「出逢いが足りない私たち」内田春菊(祥伝社・フィールコミックスGOLD)



 ものすごく久しぶりに内田春菊を買いました。もうこのひとのマンガは買わないと思ってたんだけど、ネットやチャットが舞台ということもあって、手にとってみた次第。
 えーと。まず、イラストレーターのよんよんとタレントの吉沢陽子の関係は?どう重なりあってるのかが疑問。わたしの理解力が足りないのか?このひとの得意な「可愛こぶってれば大丈夫と世間を甘く見ながら、うまく行かなかったら泣いて逆ギレ」な女の子が主役です。が、昔だったらそういう女の子をとても巧みに(それこそ自分の隣にいるようなリアリティで)そして不気味なくらいに描いてたと思うんですが、これじゃただの馬鹿な子だろう…。さらに、そういう子が本当の自分を誤魔化せて男にチヤホヤされるチャットの世界に没入してしまううちに、自分と他者とHNの境界線がどんどん曖昧になっていく展開は面白いけど、その線引きが作者にも曖昧になっているような訳の分からなさです。正直、どういうお話かよく分かりません。あと、絵が…なんでこんなに雑になっちゃったんだろう。ペンでさらさらと描いていっただけ、みたいな。とほ。
 と、文句ばかり書いてしまいましたが、それでも感想を書きたかったのは、ひとつ、とても印象的な場面があったから。
 いい加減で馬鹿で快楽だけを目的に暇つぶしで色んな男とセックスをする主人公が、本当に好きな男に、眠れない、という話をして「淋しくて?」と訊かれた瞬間、きつく目を閉じて「>うん」「>さみしいの」と思うシーンです。本当に云いたいこと、でもあえて「>」で頭の中で思うしかない。それを伝えても、相手は冷笑するだけの男だから。そしてそういう男が、彼女は好きだから。
 その場面は、ああ、さすがに内田春菊だと思いました。こんな風に、このひとは、人間のどうしようもなさとかズルさとかを救い上げるのがとても巧いひとだったと思います(過去形)。やっぱ「物陰に足拍子」が最高で、いま思えばあの作品だけでもよかったのかもしれない…。

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