「うまい犯罪、しゃれた殺人」ヘンリィ・スレッサー(ハヤカワ文庫)



 今ではスカパーなどで放送されている、一話完結のミステリ番組「ヒッチコック劇場」の原作として多く採用されたスレッサーの短編集です。
 これまでにも名前はよく聞いてたんですが、実際に読むのは初めて。ミステリと奇妙な味の中間のような味わいです。ヒッチコックといえば、最後のドンデンであっといわせる、というイメージがありますが、ここに収録されている多くもそんな感じで、そのドンデンに無理がなく、ハッとさせられるようなものが多い、良質の短編集です。機械的なトリックやひっかけではない、納得いく人間心理の綾を掬い取って見せるような、そんな「意外な」結末が多いような。
 個人的に面白かったのは、自分の姪が、殺人の罪で終身刑になった男と文通で愛を交わしていたのだけど、その男が脱獄したという知らせを受けた婦人の取った行動は…という「ペンフレンド」、金を得るために父親の旧友に近づいた青年が金よりも大事なものを得た「信用第一」、競馬で作った借金のために世間知らずの夫人が死に物狂いになった結果とラストでの夫人の行動が何よりも恐ろしい「競馬狂夫人」など。全部で17篇が収録されています。短い愉しみが得られます。

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