」のイメージが強いのか(もちろんわたしはあれもリスペクトの域に達してますよ?)、眼鏡のオタク男が可愛い女の子をストーキングしてとかアレでナニでソレなイメージで語られがちな印象がありますが、本来、すごく健全な感性をもったひとだと思う。そして強い。そこらへんの乖離具合が、イマイチ大ヒットしない原因かなーとも思うんですが…もったいない。いや、いまアニメって空前の製作ブームらしいから、これなんてまさにアニメ化うってつけのテンションの高さを持ってると思うんだけど…(駄目?)。そしてそれをきっかけにナガノ作品を手にとってくれるひとが増えたらいいなあなどと思うのです。狙いはそこだ。

 わたしはたいがい自分の好きなものを他人に勧めずにはいられないはた迷惑な人間ですが、永野のりこは本当に、男女問わず読んで欲しいマンガ家さんです。とりわけ、この世界で生きる意味について、戸惑ったことがあるひとに。

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