「夢幻紳士【迷宮篇】」高橋葉介(早川書房)



 向かうところ敵なし(わたしにとっては)の高橋葉介の最新作です。どんなに文庫で同じ本を再販して、描き下ろしがスズメの涙であって、収録作が統一感なくっても、許しちゃうくらいに、いまの絵が好みです。ええ、これまでの葉介ファンの多くが、きっと固唾を呑んで「先生…?」と思っているであろう、いまの版画みたいにかすれた効果も好みです。ぜひこの勢いで、画集!画集!(希望の雄たけび)
 もちろん、絵だけではなくて、この作家さんの作風も構成も台詞遣いも、なんというか、素晴らしくわたし好みであるのです。いつも云ってますが、こういう夢と現のあいまを行き来して世界を再構成するやりかた、たまらないのです。今回は、主役たる夢幻魔実也氏が、見えない敵に命を狙われ続けるという珍しい(いや、こういう正攻法で狙われるのって珍しくないか)展開であることも手伝って、また不思議な雰囲気の一作にもなってます。まあ、多少小道具は変わっても、やってること変わりないといえば変わりないんだが…。さらに、いまどきこんな大時代なことやってくれるひといないかもしれないんだが…。それはもう高橋葉介の作家性ということでひとつ(便利な言葉だ)。しかし、台詞や見得のきりかたひとつひとつが、ケレン味たっぷりで、実にたまりません。もう本当にこれがわたしの理想の楠本柊生だよ…(しくしく)。
 今回の三部作はこれで一応おしまい、ということになりました。もちろんこのシリーズは大好きですが、これでなくとも、高橋葉介のようなマンガ家が新作を発表し続けてくれていることはとても嬉しいことです。これからも期待して待ちたいと思います。

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