<amazon>
 公式サイトにずらりと並んだ曲の題名を見ただけで、なんかカッコいいなあ、と胸をときめかせた特撮のニューアルバムです。いつ出るかなーと思っていたらすでに出ていて、あわてて購入しました。ので、まだ数回しか通して聴いておりません。
 が、良いですよ。とても。傑作だと思います。
 最初の「地獄があふれて僕らが歩く」(なんて素晴らしい言葉!)が、三柴さんのピアノで幕を開けたときから傑作だと確信しましたが、オーケン独特の、負け犬だって本気で噛みつけば相手の喉笛だって噛み切れるぜ的な視線の鋭さがここにはあります。わたしにとっての特撮は、三柴さんのピアノとなっきーの轟音なんですが、そこらへんも文句なし。楽曲面では、過去の名曲「テレパシー」や「ヨギナクサレ」のようなドラマ性とはまた違い、もっと手堅くまとめられている印象です。そう、手堅い。わたしはオーケンがこんなに隙なく音楽をやれると知って、驚いてます。そこらへんはオーケンだけの力じゃないんでしょうけど…。
 あと、今回のアルバムがこれまでの特撮とまた違って思える点があります。わたしは筋肉少女帯もずっと聴いてたんですが、いつも「のほほん」的な遊び要素が邪魔だった。あれが好きなかた、あれがあるからこその筋少ってひとも多いとは思いますが、だからこそわたしは筋少のコアなファンには成り得なかったのでしょう。オーケンが筋少脱退後に作ったこの「特撮」でも、その匂いが現れると「んー」って感じでしたが、今回のアルバムは違うなあ。それが気にならないのです。
 恋する二人の心を、魔夜峰央の「パタリロ!」へのオマージュを添えて(いやホンマに)歌った「綿いっぱいの愛を!」とか、歌詞だけ読めば微妙にファナティックで、純朴なラブソングでありながら、なっきーのコーラスと切迫感のあるピアノとギターがそれを裏切る「僕らのロマン飛行」、「アリー・マイラブ」のダンシングベイビーズが大槻ケンヂと共に踊る「ダンシングベイビーズ」、歌詞だけ読んだら吹き出すこと請け合いの「江ノ島オーケン物語」、土曜夜8時へのオマージュがたっぷりつまった「回転人生テクレ君」、と、その手の曲が大半を占めていながらも、アルバム全体のこの手堅さは本当になんだろう。さらに、特撮の魅力のひとつであるストイックな物語視点で語られる曲は、前出の「地獄が?」と「死人の海をただよう」の二曲。そしてこの二曲の美しさは比例がないです。あ、あと三芝さんがボーカル担当の「さらばマトリョーシカ」は、「ギロチン男爵の謎の愛人」かと本気で思いました。
 しかしなんといっても「デス市長伝説(当選編!)」と「世界中のロックバンドが今夜も…」ですよ。ライブに行きたい。身もだえしました。特撮のライブに行きたいです。この曲を一緒に叫びたくて仕方ありません(笑)。
 手堅い印象があるぶん、これまでの特撮にあった破天荒な美しさと轟音が同居した奇跡のようなものは、色を薄くしているように聴こえるかもしれません。でも、それは分かりやすい色でなく、さらに純度を深めたために見えなくなっただけかもしれない。そんな濃さがあります。
 本当に、特撮のライブに行きたいです。微妙な日程でしか動かないのがホントに恨めしい…。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする