「変愛小説集」岸本佐知子編・訳(講談社)



 ここに集められたのは10の愛の物語。ただし、そのどれもが一筋縄ではいかない奇妙な愛を語っており、だからこそのこの書名といえます。
 妹のバービー人形に恋する思春期の少年、心を惹かれた男の子を文字通り飲み込んでしまった人妻、身体が宇宙服に変化しはじめた恋人をやるせなく見守る男性、飛行船に連れ去られた恋人を捜し求める若者などなど、その姿は、さまざまです。が、いっけん歪んだ思いに捉えられがちなこういった情熱も、またひとつの愛のかたちであるには違いない。そう思わせるだけの完成度が、どの作品にもあると思います。
 そんななかで、わたしが気に入ったのは、片方が木に恋をしてしまったカップルの葛藤が、瑞々しい口調で語られるアリ・スミスの「五月」、安楽死を望んだ妻とその夫、運命の夜に同席した若い女性の関係が行き詰ってしまうさまを皮肉に、けれど必然的に書いた、ジェームズ・ソルターの「最後の夜」、島に住む女たちの人生と繰り返しの運命が最後で打破される、ジュディ・パドニッツの「母たちの島」の二編です。どの作品も、時に生々しく、しかし絶妙に現実からずれていて、その距離感が好ましい。 
 また、個人的に、こういう海外文学は、ときに幻想味と不条理感が強すぎて、うまく乗れないことが多いのですが、この本は、そういう意味でも入りやすかったです。ここのところ、キングのいう「想像力のバーベル」を軽く持ち上げることが出来るように、幻想味のある小説にチャレンジしようとしているのですが、これはなんとか、攻略かな。

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