「蕭々館日録」久世光彦(中公文庫)



 大正が過ぎてゆき終わりを告げる時代。文学談義や他愛のない話に明け暮れつつも親交を深めてゆく芥川龍之介、菊池寛、小島政二郎をモデルにした作家たち。その姿を、岸田劉生が描くところの「麗子像」をモチーフにした「あたし」なる5歳の幼女の視線を通して描いた長編です。
 久世光彦はわたしにとっても「萌え」のひとなので、この本も楽しく読めました。とにかくひとつひとつのモチーフや小道具にきゃーきゃー喜んでいれば話が進むので楽です。日本語が美しい。その美しい日本語をひたすらもてあそんで創りあげた世界は、なんだかところどころありえなくていびつで、もちろん、美しく幻なのです。その元を知っていればなお面白いのでしょうけど、この方面の教養が足りないわたしにはちと手に負えない部分が多々ありました。いっそモデルとかそういうことを全部無視して、ひとつのこういう小説だと思って読めばさらに面白いのだと思います。わたしはこういう作品こそ幻想小説とか耽美派というのだと思う。
 文章のひとつひとつがたっぷりと水分を含んで甘く重いような、感傷的ではあるけれど、不気味な物語でもあります。どこまでが実際の大正で、どこまでが幻想の大正なのか、その境界線がとても曖昧で、それこそ5歳の幼女が熱に浮かされたときに見る夢のよう。睡眠薬を服んだ麗子が、九鬼の布団にもぐりこむ場面が、とても好きです。

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