「恋も仕事も思いのまま」へレン・ガーリー・ブラウン(集英社文庫)



 仕事に悩むわたしをずっと支えてくれた一冊です。山田詠美がエッセイで紹介してたのがきっかけで、下手したら10年くらい前に購入した本ですが、何度繰り返して読んだか分かりません。初版は88年。
 著者は、アメリカで発行されている女性雑誌「コスモポリタン」(日本版もありますね)の名女性編集長として名を馳せた女性。なんと、1922年生まれです。43歳から74歳になるまでの間、売り上げを落とすことなく、コスモの編集長を続けたのだから、そのタフさとキャリアの凄さが分かります。「コスモポリタン」がどういう雑誌かというのをよく現したのが、映画「キューティブロンド」で、獄中の依頼人に主人公(実にキュートなピンクが似合うブロンド娘)がこの雑誌を差し入れして、ひとこと「聖書よ」というシーン。つまり、アメリカのある種の若い女性にとって、それだけ大きな存在なのですね。
 この本は、その著者が自らのキャリアを元に、働く女性に対して述べた様々なアドバイスで構成されています。テーマは「仕事」「ダイエット」「運動」「ファッション」「セックス」「愛情」「結婚」「お金」などなど。なんせアメリカ人の著者が80年代に書いた本なので、現在の日本人からしたら首を傾げることもありますが、まあそこはそれ。それでも、「愛される女性のビジネスマナー」だの「職場で好まれるOLになるためには」だのと謳う日本のその手の本を読むより、ずっとわたしにはしっくりと来ました。なぜか。アドバイスが具体的だからです。それも、非常に実際的。
 仕事とは?「要するに自分の上にいる人間を良く見せて報酬を受け取ること」(なので、上司や同僚のために骨身を惜しんではならない。でも、休日出勤して誰も見てないところでファイルを整理したって骨折り損よ)。職場から文房具をくすねたり、ズルして利益を得てもいいの?「顔が赤くなるようならやめておきなさい!」お金を貯めるには?「これは簡単です。給料日のたびに銀行へ行進して、たとえわずかずつでも貯金すること。そう、あなたがするのよ」とか。バーゲンのルールは?「ピンクのブラウス、ガーゼ風のべザント・ドレス…それをもう7枚も持ってるのなら、これ以上目に留めないこと」本当に覚えておかなくてはいけないダイエットルールは?「体重を減らしたいのなら、いままでと同じ量は食べられない」
 どれも云うは易し、行なうは難しという感じですが、実際に行うためのアドバイスもまた豊富に述べられています。ただ、なにかと実際的なヘレンは、孤独な独身女性に既婚男性と付き合うことまで薦めてますから(既婚男性と付き合えば、楽しむだけ楽しんだらさようなら、でいいから)、そういうのが倫理的に許せないひとは読まないほうがいいかも。それだけでなく、なにかと極端なことまで断言するその口調(翻訳のせいもあるかな)は、はっきり好き嫌いが分かれるところでしょう。わたしとしては、こういうことまで云えちゃうのは実にアメリカ人の感性だなあと思います。なにもかもを鵜呑みにするわけではないけど、この前向きなパワーに、元気づけられたことは多かったです。きっとこれからもなにかと迷ったときに、実行できるかどうかを危ぶみながらも、この本を開くでしょう。
 同じ著者による「恋も仕事もやめられない!」(文春文庫)のほうが入手しやすいかな?こちらも同じような内容ですけど、2000年に書かれているので、時代的なズレは少ないかも。ところどころに、とてもフェミニズム先進国の女性とは思えない発言や、なにかと感傷的な思い出話が多いのが玉に瑕ですが、まあ、79歳の時の著書なので、それくらいは有りかもしれないです。ここにあるパワーは、本当に、計り知れない。

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