「寓話」榎本ナリコ(双葉社)



 童話や伝説や神話を下敷きに、迷い多い年代の人との触れ合いやセックスしても恋にまで至らない関わりを描いた短編集です。
 短編の連作集だった「センチメントの季節」を思わせます。わたしが苦手だった、余りにも創りすぎな設定やテーマの為に存在するキャラクターなどの部分は正直、そのまま存在しているものの、ひとつの場面、一言の台詞の圧倒的な感覚で共感させるマンガとしての繊細さもまた健在です。後者が優れていれば、前者は問題にならなくなることも多いので、これはもはや個人的な好みの問題になるのかもしれません。
 わたしが好きなのは、雨の日に聞こえるサイレンの音の正体が、孤独な少年をさらに絶望させるおとぎ話となった「サイレン」と、優等生の少女が不良の男の子の家庭に入り込むことによって安らぎを得る、良質な少女マンガでもある「さよならウェンディ」の二編でした。

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