「おとんのひみつ」

「はいどーもこんにちは」
「こんにちはー」
「漫才コンビ、ノコッタヨコッタでーす」
「しかしあれやね。もう年末が近づくと、忘年会やらなんやらでいろいろ忙しいことおおなるね」
「そうそう。おまえ幹事とかようやっとるよな」
「もうね、呑み会の幹事やるゆーたらひとりひとりと連絡取るのが大儀ですわ」
「いっつもお世話になっております」
「おまえは本当にケータイかけても出んし、メール打っても返事ないなあ」
「糸がやな」
「その話はもうええ」
「こないだ、家にかけてきたやろ」
「そうや。おまえのおとん、昔っからやけどそろそろなんとかしてくれへんか」
「なんとかって」
「あんな。やっぱこんな売れない芸人やってるっちゅーからには俺も気を遣うわけよ。うちの息子の悪い仲間とか思われたらせんないやん」
「事実やしな」
「こら。そんな俺が気を遣って電話をかけるわけや。『もしもし、小林さまのお宅でしょうか。夜分おそれいりますが、黒岩と申します。宗久くんはご在宅ですか?』」
「それだけ聞いたらかえって怪しいな」
「気い遣うとるねん!そしたらおまえのおとんが、あの重厚な声で」
「酒で焼けとるんやけどな」
「『はい、黒岩くんですね。宗久がいつもお世話になってます。いまちょっと見えないんですが、少々お待ちください』それからでかい声で『ヨコッター!ノコッタンから電話やでー!』俺の話きいとんのかい、あのオヤジ!」
「聞いてるわけないやん」
「ああ、あとな。おまえ、俺に用があるときは俺のケータイかけてこい。おかんに伝言託さんでええから」
「せやけど、お前の電話は着信拒否にしてあるし」
「なんでや!」
「おまえの番号はメモリに残らんようにこまめに消すし」
「嫌いなんかい!」
「おまえのおかんのほうが好きやな」
「…その告白聞いて、俺にどんな顔しろと」
「電話かけるやん。そしたらお前の話、一時間でも二時間でもしてくれるねん」
「すんな」
「『ああら、ヨコッタくぅん。いっつもいっつもうちのノコタンが足ひっぱってごめんなさいねぇ。あのコ本当につまらないでしょう』電話やのに茶菓子が出る勢いや。今度食事に誘われて、どきどきしてんねん」
「どきどきすんな!」
「おまえは俺のおとんと仲良くなったらええやん」
「おまえのおとん、わからへん。あんま逢ったことないしな」
「日本にあんまおらんねん」
「マジかい。なにしてんの」
「俺もそれ小さい頃不思議でな。それで、おとんに聞いてん。おとうちゃんのおしごとなにーって。そしたら次の休みに東京連れていってくれた」
「おお、なんかカッコいいな」
「それで東京タワーのぼってん。小学校2年くらいやん。初めて行く東京でもう頭わからんくらい興奮してて、なおかつ東京タワーやん。もうウキョキョキョキョーって走りまわっててん」
「おとんも罪なひとやな」
「そしたらおとんが展望鏡を見せてくれてん。『どうや、宗久。見えるか?』「うん。見える!』『なにが見える?』『あんな、あんな、いーっぱい建物と車と、人と、山!』こどもやん。もう目に見えるもんかたっぱしから云うてん」
「泣けるなあ。ええ思い出や」
「そしたらおとんが『いいか宗久。誰にも言うなよ。いま見えるものすべてを怪獣から守るのが、お父さんの仕事なんや』…ウルトラマンや」
「嘘お」
「中学生まで信じたな」
「もちょっと早く気づこうや」
「こどもやってん。さすがに嘘つかれてたと気づいたときはショックやった」
「まあそやな」
「将来こどもが出来ても、俺はそういうことはすまい、と誓ったね」
「なるほど」
「俺は通天閣にしとこうと」
「場所の問題かい!」

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