「まっ白な嘘」フレドリック・ブラウン(創元推理文庫)



 わたしがこの人の名前を初めて知ったのは、星新一のエッセイだったかな。短編の名手としてなにかと有名なひとです。「火星人ゴーホーム」とか「発狂する宇宙」の有名作を十年以上前に読んではいたんですが、そのときはあまりピンとこなかったような。けれど、この短編集はとても楽しめました。奇妙な味とか発想の妙とか意外な結末、と通り一遍の言葉で表現するとそういうものになってしまうんですが、その根底に一つの見識があります。この本は、ミステリ系の作品が中心です。17編の短編が収録されていますが、とくに印象的だったのは以下の作品。
 悪意ある悪戯によってたった一枚刷られた号外が引き起こす悲劇を描いた「世界がおしまいになった夜」、サーカスで起こった殺人事件の思わぬ解決とラストがなんだかとても微笑ましくて好きな「メリーゴーラウンド」、記憶を無くしたジャズミュージシャンが抱える謎、抑えた筆致だからこそ、その恐ろしさがより伝わるかれの最後の選択、女性というのはまさにこういうことをしてしまうイキモノだといわざるを得ない、その真実がいちばん怖いかもしれない「キャサリン、おまえの咽喉をもう一度」、古めかしいギャング物かと思いきや、最後の一文で間違いなく現代のわたしたちも含めてターゲットになってしまう、プチメタな展開が実にカッコいい「町を求む」、タイトルの意味が分かった瞬間にぞっとする「むきにくい林檎」、人間の純粋な悪意がもたらす悲劇が実にやりきれない「自分の声」「叫べ、沈黙よ」、まったくもってありえないと分かってはいても、比喩でなく自分が犠牲者になる気持ち悪さと語り口がメタ極まりない「うしろを見るな」。イヤー実に傑作ぞろいでした。

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