「溺レる」川上弘美(文春文庫)



 ぼちぼちと読んでいる川上弘美。そろそろ「蛇を踏む」を読まなきゃな。この短編集には8つの恋愛に関するお話が収められています。「おめでとう」に比べると、奇妙な味色が薄れていて、どこまでもぼんやりとはっきりとしない世界のなかで、それでも生活の匂いは鼻先にまで漂ってくるよう。その貧乏臭さが、わたしには生々しい。なのでちょい苦手かも。
 たとえば、心中し損ねて生きながらえてしまった相手を100年思い続ける「百年」や、不死の存在となった連れ合い同士が寄り添い暮らす「無明」も、その幻想的な設定が、男女のかかわりの生活臭さと肉体の関わりをよけいに際立たせているようです。それが良いというひともいるのだろうな。或いは、そういうひとにとっては、幻想的な風味は単なる味つけにすぎないのかも。しかし、これがなかったら、昔のいわゆる日本文学ぽい、覇気のない男女が繋がりあって離れたり離れなかったりというものと変わりがないような気もする。

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