「キョウコのキョウは恐怖の恐」諸星大二郎(講談社)



 独特の作風で知られる伝奇SFマンガ家、諸星大二郎。ただし、これは小説の作品集となります。ベースには伝奇知識と怪奇趣味があり、その世界観を生かした壮大なストーリーで魅せる作品もあれば、普通の人々の生活にふと忍び寄る不条理と不安を描く作品もまたすばらしい。真にオリジナルな画風と作品には、常に畏敬の念を持って楽しませてもらっていますが(一番好きなのは「あもくんシリーズ」)、小説のほうも、実に諸星大二郎な内容でした。すべての情景が、間違いなく、あの絵で浮かんでくるのですよ。けれども、それをマンガでなく小説というかたちで表現したことにはそれなりの意味があったはず。もしマンガで描いたとしても、りっぱな完成度を持つ作品となったとは思いますが、小説としても独自の迫力とイメージに満ちています。
 話の主人公は、どれも平凡な男性。かれらが思わぬところから非日常の世界に入り込んでいく過程が、ごく自然で、ほんのりと怖い。こういうタイプの小説では、主人公はそうばたばたしないものだという印象がありましたが、展開的にも派手で、スリリングであります。ただ、いくぶん冗長かな?
 収録されている5編は、キョウコの「キョウ」が「凶」な「凶子」ちゃんがとてもチャーミングな「狂犬」、そのまま稗田礼二郎のフィールド・ノートとあっても不思議はなさそうで、おかっぱ少女が苦手なひとにはトラウマになりそうな「秘仏」、悪夢のイメージが強烈な「」、卵のイメージが生理的に厭なものになりそうな「鶏小屋のある家」、禍々しいものの、どこか感傷的なイメージも広がる「濁流」など、それぞれに楽しめます。諸星大二郎のファンはもちろんのこと、しっかりとした骨格を持った怪奇小説がお好きなかたにもおすすめです。あと、これ云うと怒られそうですが、なんとなく興味はあるけれど、絵が駄目で諸星大二郎が読めない人にも、氏の世界を知るという意味でおすすめかもしれません。

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