「クリスマス」

「はいどーもこんにちは」
「こんにちはー」
「漫才コンビ、ノコッタヨコッタでーす」
「いやあもう、クリスマスやね」
「街歩いてるとホンマ、どこからでもシャンシャンシャンシャン鈴の音ですな」
「雰囲気高まってんねえ。ところで、お前はクリスマスはどうなん?予定あんの?」
「まあね、そりゃね、人並みにね」
「あー!さっきから妙にセーターいじくってばっかりや思うたら、それ手作りやん!」
「ふふん。ま、ちょっと早いんやけどな」
「きゃー自分やらしーわー。そんなセーター編んでもろたん、誰にや??」
「おまえのおかん」
「なんでうちのおかんやねん!」
「『ヨコッタくん、痩せてるからいっつも寒そうやわあん。これ、よかったら着てぇん』」
「その絶妙なおかんの口真似やめんと殺す」
「俺もちょっとびっくりして。『いいんですか、由美子さん』」
「ひとのおかん名前で呼ぶなや!なんで標準語やねん!」
「『いけない人だ』」
「ちょう昼メロ入ってるがな!」
「『息子さんが驚きますよ』『そうやねぇ。あのコのセーターほどいて編み直したからねぇ』」
「どっかで見たことある色やとは思ったんや」
「そういうわけで、俺、クリスマスはおまえん家で飯食うから」
「ちょう待て。なんで俺ん家やねん」
「いや、やっぱり俺もホテルのディナーはちょっとな。いまからはさすがに部屋の予約が取れへんし」
「ひとのおかん口説きにかかるな!一生取るなそんなもん!」
「君の瞳に乾杯」
「せんでええ!」
「由美子さんも泊まっていいって」
「泊まるんかい」
「そんなお前。イブの夜にご飯食べて即解散なんて味気ないがな」
「俺が家に帰ってきたら、お前がおかんとご飯食べてんのかい」
「ご飯食べてるんやったらええなあ」
「不敵な笑いすんな、キショいんじゃあ!」
「なんや、おまえはどっか出かけるんか」
「おまえ、俺かてそりゃそれなりになあ。オンナノコとなあ」
「おい、俺は由美子さんと自分のオンナ、量りにかけようとも思わんかったぞ」
「相方のおかんと自分の彼女でおかんを選ぶか、普通!」
「ええやん。お前も俺らと一緒に飯食えば。親子水入らずやん」
「お前がおったら水入らずちゃう」
「4ヵ月後には戸籍上でも大丈夫や」
「なにするつもりじゃ、殺すぞガキ!」
「ガキて」
「あんな、おかんはああみえてもおとんが死んでから女手ひとつで俺を育ててくれたひとやねん。苦労かけてんねん」
「…女性として枯れるには早すぎる」
「俺が除草剤まいたるわ!」
「『ノコタンはマザコンで困るわぁん』」
「せやからその口真似やめんと殺す」
「ええやん。俺もプレゼント用意するし」
「マジかい」
「プレゼントいうたら、サンタクロースっていつまでおると思ってた?」
「あーあー。俺はそんなんおるもんかいって思ってたなあ。さめたガキやったから。お前は?」
「俺はなんせうちにおったから」
「なにが」
「サンタクロース」
「おらへん」
「おってん。毎年24日の朝になるとな、おとんが赤い服着てソファで足組んで新聞読んでるねん。昨日まで生えてなかった白いヒゲをこう、たくわえてな」
「なあ、前から云おう云おう思っててんけど」
「なんや」
「おまえのおとん、おかしい」
「せやけど、こっちはこどもやん。『うわあ、お父ちゃん、サンタやってん!』『おお宗久。誰にも云うなよ。お父ちゃんはサンタクロースやから、今日明日と大忙しや』それで一晩帰ってきーへん」
「キャバレーの呼び込みでもやってたんちゃうんか」
「いや、純粋な趣味。その格好で呑み歩くん」
「豪傑やな」
「それで俺はお父ちゃんはサンタやーサンタやー思ってて。テレビとかでサンタが映るとうわあお父ちゃん大活躍やーと思って。そしたら学校でな、友達が言うわけよ」
「なんて」
「クリスマスプレゼント、お父さんにもろうたーって。俺、そこで初めてびっくりしてん」
「ああ、真実に気づいたんやな」
「なるほど、こいつと俺は兄弟やったんかって」
「違うがな!」

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