「谷川俊太郎質問箱」谷川俊太郎(東京糸井重里事務所・ほぼ日ブックス)



 WEBサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」といえば、かの糸井重里が主宰し、そこからの関連書籍やグッズも多数知られている人気サイトです。この本はサイトに連載された読者からの質問とそれに対する谷川俊太郎の回答をまとめたものです。ちょっと分厚い装丁と可愛らしいイラスト(江田ななみ)、読みやすい構成が、ウェブサイトに掲載されたものでありながらも、手に持つ書籍のかたちに変換される意味を示しているような気がします。
 詩人、谷川俊太郎といえば、いちいち説明するのも大変な日本を代表する現代詩人です。詩人として評価を受けつつも、同時に一般人の膾炙する作品も豊富というのは、やはりすごいひとなのだと思うのですが、わたしがいま唐突に思いつくこのひとの作品でいちばん好きなものは、坂本龍一が曲をつけ、ビートたけしが歌った「たかをくくろうか」(YouTube)です。
 世の中で、詩に関する感想ほど、書く意味を見出すのが難しいものもそうないかと思います。どれか作品を差し出し、それを味わうこと自体がすでに雄弁な感想であるような気がするから。なので、ここでは、わたしが気に入ったいくつかの質問とその回答をご紹介することで具体的な感想に代えようと思います。本には全部で64の質問と回答がありますが、楽しみを奪わないためにも、三つだけ。お気に入りはひとそれぞれになるかと思います。
質問1 車、飛行機、そのあとに続く乗りものって、まだないと思うんです。ぼくたちはこれからいったい何に乗ればいいんでしょうか。
答え 雲に乗るのもいいし、/風に乗るのもいいし、/音に乗るのもいいし、/気持ちに乗るのもいいんじゃないかなあ。/機械じゃない乗りもの、/手でさわれない乗り物が/未来の乗りものです。
質問11 「大人」になるということは、どういうことなんでしょう。谷川さんの「大人」を教えてください。
答え 自分のうちにひそんでいる子どもを恐れずに自覚して、/いつでもそこからエネルギーを汲み取れるようになれば/大人になれるんじゃないかな。/最低限の大人のルールは守らなきゃいけないけど、/ときにそのルールからはずれることができるのも、/大人の証拠。
質問24 もし、谷川さんが会社の人事部の人なら、入社試験でどんなことをしますか?谷川さんなら、何て訊くのだろう?とても興味深いです。
答え 質問も話しかけることもせずに、/柔らかい表情で/黙って相手を二分間ほど見つめる。/それから、その二分ほどのあいだに/相手が何を感じたか/
何を考えたか訊いてみる。

 WEB上では、百の質問やバトンなど、形式が定まった問いに答えを寄せる類のテキストが流行ることがあります。しかし、この64の質問に、こういった回答を寄せられるのは谷川俊太郎だけでしょう。言葉のプロに対して当たりまえすぎる感想かもしれませんが、まったく、あざとくない。ひとりの仕事をしてきた人間として、問われたことに素直に答えつつも、その答えが自然と美しく、言外の意味を持つ言葉になっている。そんな回答がたくさん読むことが出来る一冊です。

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