「ピカルディの薔薇」津原泰水(集英社)



 同じ作者による「綺譚集」が面白かった(感想)のが記憶に残っていたため、似たような趣向の本であろうと当たりをつけて手にとってみた一冊です。これもまた、独特の死と幻想の香り溢れる作品集でありました。
 収録作は7作。狂言回し的な共通の人物が登場したり、続きものの話もあったりはしますが、それぞれが独立した短編として読むことが出来ます。
 “おしろい花”の使い方が印象的で、植物が基本的に持つある種の不気味さを女性の情念に重ねた結果、古典的な怪談としての香りも漂う怨霊譚となった「夕化粧」、事故で五感を失い、その後、人形を作ることによって世界との接点を見出した青年が、五感を失ったということの本当の意味によって辿ってしまう傾きの運命が恐ろしい「ピカルディの薔薇」、ヤドカリとかああいう感じの生き物がたくさん出てくるのが生理的に受け付けられないひとは裸足で逃げて、な迫力が、個性溢れる女性のキャラクターと相乗効果で迫ってくる「籠中花」、美食、あるいは悪食、そんな食道楽のさまざまなかたちが語られるうちに、思いもよらぬ女性の最後の独白にたどりつき、それが奇妙にせつなく、腑に落ちる「フルーツ白玉」、何度も繰り返される夢の循環の罠が、奇妙な読後感をもたらす「夢三十夜」、もうひとつの世界へと扉を開く魔法の楽器と、一番の宝物の交換という取引のもたらしたものは…という「甘い風」、満州を舞台に、幻の女性との逢引とそれがもたらした諦念を描く「新京異聞」という感じです。ざっとした紹介ですが、わたしの一番のおすすめは「夕化粧」と「ピカルディの薔薇」かな。中井久夫とか、あそこらへんの耽美派の匂いがします。
 しかし7作のどれもが、同じ作者の手の元、同じように芳醇な香りを放つ題材を使いながらも、違った味わいで楽しむことができる作品だと思います。読んだ人によって、おすすめも変わるかも。耽美と幻想がお好きなかたにはおすすめです。

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