「愛しあってる2人」田中鈴木(ビブロス・ビーボーイコミックス)



 世に溢れるボーイズラブではありますが、そのなかでもこういう一筋縄でいかない作家さんが好きです。
 単にラブなストーリーを描いても幸せで楽しいひとなんですが、それだけでなく作品のあちこちにのぞく暗い視線が、個性であり魅力です。わたしはそれほど熱心なジャンル読者ではないのでズレたことを云うかもしれませんが、このジャンルにありがちなトラウマや虐待というテーマを小道具に使うのではなく、キャラクターの自然な背景としてそういう問題を扱える作家さんだと思います。明るく癖のない絵でストレートなラブも描いてくれるしね。ボーイズラブ描写もキスていどなので、ハードな描写が苦手なひとにも安心して読んでいただけます。
 この短編集は、『死』に関係する男が続けて登場する二編(暗い話と明るい話と対照的でありながら、ラブの重さは変わらない)、田舎から出てきた正義の味方とかれを慕ってやってきた幼馴染の話(これが一番元気も良くてボーイズラブっぽい。年下に背を追い抜かれてイラ立つ年上属性のかたとかおすすめ)、UFOを信じる幼馴染の少女と彼女に恋する男の子の話で構成されていますが、最後の非ボーイズラブ「加奈子の話」が、わたしとしては一番参った。なんてひどい話を描くんだ…。なんて救いのない、辛い話なんだ…という風に、これを読んだひとのどれだけが感じるか分かりませんが、わたしにとってはたまらなくブルーのツボを押してくれる話でした。『置いていくもの』と『置いていかれるもの』というテーマにとりわけ弱いせいだとは思います。そういう属性のひとには、この一話だけでもおすすめ。

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