「鎌本健一、十五歳(上・下)」 加藤冬紀 (ヒット出版社)


地味だけど落ち着いた描線と、せつないストーリー、ちゃんとしたオトコノコであるキャラクター、それが魅力で、JUNEに短編がちらほら載っていた頃から大好きなマンガ家さんでした。「THE神田兄弟」はコミックスになったけれど、それ以外の短編はコミックスになっていないんでしょうか…(泣)。
 これは幼い頃に憧れた高校生のお兄さんの面影を求めて、その高校に入学した主人公と、かれを取り巻く人々を描いた長編です。高校が、いわゆる旧制高校っぽい雰囲気なのがいいですね。マントに学帽だし。「おれの…弟にならんか」という台詞には、激烈に萌えました。うっとり。
 絵柄自体が派手派手しくはない、ということもあるとは思うけれど、「女顔」とされる主人公だって、立派にオトコノコぽいのが良いです。ここには「受け」とか「攻め」といったやおいマンガのみに存在する特殊な人々はいないのが、またポイント高し。「オネエ」はいるけどな。ちゃんとフツーの男の子たちが、それでも同性に惹かれて、ホモじゃないかと悩んだり、そんなことよりただ相手が好きなんだ、特別なんだと思ったりするあたり、昔のジュネ好きにはたまらないものがあるのでは。それでもこれがいわば「お話」のやおいマンガであることはもちろんですけどね、同時に静かな幸福感に満ちた、良いお話であることも、また否定できないでしょう。ボーイズラブじゃなくてジュネなんだ、という感じ。
 直接的な描写はほとんどないですが、男同士の恋愛のせつなさは十分に体感できる作品です。おすすめ。

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