「新・幻想と怪奇」ローズマリー・ティンパリー他 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1824)



 「恐怖」をテーマにしたアンソロジー。さまざまなシチュエーション、ジャンルの恐怖譚が17編収録されて、読み応えあります。以下、お気に入りの作品について。
 「闇が遊びにやってきた」(ゼナ・ヘンダースン)
 「びっくり箱」や「ページをめくれば」などの作品を読んだことがあります。それらの作品でもこどもが主人公になったものが多かったのですが、これもまたそのひとつ。砂場で遊ぶ幼い男の子が見つけた「闇」との戦いが、ダークな雰囲気たっぷりに、でもファンタジィ色が濃すぎて童話のような感じにはならないリアリティを持って語られています。
 「ひとけのない道路」(リチャード・ウィルソン)
 真夜中、他に誰もいない道路をずっと走り続けているうちに、世界から自分以外のすべての人間が消え失せてしまったとしたら?そのじわじわくる怖さとリアリティの部分が良かったです。そしてそこからまさかの展開に繋がるのだけど、すこし切なく、やはりほんの少し、怖い感じがします。
 「奇妙なテナント」(ウィリアム・テン)
 存在しない「13階」を借りたいと言ってきた奇妙なテナント希望の男たち。有るはずの無い「13階」は、希望通りにかれらのものとなり、その不条理が許せない主人公は…という展開。途中までは主人公の空回りがユーモアあって面白く読んでたのですが、最後で慄然。怖い。
 「悪魔を侮るな」(マンリー・ウェイド・ウェルマン)
 第二次世界大戦中に、ルーマニアに進駐してきたドイツ軍。城の正体は確かにすぐに勘づきましたが、これはもう分かって「いまかいまか」と楽しむ作品かと思われます。短い作品にも関わらず、雰囲気たっぷりでカッコいいです。
 「レイチェルとサイモン」(ローズマリー・ティンパリー)
 子供と暮らす未亡人に惹かれた男。しかし、彼女はどうしても子どもたちに逢わせてくれず…というお話。わたし的にはこれがこの本の中でベスト1。この作者は、他にも「ハリー」という怖くて切ないことこのうえない幽霊譚を書いていて、その名前を覚えていました(これは「幻想と怪奇 宇宙怪獣現わる」 (ハヤカワ文庫 NV) に収録されています)。


 この本にも、ほかに一篇収録されています(貞淑な妻の用意した夕食の戦慄な正体が怖ろしい「マーサの夕食」)。しかし、この「レイチェルとサイモン」は「ハリー」に勝るとも劣らない、怖さと切なさに満ちているのです。幽霊譚でもあり、幻想譚でもある。でも、なによりも、最後の最後、主人公が一歩、そっちの世界に足を踏み入れる展開に、戦慄しました。ある意味でハッピーエンドだけれども…。この作家の他の作品ももっと読んでみたいのですが、解説によると数編の短篇が翻訳されているのみらしいです。勿体ない。
 読み応えのあるアンソロジーでした。雰囲気も世界観も異なる作品がバラエティ豊かに選ばれていますので、「恐怖」「幻想」に惹かれるかたにはおすすめです。

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