「バスルーム寓話」 おかざき真里 (飛鳥新社)



おかざき真里の初コミックス。全部で4作の短編が掲載されています。
 その中でもぶ?けでのデビュー作となった「バスルーム寓話」がとくに良いかな。とつぜん彼氏に別れを告げられた彼女、ところがかれはペンギンになってしまう。そのかれを自分の浴室で飼うことになったのだけど…というお話。失恋という状況のもたらすどうしようもない閉塞感と、もう取り戻せないひとの気持ちのせつなさ、そんなものを独特の描線と表現で展開してくれる、すごくおかざき真里らしい作品。無数の魚の群れが印象的です。現実的なストーリーではないからこそ、よけいにクリアな感情がはっきりと伝わってくるのです。それらこそはまさに「あの」という言葉を添えて云われる「あの夏休み」「あの夏」というものへの感傷でありましょう。
 おかざき真里の作品には、とても自閉的で逃避的な色合いが濃いときがあって(この作品集でいうなら「拍手喝采ピエロ」)それは読んでいてもとても息がつまるような、哀しいものであるのだけど、それが無くなったらおかざき真里じゃないよね…という気持ちにもなる。消えてなくなってしまうもの、置いて行くものと置いていかれるもの。もう戻らないもの、とりかえしのつかないこと。おかざき真里の作品には、そういったものへの愛しさがこめられている。わたしは彼女の作品を愛する理由がまさにそれです。

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