「海馬が耳から駆けてゆく(1)?(3)」菅野彰(新書館・ウィングス文庫)



 以前、共著である「ベトナムよちよち歩き」を購入したことから、なんとなく手に取ったエッセイ集。


 BL系の作家さんなのかな、小説のほうは未読です。しかし、実に楽しかったです。一冊につき数回は吹きだすこと請け合い。ほら、やたらフリートークが楽しい同人作家さんっているじゃないですか。その評判の高さに、フリートークオンリー本とか出ちゃうひととか。そういうひととたちと、同じ匂いがします(悪い意味ではないですよ)。内容は、家族のことや旅行記、仕事の話、友人たちとの悪ふざけや自分の好きなものなどの、一見ごく当たり前に見える身の回りの話題が中心なのですが、それらがあえて奇をてらわずとも、実にナチュラルに変わっている。この世に平凡なんてないのかもしれないと思わされます。
 1巻では、高校時代のエピソードが苦しくも笑える、いやあどこでもいつでも高校生は高校生ですよね、な「人の話は曲がりくねり歪むという話」、姉弟を襲った地味だけど死を覚悟せずにいられない恐怖の体験、川ってだから恐いんですよ、な「恐い旅人の話」。2巻では、「あなたの今までの人生の中でしてしまった、一番悪いことはなんですか?」という筆者の問いに寄せられた答えの数々にげらげら笑いながらも、人間の奥深さが伝わってくる「悪いことの話」(自分でも友人に問うて答えを集めたくなってしまったが、どう考えてもマイフレンズのほとんどは、「云えるかそんなこと」で終わらせるだろうと思ってやめた。わたしもそうだ。なぜなら現在進行形だから…)。3巻では、やっぱり高校生のパワーって無駄で苦しく愛おしい、でも自分はもう二度とあんなのいやだ、な「学校の思い出の話」、「行かず後家、誰に会うとて、紅おしろい」なるお母様の俳句に胸をかきむしられる「機械の身体を手に入れる話」などがおすすめラインナップです。

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